も し も 話
[花悲壮] → ツ*キウタ



字春がウサギになりまして 03




「ごきげんよう。かわいい僕の黒兎たち」

「ど、どうしちゃったんですか春さん!?」
「いつもの春さんじゃない」


玉座の上に王よりも王らしく足を組んで腰かけ悠然と微笑む宰相の姿に、王子を先頭に謁見の間にやってきた黒兎たちが大きく目を見張る。

「遅かったね――〈王子〉様」

「!・・・貴方は、誰ですか?始さん、王は、本物の〈宰相〉はどこですか?」

「「え」」
「葵、それはどういう」

「くすくす。さすがはあの子がみつけた〈王子〉だね。大正解。今、この世界には王子が感じ取ったように、〈王〉も〈宰相〉も不在だ」

「正気に戻ってください春さん!」
「残念。オレは“しゅん”。もとから正気だよ」

「春さんを乗っ取た・・・そういうわけではないのなら、お二人はどこですか?あなたは春さんの姿でいったいなにをするつもりなんですか」
「・・・春さんじゃない?」
「!?王を!俺たちの始さんをどこへやった!!」
「春さんの姿で!なんなんだあんた!!」

「“オレ”も“僕”も同じ。大いなる意思。世界に漂う力の流れ。 ほぉら、ご覧。僕らは君たちとチガウモノ。黒くて立派な耳なんてなかったんだ。 だからといって、白くて素敵な耳があるわけでもない。そもそも“オレたち”は生き物でさえないんだけどね」


「僕は“春”や“隼”程、人間の世界には興味はないのだけど。 端末たちが今のこの世界を愛しているから、この先を見るのもいいかなと思ってね」

「まぁ、そうだね。簡単に言うと、王が不在になれば世界は傾く。だから君たちが言うところの"彼ら"のかわりだよ僕は、ね。 いまこの世界を支えているのは僕さ。ふふ、ああ、〈王子〉である君にはそれがわかるだろう?
なぁに。君たちは、君たちの王が還ってくるのをゆっくり待っていればいいだけさ」



――その間、この玉座は僕があずかろう。









【うさぎさんはウサギさんじゃなかった!?】
〜 side 兎王国 〜










字『やっほー隼!きちゃった♪ハイ、おとどけものだよー!超特急春さん宅急便で〜す!これで元気を出して隼!』

白兎王国。その王の執務室、そこで優雅に海と共に茶をすすっていた白い魔王は、部屋に備え付けられた鏡からバィーン!!とゴムが弾けるような音を立てて突如飛び出てきた黒い塊に思わず飲んでいた紅茶をのどに詰まらせ咳き込んだ。

なに今の音?
なに今のセリフ?

いったい絶対なんなの!?

現れた黒をみて、とっさに護衛である陽が剣を抜こうとしたが、それをむせつつ隼自身が止める。

字『大丈夫?』
隼「ごっほごほ・・・ごほ・・・一応さっきまでは元気だったし大丈夫だったけど、 ごほ・・・君のせいでごほごほ・・僕は今死にかけたよ。今度からもうワンクッション挟んでから声をかけてくれるかい“僕”」
字『ああ、ごめんね“オレ”。あまりにこっちの世界のオレが、“白いオレ”の命が危ないと伝えてくるものだからいそがなくちゃって思ったら。 つい―――そのまま鏡に飛び込んで世界を超えてきちゃったよ」
隼「ごふっ!?つ、つい?ついで君、なんて無茶を・・・僕らは確かに裏表の存在だけど。鏡って確かにそういう意味合いあるけど・・・え? 鏡で僕たちの世界って行き来できたっけ?むしろ鏡は映すものであって中には入れないよね?」
字『普通に鏡のなかにはいれたよ?隼が呼んでる!って思ったら鏡にも入れそうな気がしてね』
隼「勘だけで入らないでそんなところ!と、言っても無駄だったね。“君”はそういう子だもね。本当に君の超直感っておかしいよ?[世界]もそんな設定つけてないはずだし」
字『いや、まって。設定じゃなくて、元からついていたものだとしたら?
たぶん[世界]もアザナ因子をどこかに持っていたんだよ。そうじゃなきゃ、この世界に“アザナな春”は生まれなかったはずだからね』
隼「なら・・あれかな。僕らの母体である[世界]は、彼もまた“生命の神”の欠片だという。なら〈隼〉こそ君の遺伝子を持っていることになる」
字『なるほど。ならそのはじまりの〈隼〉を造り出した生命の神ってのは、〈オレ〉だね』
隼「そうなるね」

