も し も 話
[花悲壮] → ツ*キウタ



字春が海賊になりまして






「最近のグラビって、陸に上がるたび工具や木材集めに奔走してるらしいぜ」
「プロセラ以外にも、あの船を追い詰めるやつら現れたのか?!」





【 ギャグルート その後3 】





隼「ねぇ、ハルとハジメは、あのとき“ウサハル”が身代わりに撃たれたことが実はトラウマになってやしないかな?」

葵「あ、おひさしぶりですシュンさん。なってませんよ。あの二人はなんか自分の目的のために、うさぎを追いかけ続けてるだけですから」
海「クールだなお前」
駆「“ウサハルさん”というか、生きたモフモフに執念を燃やしているのは、ハジメさんでっす!」
恋「あ、でも一番、ウサギのぬいぐるみを大事にしているのは、ハルさんですね」

隼「それ、やっぱり身代わりに撃たれたトラウマじゃ・・・」


そうでなかったら


隼「目の前のこの光景はおかしくないかい?」





現在、Procellarumとの交戦中、割り込むように別の海賊船がやってきて、グラビの船から人質をとったのだ。
そのせいでハルとハジメが身動きできなくなってしまう。

呆れたのは、シュン・シモツキ。
なにせ人質とは――

「こいつがどうなってもいいのか!」

始「くっ!なんてひれつな」
春「身動きできない子を人質にするなんて!なんてことを!!」


人質?むしろ人間と言っていいのかは心底あやしいが、捕らわれた相手は十分にグラビのリーダーと参謀の動きを止めるのには役立った。
それほどの人物であるのだが。
人質にされたのは、誰でもない、黄緑の巨大なウサギのぬいぐるみだった。


春「うさぎさぁあぁーん!?」
駆「ぎゃー!待って!待ってくださいハルさん!おちついて!!今飛び出したらダメです!」

本日は皇子仕様(ハジメ作)なアオイ・サツキが黒いうさ耳をゆらして苦笑している。
アオイと剣を交えていた白の船の赤い船員ヨウ・ハヅキまで、思わずその刃をかため身動きをとめてしまうほど。

アラタ・ウヅキは深くため息をつくと、乗り込んできた敵船員を蹴り飛ばしつつ、ひらかれたままの船室に入っていく。
船室に潜伏していたらしい敵をはりたおし、外へ追い出しながら、食堂へ向かう。

新「おい、ピンク。なに侵入されてんだよ」

恋「あはは。いやーうっかりうっかり。ちょぉっとウサギさん用の新作衣装の準備で少し目を離したら、これで」
新「うちの年長、暴走してんだけどー。あれだれがとめんだよ」
恋「逆にそれならすぐに終わるでしょー。あーもう。せっかく洋服作ってたのに、侵入者に破られちゃったよ」

新「・・・お前も、うさぎ信者か」


――最近、SIX GRAVITYの船で手を出してはいけない存在というのがいる。
ウサギだ。

大きな黄緑のウサギに手をだすと、般若が現れるという。
その名もハル・ヤヨイという。

般若が出た後は、般若をサポートするために、“ウサハル”にドハマリしていたハジメ・ムツキが先に暴れだす。

コイ・キサラギの言葉通り、暴走した年長組をとめるのは、ウサギを彼らの手元に戻せばすむのだ。
逆にいうなら、ウサギが手元に戻るまで、ハルとハジメはとまらないともいう。

“ウサハル”にもウサギにも、一番はりついて手放さないのはハジメだ。
彼はモフモフしたものに愛をささげている。
あと生き物が好きだ。

ハルは、無自覚だ。
雑に扱っているようで、一番ウサギを大切に扱っているのが彼だ。
本人は本気で自覚はないようだが、どこからどうみてもハジメ以上に大切に扱っているし、優しく丁寧に使っている。
“ウサハル”が、ハルにそっくりであったこと。その忘れ形見ゆえか。 ハルは、残されたウサギのぬいぐるみを分身みたいに思っているのかもしれない。
自分たちをかばって撃たれた“ウサハル”の姿がかぶって見えてしまうのか、はたからみるとそれがトラウマになっているとしか思えない。 ハルがウサギのぬいぐるみにむけているのは、それほどの溺愛っぷりである。



