有得 [アリナシセカイ]
++ 字春・IF太極伝記 ++
01:ハジマリノハル
<詳細設定>
【弥生春(ヤヨイハル)】
・転生し続けている成り代わり主
・芸名「春」/戸籍名「花」※真名は別にある。
・口癖は「バァーカ」「フハッ」
・ロジャーと運命共同体
・前世から引き継いだ“超直感”は健在で、未来予知並みに勘がいい
・ナニカ視えている
【睦月始(ムツキハジメ)】
・花の相棒
・笑い上戸
・魔力がとても巨大
花『ねぇ、これ。料理店の撮影だよね?』
始『何度も聞くな』
花『ん〜。ならさ。わざわざ、オレは眼鏡をはずさなくてもいいと思うんだけど。そこんとこどう思う?』
始『役柄というよりは、ビジュアル重視の依頼だ。相手側からのたってのたのみだ、勘弁してやれ春』
花『おかしいな。美味しそうに食べる、食べ物を紹介するっていう話のはずなのに・・・・・なんでビジュアル?なんで眼鏡はだめなんだろう?ねぇ、おいしいものを紹介するのに眼鏡ありってダメなの?』
恋『春さんの真顔www眼鏡論議が真剣だwwwwwww』
新『春さん、今回は本体なしで撮影かぁ・・・』
陽『たのむ春さん!“変なもの”だけはみないでくれ!(gkbr)』
〜 side 春成り代わり主 〜
とある大型チェーン店のCMにと、明るくて活気のある年少組が選ばれた。
今回はまたアニメイト―――ではなく、とある全国展開している中華料理の店だ。
中華料理店というだけあり、“美味しそうに食べる!”それが今回のCMのコンセプトであり、駆や恋が一番に選ばれた理由でもある。
躍動感ある《動》の二人だけでは面白みがないと、正反対の《静》を求めた結果、なら年少組まるっと使おうということになったのが、今回の発端である。
なお、CMは年少組だけの出演となるが、チェーン店のチラシや雑誌等の紹介では年長・年中組が参戦し、店を盛り上げることとなっている。
期間ごとに広告に出るメンバーとオマケのグッズもかわる。他のグラビ&プロセラの両メンバー全員参加のコラボ企画である。
―――CM&写真撮影の衣装合わせ当日。
衣装を手掛ける側から、できるだけ全員分の採寸調整などをまとめてしたいとのことで、グラビ&プロセラのメンバー全員そろった衣装合わせが行われた。
撮影のコンセプト。店のイメージをまず聞かされる。
そこでなぜか弥生花もとい弥生春の眼鏡はやめてくれといわれ、真剣にその有無について話し合いがもうけられた。
なぜ眼鏡はダメなのか。
結論。野暮ったいとのこと。
それから、しかたなく今回の撮影では眼鏡なしのレアな弥生春が使われることとなった。
おちこんでいる花をよそに、店のメニュー内容などの資料を優雅に足を組んで椅子に座りながら眺めていた隼の腹が、突如ぐーっと音を立てて笑いを誘う。
隼『これはこれは。美味しいイベントだねぇ。ほら、僕のお腹が桃まんがたべたいと声を立てているよ』
海『あとでな』
隼『すごくおいしそうで・・・ああ、できれば割引券とかあとでもらえないものかな?広告出演のお礼とかで。できれば顔パスは、無理かな?』
海『無理だから!あきらめろ隼(苦笑)』
スタッフ(以下ス)『ここにある小道具バンバンつかっちゃっていいですからね!好きに飾りつけしてみて下さい!』
奏『ふふ。今回は12人もいるので、さすがに洋服の詳細デザイン案が確定しないんだそうです。今日の衣装合わせをもとに、そこから個人個人の手直しを加えていくそうですよ。なのでみなさん、どんどん案が浮かんだら出していってくださいね。それをまた企画会議に出していくことになりますので』
駆『つまり、本当にここにある小道具を自分の好きに使っていいと』
恋『うわーなにそれ!めっちゃたのしみ!』
海『なぁ、このパンダのぬいぐるみも使っていいのか?』
ス『はい!もちろんです!』
陽『おー!いいなそれ。ならそのパンダのぬいぐるみかして!んーっと。よし!葵ちゃんの肩にくっつけておこう』
葵『え!?俺?夜にしてよ』
陽『無理。いま夜仮縫い中で衣装係さんにつかまっててさー』
花『今回はみんなで中華風の衣装なんだね。オレ、こうゆうのはじめて着たよ。ねぇ、オレ身長高いけど大丈夫かな?ところで眼鏡はまだつけちゃダメかな?…まずいものが見えそうなんだけど』
葵『眼鏡はあきらめましょう。っていうか春さん、なにも視ないでぇ!!!』
隼『人工物を一枚はさんで見ると、そういう"ふしぎなもの"は視えないらしいからねぇ。はずしてるいま、春がナニカ視えてもおかしくないね』