鏡から現れたのは、黒い衣装に身を包む2人の兎。
ひとりは彼こそ黒兎の中の黒兎!耳も髪も衣装もすべてが立派で黒く、漆黒の至宝と豪語しても違和感さえない極上の濡れ羽色の艶を持つ麗人。
飛び出てくるなりまくしたてるよう嬉嬉として話し始めたのは、どこかおっとりした優しげな淡い色の兎である。

そして隼と春のあいだでは二人しか通じない単語が煎れ乱れ、その場にいた者たちは途中から頭上にハテナマークを浮かべている始末。

字『それはさておき』

字『隼。きいて、隼。あのね――』


字『なまものは鮮度が命なんだよ!オレの勘とか関係なく!時間がたつと味が落ちるんだ!!!』


「「「は?」」」

字『配達員としては、ほら、いい状態で渡すべく早く届けなくちゃ!って思うものなんだよ。だから今日の突撃おうち訪問は許してね。
そんなわけで、はい。これうちの王様。まだ粋がいいからもう隼だけで世界を支えなくてもきっと大丈夫だよ』
隼「ようやく会えたね僕の対。――って言いたいところだけど、鮮度?え、なんかぐったりしてるよ彼。耳がへたってるよ!?」
字『うん。傍にいたからそのまま鏡にひきづり込んだからね。そのときの衝撃のせいでちょっと・・・』


一目見て全てを理解しあったのか。それとも互いのことは元から知っていたのか。
隼と同じような色合いの瞳をした黒い耳のウサギによって、あの魔王と恐れられ、かつ誰1人として彼のマイペースさにたちうちできる者がいなかったあの隼が翻弄されている。
そのふわふわな髪のウサギの足元では、黒のよく似合う美しい青年が、白目をむいてぐったり横たわっている。もはや耳はたれ、ピクピクと痙攣しているほどだ。
この部屋には王がいる。そのためいちおう警戒はとかずにいた陽だったが、どうも凛々しい方の黒いうさぎが哀れでならないと同情の視線を向ける。
というか、そんな黒の主をほっぽって謎の会話をする淡い色彩コンビの会話が謎過ぎて、陽は眉を顰める。

陽「なぁ・・・あいつらの会話ってさ、誰が誰をさしてんだあれ?一人称というか二人称というか、もはや中身も含めいろいろわけわからん。つか、あの意味不明な会話でよく会話が通じてるもんだわ・・・」
海「まぁおちつけって陽(苦笑)
それにしても・・・驚いたなぁ」
陽「あ?」
海「すごいと思わね?あの耳と尻尾。黒兎なんて始めてみたぞ」
陽「海。あんたは下がってろ。この国には王が、お前が必要だ海。黒い耳なんかみたこともねぇ。危険すぎる。あいつらに近づくなよ」
海「とはいうがなぁー。どうも隼の知り合い見たいだぞ」

陽「・・・いいや、そりゃぁみてればわかるけど・・・・・・・・・・ん?って、ちょっとまて。知り合いだからとかじゃなくてだな。そもそも――」


隼「ところで“しゅん”。昨日の報告、あれなぁに?鍋がどうのって」
字『んんん?あ、それオレじゃないよ。この世界のオレがね、物凄い徹夜したみたいで。なにか気が変になってたみたい』
隼「何徹したの春!?」