春「うさー!」

夜叉のごとく駈けだしたハジメが敵を殴り倒しウサギを奪取すると、次にウサギを放り投げ、それを慌てた様子でハルが受け止める。
お見事と手をたたいたのは、カケルだ。

陽「あのさ、あっちの参謀さんが物凄く心配そうに抱き締めてるあれ、ただのぬいぐるみ・・・だよな?」
海「はは。モフリすぎて毛並みが凄そうだなwww」
葵「それなら大丈夫ですよ。あとでハルさんがブラッシングしてあげると思うので」
隼「なんだろう。ハルはどこに突き進もうとしているのかな?それともハルは、やっぱり“ウサハル”が本気でぬいぐるみになったと思ってるのかな(遠い目)」

葵「ハルさんのウサギへの愛はよくわからないけど、ハルさんはとにかくあのデカウサくんが大事みたいです」
新「無自覚だけどな」
陽「あれで。あれで無自覚だとぉ!?おいおいグラビは大丈夫なのかよ」
夜「ところでアオイくん、今日は素敵な耳だね」
葵「ハジメさんの試作品だけどね。手触りがまだまだなんだって」
隼「うわー・・・ねぇ、本当にハジメたちはどこを目指してるのかな?」

シュンが遠い目をしている背後で、年下組が苦笑を浮かべた。


春「よ、よごれてない?どこか怪我してない?」
駆「大丈夫ですよハルさん!アオイさんがつくろってくれますから!だから戦って!」
新「糸はここに」
恋「布ならじゃーん。持ってきましたよ〜」

年下組がチャキチャキと準備よくハルからウサギを引きはがし、そのまま室内へ連れて行こうとするのを、ハルは不安そうにオロオロっとして手を伸ばす。
その手を止めるのはカケルの役目である。

駆「はーい、ハルさんはここでストップです」
春「でも。これ以上傷つくのは」
新「そのために室内にもどすんですよー」

春「でも」

駆「あれは“ウサハル”さんじゃない!ただのぬいぐるみですから!!!」

海「これは、だいぶ」
陽「大事にされてんなぁwwww」
隼「やっぱり心のどこかで、あれを“ウサハル”だと思ってるのかもね。だからウサが傷つくのを怖がる・・・みたいな?」
夜「あの様子を見ちゃうと、なんかそんな気がしてきたました」
隼「はぁー‥撃たれたあとに、“ウサハル”が消えたのはまずかったね。仲間を傷つくのを恐れるような子じゃぁ、なかったんだけどなぁ。僕のしってるハジメとハルがいない・・・」



ガキィン!

春「なぁに言ってるのシュン。トラウマにはなってないよ。うん、本当に」
隼「敵を圧倒し、斬り捨てながら。僕にいい笑顔を向けないでくれるかな」
春「ウサはね、たんに大事ってだけで(笑)・・・・・・ぶっちゃけハジメのようにはまってない。ハジメほど信者じゃない。ハジメほどラブじゃない(真顔)」
隼「真顔で近づかないで!怖いよハル!!」
春「いや、オレがどれだけあんなウサギバカと違うのを理解してほしくてだねぇ」
隼「じゃぁ、その刀おろしてから言って!!顔!顔が!僕の鼻がそげる!!!」

陽「少し前までは会うたびに死闘を繰り広げていたやつらがいまさらなにいってんだか」
夜「まぁ、ハルさんてひとは、きっと優しい人なんだよ」

始「まぁ、たしかにあいつは“ウサハル”より優しいがな。“ウサハル”は容赦なく殺生もする。あれはとめる方が大変だった。
ハルは生き物を理由なく殺すとか、傷つけるとかしたくないんだよ。本来グラビはそういうとこだ」

海「だったらさ、なんであいつあんなにウサギのぬいぐるみに必死になってんだ?」
隼「ぬいぐるみを“ウサハル”だと思ってるとしかみえないよね。だからぬいぐるみで、中身が綿だとしても、怪ついたら痛いのでは?とおもってしまってる・・・感じかなぁ?ハルは優しいからね」

葵「すみませんプロセラのみなさん。ちょっとうちの年長組が暴走してるんで!ついでに敵を倒してもらえますか?」
新「あわよくばそのままお持ち帰りよろ〜☆こいつら全員賞金首だし!」