駆『あ、サイズは大丈夫そうですよ春さん。裾も問題ないですね。む。腰があまりすぎて、逆に太って見える・・・よぉーし!春さん、後ろをリボンでしめっちゃいましょう♪ついでにこの飾りもしちゃいましょうよ』
陽『ぶふっww葵ちゃんパンダつけたままwww』
葵『あ』
花『うぐっ!?か、駆たんま!や、やめて。しまってる!しまりすぎてる!なかみでるぅ!!!!』
駆『うわぁ!ごめんなさぁい!!(汗)』
撮影の趣旨を語られ、その見本となる料理の映像を見せてもらった隼がうっとりと端末を見て口端の涎をぬぐう。
それに苦笑しつつ、鼻歌を歌いながら、あまったパンダのぬいぐるみにいたずらで眼帯をつけはじめた海。
裾の長い洋服を面白そうにみながら、花はたのしげにくるくるまわって衣装を確認する。
その微調整をおしゃれリーダーを自称する駆と恋がああでもないこうでもないと、リボンやる布やら帽子やらをだして飾り付けていく。
花の傍で陽にパンダをつけられた葵がその様子を微笑ましそうに見ている。
衣装係から渡された首飾りを隼が「ふむふむ」と興味深げに受取り、楽し気に鼻歌を歌う隼の独自的価値観で首飾りはメンバーの数名に配られていく。
恋『紙の束と中華。いや中華っていうより、これは!こう、帽子とかにはって・・・・か〜け〜る〜さ〜ん
みてみて!お札はって、キョンシーにもなれそうっ!』
駆『あはははやめてよ恋!こわいこわいwww』
新『そのメモ帳をかせピンク!これをこうしてっ!!どうだ!いちごの札だ!大丈夫ばれない!・・・ハズ!』
小道具と用意されていた丸い帽子に、そこらにあったメモをてきとうに切って札のようにくっつけた恋が、手を前にやってピョンピョンと両足ではねながら衣装に合わせてキョンシーのまねごとをし、逃げる駆に飛びつきじゃれつく。
達筆というか適当感あふれる感じで札っぽいものをかいた新は、その一番上の部分にイチゴマークをひそかにくみこみ満足そうにそれを見つめている。本人は撮影の時にこれをどこかに張りたいと心の底から思っていた。
始『・・・恋。キョンシーはしゃべれないんじゃないのか?死体だし』
着付け中のため動けない始からは、真顔で見事なツッコミがはいる。
これが普段笑い上戸な愉快犯だと誰が気づくだろう。と、いわんばかりの真顔である。
普段から仕事では隙を見せず、笑いの衝動さえこらえて(いるがゆえに)真顔でいる彼らしい表情である。
プライベートでは隼と一緒に笑いのネタをさがしては、いたずらをしかけて、ことあるごとに噴出している始だが、仕事でそのような私情をまったくといっていいほどみせないため、ファンたちからはなんでもできるイケメンで色気たっぷりなクールなリーダーという認識がされている。
だが、根は愉快犯。
だから今回はまずスタッフがだまされた。
「さすがは真面目でかっこいいリーダー!睦月始だ」「キョンシーひとつにさえ妥協がない」っと、納得していたほど。
花と隼をぬかしたこどもたちは、自分体のリーダーがどういう人間かをきちんと把握していた。
あれは「かっこいいリーダー」ではなく、「真面目にみえるだけの始さん」と認識した。
案の定、当の始からしたら《しゃべりもしない動くだけの死体など面白味も何もない》という考えのもとああいった発言をしただけである。
さすがの仲間たちもここまで始の考えを正確に理解できたものはほとんどいないだろう。
“つまらないものをみた”ということで、表情が変わらなかっただけ・・・という裏まであるのだが、それを正確に把握しているのは隼と、始の幼馴染みである花だけである。
そうして勘違いしたスタッフたちは、始を「まじめ」と判断し、「仕事モードに突っ込んではいけない」と、キャッキャと騒いでいるツキウタメンバーたちにつっこみをいれるものはいない。
微妙に始を勘違いしないで把握している仲間たちは、「まじめそうにみえる始」についてはさわやかに流すことにきめたのだった。
陽『まじめにみえるの、さすがだなぁ始さんは(苦笑)』
夜『こういうときの始さんは、異常に凛としたクールなイケメン以外の何者でもないんですけどね〜』
郁『ただ考えていることはきっとそうじゃなぁいんだろうなぁって、最近理解しました。そういうところだけが始さんって残念ですよね(苦笑)』
始『キョンシーはしゃべらないと思うんだが、そこのとこはどうなんだ隼?』
隼『ぼくにきくのかい?さぁ?キョンシーは魔界の生き物じゃないからねぇ。あ、でもゾンビは「あ゛」ってずっとうめいてたりするね』