陽「つか、そいつら誰だ!!!!!」




字隼『「あ」』

隼「そういえば紹介を忘れていたね」
字『“オレたち”は、一目見た途端にあっさり理解しちゃったからね。色々と
隼「そうだね。いろいろと

陽「・・・お前らだけでわかってもこっちはなにも理解できねーからな!!」


字隼『「ふふ、兎は寂しがり屋な生き物なんだよ?だから対を求めただけさ」』


陽「は?」
海「いや、仲良きことはよきかなってのはわかったけどさ。お前ら、意味深なことで言ってないで、いい加減そっちの黒いやつすげぇー可哀そうだから。休ませてやれ、な?(苦笑)」

隼「ハッ!?そうだった!始!しっかり!あっちの“僕”の徹夜テンションに巻き込まれたなんて!」

陽「いや、だから誰だよ!!!」

そのあとようやく黒兎――始というらしい――の存在が思い出され、彼は少し休んだ後無事に意識をとりも脅したのだった。
しかしそこまでもワーワーと騒がしく一騒動があったが、それはまた別の話。





隼「――あー。ごほん。改めまして」

隼「紹介が遅れたね。彼は“反対側”の世界の王、始。僕の対だよ。
そしてこっちの彼が僕の半身で――」
字『春とかいて“しゅん”。春さんってよんでね。オレはあっちの[世界]です。実は代理で別世界から同じ魂が呼ばれちゃった別人格だけど、状況は把握しているから気にしないでね』
字隼『「ふたりで一つの世界だよ」』

「「「・・・・・・」」」

始「春。おまえ〈宰相〉だろう?それがなんで“世界”なんて」
字『ちがうよ。気づいたらなぜかヒトのお仕事手伝わされてて、気づいたら書類が山になってる執務室が最近のシンボルだけど。“兎王国のオレ”はヒトじゃぁないよ』

海「こっちにはそもそも〈宰相〉ってもんがないな」
隼「海の言うとおり。僕らのいるこの世界には、〈宰相〉という役目はない。この世界はいうなれば君たちの対の世界。裏側の世界。だからこそ本来は世界にそんな“役目”はないはずなんだよ」
始「なら、〈宰相〉というのは、なんなんだ?俺は、いや国のものはみな世界からの啓示で春が“宰相”に任命されたのを聞いている。それをきいたからこそ春は城に招かれた」
隼「あ、それはね僕の勘だけど。始、君はもしかして王になってすぐか、その前にヒトのふりをしていた春と会ったことないかい?そのとき何か春に約束をしたりは?」
始「・・・・ある。同い年ぐらいの子供が珍しくて、声をかけた」
隼「春、説明」
字『オレは・・・というか、あくまで“この世界のオレ”の記憶をちょこっと読み取っただけだから正確なことは分からないよ。
えっとね、「俺がこの国を変えて見せる。そのときは傍にいてきてくれるか?」って言われて、「じゃぁそのときはオレが始を支えてあげる」「絶対だぞ」「お城に行けたらね?」って会話があったみたい?でもあれは所詮こどもの約束だと思っていて。始が王になった後も“こっちのオレ”は人間のこどものふりをして町にいたけど、遊び相手の子供がいなくてね。一人遊びにあきてたんだ。暇でね。そんなとき、つい。うっかり約束のことを思い出して「オレが王様になった始を支えてあげたら、始はもっとオレと遊んでくれるのかな。ポジション的に宰相だね」「それもいいかも。宰相なら、なってあげてもいいかもね」って、独り言をつぶやいたら。啓示が発動した感じ?』
隼「あらら。心の声がもれて啓示となって響いちゃったかぁ」
陽「どう考えてもそれだろ」
字『ただの独り言だよ。それが“啓示”っぽく響いちゃって・・・まずいとはおもったみたいだけどね。まぁどうしようもなかったみたいだよ(苦笑)』
隼「この子、ちょっといろんな部分が抜けてるんだよねぇ(遠い目)
それで人間の振りしてお仕事して、あげく仕事のし過ぎで徹夜して、気が変になって・・・・僕の春は無事か、今凄く心配になってきた」

