野を駈ける鹿は眠り姫の夢の中
- HOLi C -



00.君を繋ぎとめる





 -- side たぶんオレ --





おかしいな おかしいな

オレはだれだろう

あれ?“オレ”だっけ?
それとも“わたし”?

よく、わからない

そういえば よくみんなには「あかじし」と呼ばれていた気がするけど
それは本当に自分のことだろうか

たぶん そう、かも?
やっぱり違うかな

ねぇ、ジイサマ
ねぇ、セカイ

オレはだれだっけ?
なにかとても大切なことがった気がしたんだけど

ああ、また貴方と海が見たいよジイサマ





「立派な赤シシね。寿命をまっとうしたのねあなた」





だぁれ?

声がするよ
聞いたことあるような、ないような?

わからない

ああ
でもひとつ聞いてほしいな


「いいわよ。ここは願いを叶える店。さぁ、あなたの願いはなぁに?」


ねがい?
ちがうよ

オレはね、ただ聞いてほしいんだ



う〜ん でも
ああ、ごめん
少しだけ眠らせて

 すごく すごく 眠いんだ


起きたらきっと話すから


「ええ、そうね。まってるわ。貴方の夢が良い夢であることを祈ってるわ」


ゆ、め・・・――

そう、だね
オレはきっと“どこか”で眠っているんだろう

オレはだれかの夢
そんな存在なのかもしれない


「大丈夫。赤いシシは天寿を全うしたの。きっと、よい夢を見ているわ」


うん うん そうだね
あのね オレさ 主がいたんだよ
人にももののけにも平等で――

ああ、でもオレ、やっぱり死んじゃった
動物だからしかたないけど
アシタカやサンをおいていってしまった

おいていかれるの、つらいのしってたのになぁ

オレはただの動物で
森に生きる神たちとは違うから

気合じゃぁ、寿命を延ばすなんてさすがに無理だったみたい



ねぇ
少しだけ眠らせて
そうして起きたら話を聞いてよ


ずっとね
長い長い夢を見ていた気がするんだ








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