新『って、ことは、やっぱりキョンシーもしゃべるのか?』
葵『んーやっぱりしゃべらないんじゃないかなぁ』
郁『キョンシーはしゃべらないのかぁ』
涙『そっか。じゃぁ、恋には無理だねキョンシー。恋おしゃべりだもん』
恋『ひどい!?』
涙『あ、もうしゃべった』
恋『(´0Д0`)!ならば!・・・(´・×・`)』
駆『これ、何分持つかな?(ワクワク)』
陽『いやいや、もういっそ恋じゃなくて駆がキョンシー役を交代すればいいんじゃね?』
夜『もう陽ってば。むしろいつキョンシーがでる撮影になったのさぁ』
葵『ねぇ、それよりだれかパンダとって!陽が肩につけたのがはずせないんだけど!!』
新『イチゴ牛乳が飲みたい。メニューにのせてくれたらこの店毎日でもかようのに』
郁『はは(笑)。さすがに中華料理店でそれはないかな』
始の言葉に悪乗りした恋が、キョンシーは死体だからとお口をミッフィーをして石のように固まる演技をする。
たぶん勢いあまってそのまま息を止めてるのでは?と、みんなが恋をちらっとみやる。
涙が面白がって突っついていたから、恋はそろそろ息を吹き返すだろう。
それをわかっていて駆がさらに恋の頬をつっついたりしている。
それから少しして、やはり口をしめると同時に息まで止めていたようで、うっかり息し忘れて恋が倒れたのだった。
案の定である。
いろいろと途中から愉快なことになり、隼と始が内心盛大に喜び、始終機嫌がよかった。
ところどころでやりすぎだといわんばかりの装飾をしはじめた者もいたが、そんな彼らをとがめるでもなく「みんが楽しそうならいいじゃない?」と“心からの笑顔”なら口出す必要なしという考えの花が、ほっこりした空気で見守っている。
海などは「そうやってお前がとめないから、あいつらが増長すんだろ」ととがめるが、苦笑を浮かべただけで、花の髪をくしゃくしゃとなでるにとどまる彼も彼である。
花『もうやめてよ海。せっかく葵くんがセットしてくれたのにやりなおしだよ』
海『はは。わるいわるい。あんまりにもふわふでなついwww』
花はいつまでなでてるきだと海の腕から何とか抜け出し、乱れた衣服をさっとただすと、床におちている始の服を目にとめる。
そこにはドン!と目立つ蝶のプリントがあり、まるで忘れられたのかを不満がるように存在感を放っていて目がはなせない。
否、“ように”ではなく、あきらかに存在をアピールしてる。
なにせあの蝶には意思が存在しているのだ。
花は蝶に苦笑を返すと、「忘れてたわけじゃないんだよ」っと上着を手に取り、蝶の模様をそっとなでる。
それだけで花は呼吸が少し楽になったように感じ、笑い返す。
ように感じた。のではなく、実際にその通りなのだ。
触れるだけで力が体にいきわたるように感じるのは、あながち間違っていない。
弥生花という生き物は、睦月始の“魔力”によって生かされている。
花とこの服に張り付いている蝶は運命共同体。魂の片割れである。
そして今彼が手にしているのは始の服だ。残り香のように始の“魔力”が染み込んでいるため、触れることでその魔力を花がとりこんだのだ。
この服の印刷に紛れている蝶の絵柄は、花の魂の片割れでロジャーという。ロジャーは実体を得たり何かに紛れ込むことが可能で、現在は魔力の多い始に張り付くことで遠隔で花に魔力を供給する役割をしている。
そもそも魔力とは何か。
この世界では、万物の生き物すべてに魔力が宿る。いうなれば魔力とは、この世界では生命エネルギーのことである。
しかし転生の影響か、この世界と魂がなじまず魔力を持たない花は、他人からの魔力がなければ死んでしまう。
その魔力供給源が始なのだ。
始は成長する魔力を持っていて、年々その魔力は増しているほどだ。
花と自分の分の生命エネルギーを維持するだけの魔力量を持つ始は、まさしく魔力製造機。魔力のない花をいかすための適任者だった。
つまり自分を生かす魔力の持ち主である始の魔力の片鱗でもとりこめば、花には当然その恩恵が与えられる。先程服とロジャーを通じて魔力を得た花が、体が軽く感じたのも必然ということである。
花『そうだ。ねぇ、始――』
服からではなくきちんと始から魔力をもらおうと、ともに始の身近なものに移してもらおうと、服を手に駆けよる。
字が始と隼のもとへとかけようと声をかけたところで・・・
ぱさりと何かが落ちる音で、
始が振り返る。
始『・・・春?』