陽「・・・・・なぁ、俺はどこから何を突っ込めばいい?」

隼「ふふ。どうせだから聞きたいことがあれば全部聞いてくれいいんだよ」
字『そうだね』

字隼『「なにをしりたいのかな?」』

陽「なら・・・。言わせてもらうがな! そもそも反対側ってなんだよ!!! 対ってなんだ! 世界ってなんだよ!! 世界の意味が分かんねーよ! あと別人格ってなんの話だ!!!! 宰相って役割じゃないならなんだよ!? ヒトじゃないって、その眼鏡をかけた黒いウサギなんなんだよ!!! そもそも黒いウサギってなんだよ!! つかヒトじゃないはずのそいつの気が変になるほど仕事したって、それ世界大丈夫かよ!? そいつがヒトでなく世界とやらなら、その半分だって言う隼も何なんだよっ!?魔王とかいいわけきかないからな!!!さぁこたえろ!」
隼「おや、どれも的確な質問だねぇ」
陽「だからお前らは何なんだ!」

字『なにって』
隼「うん」
字『ねぇ』


字隼『「オレ(僕)たちは"世界"だよ」』


陽「双子かっ!いい加減ハモルな!一人ずつしゃべれ!」
隼「あ、ナイスだね陽!まさにそれだよ」
陽「あ゛?」
字『そうだね。オレと隼を人間的表現で表すなら双子が一番近いかも』

字『で、なんできたかっていうと。その双子の兄弟が、最近病気になって。双子による直感でもってそのことを受信したオレは、特効薬をもって慌てて世界を超えてやってきたわけだよ。簡単なことでしょ?』

海「病気って・・・・隼、お前調子悪かったのか?」
隼「あ、いやぁ〜あと1000年ぐらいは大丈夫かなぁって思うレベルだけど」
陽「規模!!」
隼「まぁ、このままいてったら世界が壊れちゃったなぁ〜って程度だから気にしなくていいよ。どうせ僕が死んだら春も巻き添えだ。[世界]が新しく作り直されるだけだし、そのころにはもう海もいないし。ほら問題ない」

「「「問題しかないっ!!!」」」

字隼『「?」』
隼「いまの、僕の説明、どこか問題があった?(春をみて首をこてん)」
字『さぁ?事実を言っただけだし(隼をみて首をこてん)』

字隼『「そもそももう始がきたしもう大丈夫だよ?」』

陽「だから双子かっ!」

字『の、ようなものだよ』
隼「うんうん」






* * * * *






黒兎たちの生きる表の王国――その玉座の間にて。

「ほぉら、ご覧。僕らは君たちとチガウモノ。黒くて立派な耳なんてなかったんだ」

そう言って、“彼”が帽子をとれば、もうそこに自分たちと同じ黒く長いウサギ耳はなくなっていた。
それに黒兎たちが驚きに言葉をなくしていれば、ふいに“男”が手を前にだし―――

パチン

“彼”が指を鳴らしたとたん、玉座に座っていた者の服装も何もかもが変わる。

ふわりとした柔らかい髪が、さらりとまっすぐに流れ、淡く色づいていた髪は抜け落ちるように色素を失い白くなる。
短い白い髪、白いレースが踏んだに使われた衣装。
髪の隙間からつるりとした肌色の耳が見え隠れしている。
じれったいほどにゆっくりと開かれた瞳は、春の物より色が薄く下手をすると金色と錯覚してしまいそうだ。
ふふ、とわらう声もいつもと違う。

玉座にいるのは、もはや春とは別人だった。

「君たちが言う春という子と、僕は、星の管理者だ。君たちの言葉で言う啓示を与える者――すなわち“世界”だ。正確にはその端末なのだけれどね」

「世界・・・」
「じゃぁ、貴方が始さんを選んだんですか。ん?春さん・・・も?」
「そう。春も端末のひとり」

「「「「!?」」」」

「ここは運命の女神が関与していないがゆえに脆い砂上の世界。そのせいでこの世界は常に崩壊の危機にあった。 バランスが保てない世界をなんとか維持しようと、僕は裏と表の世界に一人ずつこの世を管理するための端末を置いた。それが“しゅん”の名を持つものたち。
けれど裏の世界の端末の力が弱くてね、崩壊が思っていたより早くきてしまった。
今は、表であるはずの春が裏の世界の不足分を支えている状態だ」

「春さんが・・・世界」
「そ、それって、春さんってなんだかよくわからないけど凄い人だったんじゃ(汗」
「・・・なるほど!わからん」
「始さんと葵さんを選んだのもしかして春さん!?」

「そうだよ。春は本来“選ぶ側”なのに、なぜか〈宰相〉なんてものに“選ばれちゃってる”けど」

「あの、どうしていま春さんがいなくて、かわりに貴方がここに?」

ふてぶてしいまでの先程までの悠然とした態度はどこに行ったのか、“しゅん”と名乗った男は困ったように眉をよせて笑った。

「それねー。今回は“僕ら”がまねいたことだから、お詫びの気持をこめて、“王”が不在の間のこの世界の調整を担おうと思ってね」
「あ、やっぱりいま世界にお二人ともいないんですね」
「実は世界には裏と表があるって言ったけど、そのうちの裏側の崩壊を止めるために、春が始をつれていってしまったんだよ」

それはもう困ったとばかりにため息をつくと“しゅん”は、玉座の肘置きにくたりともたれかかり――

「でもね。本来ならあと千年ほどは安定期に入っていたはずなんだ。まだ裏の世界は保つはずだった。 が、どこかの誰かのせいでうちの春のあたまが変になっちゃってね。あの子、勢いに任せて世界を飛び出しちゃったんだ。
本来なら〈王〉や世界の調整を行うべき春が世界からきえたとたん、こちら側の世界は崩壊をはじめるというのにね。 まったく。あの子、そのことさえ忘れて行っちゃったものだから、彼の母体である世界そのものである僕がその尻ぬぐいをする羽目になったんだよ。
突然揺らいだ世界にさすがの僕も焦ってね、それで慌ててここにきたわけ」

働きたくないのに。
“しゅん”と名乗った世界を管理するものの本体であるという彼は、それはもう「疲れた」とばかりにだらりと玉座に寄り掛かる。
そんな彼ををみて、思わずその場にいた黒兎たちが視線をそらした。

春がそんな後先考えない突拍子もない行動に出るときは、今日に限らず稀にあるのを黒兎たちは知っていた。
そういうときの春は、仕事のしすぎでうまく頭が働かない状態にあり、彼らの予想の斜め上のことをしでかす。

ときには突然城にある鍋という鍋をかき集めてくるなり、王や王子が食事を共にする長テーブルにそれを並べ、火もなく空の状態だというのに「ご飯が炊けないんだぁ。どうしたんだろう?」と首をかしげていたり。
いつもと同じ笑顔で同じように会話をしていたはずが、目の前に始がいるのに「新、始を起こしてきて?」と、まったく普段と変わらないテンポで言いだしたり。
とある飯時など「今日のご飯もおいしいね」と綺麗な仕草でフォークとナイフを使いながら茶の入ったコップをきろうとし、道具が跳ね返されて不思議そうに首をかしげながら「おいしかったよ」と食べてもいないのに言い、「このお茶おいしいね」とメインディッシュの乗った“平らな”皿を片手で器用に持ちすすろうとしたり。ちなみにそのまま料理は皿から滑り落ちて春の膝の上にベッタリとおちていたが春は気づいていなかった。
またある時には、真夜中に突然王子と王の部屋に奇襲をかけ「お城の修繕をしましょう」と告げるなり、城の調理場を占拠し突然お菓子を作り始め、それを壁に塗ろうとしていた。

わけわからない。
そしてそのすべての奇行に対して、仲間たちが必死になって止めにはいるのが、稀にある珍事の一連の流れである。

“しゅん”は黒兎たちの様子に春の奇行の原因に彼らが心当たりがあるのを察し、さらに重くため息をついた。
「“おおもと”の“僕”は、はたらくの好きじゃないんだけどねぇ〜」と、さもえらぶってるのに疲れました〜とばかりにだらんと体勢を崩し、だらしなく椅子によりかかると、“しゅん”はさらに指をパチンと鳴らす。

すると謁見の間であった部屋が、突如様変わりする。
そこにひろがるのはまるで夜空だ。いな、夜空の中に浮いているような――それに驚く黒兎たちに、“しゅん”は落ち着くように告げると、あくまで映像を見せているだけでここはあの玉座の間であると疲れたような笑みを浮かべる。

「ああ、もう僕は疲れたんだ。ねぇ、きいてるかい?」

椅子に座っているだけのお前がなぜもう疲れているんだ。そうツッコム声はここにはない。 白の王国であればそんな鋭いツッコミも入ったことであろうが、真面目な黒兎たちは真剣な顔で頷くばかり。

「見てもらった方が早いから、この世界の成り立ちを君たちには知ってもらおうかな」

彼がツッコミが入らないのを心の中で寂しく思っていることなど知らず、黒兎たちは耳をピシリとたてて緊張感を纏わせる。
“しゅん”が指を大きく振れば、暗闇の中きらきらと輝く星々が動き、時間は進み星がぶつかり合ったり砕けたり固まったりして一つの星が出来上がっていく。 彼らの前にひときわ大きく青く輝く惑星ができあがった。
それを作るのは、美しくたくさんの翼をもつナニカ。白く長い髪と黒い翼をもつ青年。その横に水が人の女型をとったようなナニカが並んでいる。
翼のナニカと黒い翼の青年が手を取り合い、青い星を見守っている。水の女が星にむけ、手にしていたロッドを掲げれば青い星が輝いた。

「“しゅん”さん、彼らは?」
「凄い綺麗な青色」
「きらきらして宝石みたい。なんですかこの青くて丸いの?」
「葵の目の色見たいだな」

「その青いのは君たちがいるこの星だよ。
外にある暗闇は宇宙という。君たちの生きる星をふくめたそれ以外のたくさんの星々がそこにはあるんだ」

「これが・・・この、世界。―――凄い」

「そして彼らは管理者だよ。君たちや僕よりもはるかに高次元の生命体だ。
実際のところ彼らに肉体という概念はなく、ただのエネルギーの塊たちなんだけど。 まぁ、きみたちにわかりやすいように形のイメージをしてみたんだ。ちなみに翼の主は二人で一人の“生命の神”。女性型のが“運命の神”をイメージしたものだよ」

なぜ生命の神が二人いるかなんて野暮なことは聞かないでおくれよ。

「そもそも僕は彼らが作り続ける数多の世界の、それも沢山ある世界のそのなかのさらに小さな小さな星でしかない。 そんな僕が、神々の事情まではしるわけがないわけだけど。・・・・まぁ、知っていたとしても口にはしないけど」

「そ、壮大すぎてどこからつっこめばいいかわらかないよ!!」
「それつっこむ必要あるか?」
「む、むしろ壮大すぎて、俺、眩暈がしそう」
「葵さんしっかり!王子である葵さんまで倒れたら!俺はもう頭がパンクしそうなのにどうしたら!!」
「パンクじゃなくてピンクの間違いだろ。つか、しそうどころかもうパンクしてるだろお前のあたま」
「うっさい新!まだ!・・・・その、なんとか?春さんが啓示を与えてた偉い人で。世界を造ったもっとすごい神様は3人いるまでは分かったんだからな!」
「おーえらいえらい」
「棒読みやめて!!!」

「ふふ。相変わらず君たちは楽しそうだ。春が君たちの傍にいたがるのもわかる気がするねぇ。
さて、話を戻すよ。
彼ら生命の神と運命の神は実は仲が良くない。
なにせ運命の神とやらはかなり気まぐれでね。真面目な生命の神はそれが許せなくてよく喧嘩をするんだ。
かの運命の神はたびたび仕事をしないことがあってね、そう言う理由で彼女から運命(さだめ)の導(しるべ)をうけなかった世界の命は短い。
だが決められた運命がない世界は、常に生命の煌めきにあふれ、他にない成長を遂げる。
この世界もそのひとつ。
けれど運命という指針のない世界はどこも脆く、その弱い世界において生命の輝きは刺激が強すぎ、ある意味毒でもある。
だから、今回は“裏”の世界が先に崩壊を始めてしまった。 僕の配分ミスで、白い子の力がたらなかった・・・いや、“僕”はいつも“対たる誰か”を求める。 そういう風にできているから、この結果も当然だったのかもしれないね。
それのせいでこの世界が今壊れかけている。
あちら側が長く王が立たず戦禍にみまわれていたのも、崩壊の兆し。いまは隼が目覚めたからなんとか持ちそうだけど。それも限度がある。
春がそれをおぎなうことで、世界なんとかバランスをたもっていた状態だったんだ」

なのに―――



「君たち、春に何徹させてるの?」



壊れそうな世界。だから春がひとりで表と裏側の世界までも支えていた。 そのために端末である彼らは、毎日報告を怠ることなく本体である自分に世界の調整具合の経過報告をしてきていたのだが・・・

それがどうだ。
昨日は突然の鍋話だ。
そのまま通信は途絶えるし・・・・

「ねぇ、昨日の夜は鍋だったって本当?鍋を食べるのはいいんだけど、それで世界が壊れてしまってもいいの? ねぇ、うちの端末(春)がおかしいんだけど・・・・・黒兎、君たち本当に何をしてるのかな?」

ニッコリと笑った“しゅん”に、黒兎たちは青い顔で土下座したのは―――






* * * * *






「俺?おれは春だよ。はるさんってよんでね〜」

勘だけはいいアイドル世界の字春と入れ替わった兎王国の端末こと春は、黒く大きなウサギをだきかかえながら、ほんわかと微笑みを返す。
記憶喪失だと勘違いされかけたが、ひとまず精神だけ入れ替わってしまったということでおちついた。
どうやら徹夜のしすぎで兎世界の春はテンションがおかしかったらしい。
あまりの仕事のしすぎに、全グラビが泣いた。
入れ替わった原因は、あまりの疲労により魂がはじけてしまったのだろうと予測を立てる。
あらかた自分の世界について語った春は、職業病なのかこのアイドル世界の自分の振りをしようとこの世界について説明を求めたが、始によって「寝ろ」とアイアンクローをくらい、そのまま意識を飛ばしていた。

「スー」

『あ、おやすみ物理(gkbr)』
『大丈夫なんですかこれ・・・』
『大丈夫だ。手加減はした』
『春さん、お疲れだったんですね。一時間ぐらいしたら起こしてお茶にしようね』

その後、意識をとり戻し、すこしだけ気分がすっきりした兎の春は、アイドル世界の仲間たちと、始の煎れた美味しいお茶と葵の作ったお菓子を食べながら、まったりと異世界を満喫した。





――弥生春入れ替わり事件が解決し、ふたりの春の精神が戻ったのは、アイドル世界軸で目覚めてから3時間後のことだった。
なおうさぎ王国では3ヵ月が立っていたらしい。

うさぎ王国の春の精神は、若干癒されはしたものの、いまだその疲労をかかえたままであった。
世界を支えるための春がまいってしまっては、何が起こるか分かったものではない。
一番の対策としては春の仕事量を減らし、かつ戻った春が他社が見ても十分だと思えるほどにゆっくり寝てもらうしかない。
仕事も大事が、それよりも睡眠もとても大事である。

とりあえずウサギ王国の春を寝かしてやってほしいと、アイドル世界の仲間たちは切実に祈った。

その祈りが向こうの世界までとぢていたかは定かではない。



うさぎ世界の運命はいかに!?








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