陽「っと。これで最後だな。どれだけ船員がいたんだよ」

新「わー片付いたかづいた」
葵「山のごとくいますねぇ」

隼「ところでハジメは?」

恋「ハジメさんなら、向こうの船にのりこんでましたよ。」



その後、なかなか船から出てこないハジメを心配した仲間たちが、接岸していた船に乗り込み――

そこに広がっていた光景にさらに言葉をなくした。
ただひとり、ハルだけがパァーっと顔を輝かせて、嬉しそうな笑顔を見せた。

そこには大量のうさぎのぬいぐるみがあった。

むさい男たちが、ヒーヒーいいながら量産している。
ハジメはそこへ「ちがう!丸みが甘い!!」「そこはもっと縫い目を細かく!」「素材が悪質だ!!」などなど、とてもきびしく熱いチェックをいれていた。

隼「・・・これはどういうことかな?」
始「ああ、シュンか。悪いなそっちをほったらかしにして。こいつら、俺がウサギが好きだからと、ひるませようとしてウサギを量産していたらしい。だが、こんな裁縫技術では化け物にしかみえなかったので、ついな」
海「“つい”で、あんたは何をしてるんだ」
始「アオイ、それにコイ。こいつらに裁縫と工作の見本をみせて始動してやれ。徹底的に叩き込め」


ふっ、とそれはきらびやかな笑みを浮かべたハジメにより、その後、その船はウサギ製作所と化した。
ウサギ製作に携わっておらず、ハジメたちに敵意を向けた輩は海軍であるプロセラに押し付けられたのだった。

隼「・・・そっか。ハジメはオモチャ屋を開きたかったんだね。納得」
海「おい、シュン。お前まで現実から目を逸らすな」



春「お友達ができるよ!よかったね〜」

海賊ではなく海上工場と化したのち、しばらくして作業現場をのぞきにきたハルが腕の中の存在に向けて語り掛ける。
特大ウサギをだきしめていたハルだけが、量産されていくカラフルなウサギをみて、ほわりと嬉しそうに微笑んだのだった。

そんなハルをみて、シュンが難しい顔をする。

シュンたちプロセラがいるのは、敵の数が多すぎるため、プロセラの船で運ぶか残すかを選別するのに時間がかかっていたためだ。
そろそろ出向しようかというとき、シュンはウサギを抱きしめるハルに声をかけた。

隼「ねぇ、ハル。おちついてきいてね。君が抱き締めてるその子は、ただのぬいぐるみだって・・・わかってるかい?」
春「中身はただの綿だよ?」

隼「う、うーんそうなんだけどね。その、その子はもう変身もしないし、しゃべらないよ?“ウサハル”じゃないよ?」

春「わかってるけど。でも布を破られたり刺されたらいたそうでしょう?だからついかばっちゃって」

その言葉にやはりハルはあの時、“ウサハル”が身代わりに撃たれたことでトラウマが。とシュンは確信する。が

春「だって・・・・・・汚れると染みになるでしょう。生き物と違って丸洗いとかしてやれないから」

隼「ん゛んん?」
春「この子が、“ウサハル”とかは思ってないよ。ワカッテルよ。だけど手放せないんだよ」
隼「依存や、可哀そうだから、心配だから・・・・・・・・・・・ではなく、ただ汚れの対処に不安を抱いてるのが、まさかの原因?」
春「そうだよ。だからトラウマとか依存じゃないって何度も言ってるじゃない」
隼「考えていた最悪なパターンじゃないけど!そりゃ普段の生活が塩水だしねっ!!そうそう納得できる洗濯は無理かもしれないけどもっっ!!!!!!!」
春「だってシュン、きいてよ!」

春「この布!すごい手触りいいんだよ!!!こんないい布、うってないもん!修復おいつかなくなったら・・・・・・・・・・もうモフモフじゃなくなる(青い顔)」

始「なんてことだ!それは一大事だ!!モフモフこそ正義!!ハル!ウサギまもれ!」
隼「ハジメ、いまどこからでてきたの?っていうか、モフモフの手触りを守るために、君たちあんなに・・あんなに必死だったの!?ねぇ!だれか嘘だって言ってよ!!」
春「大丈夫だよシュン!ちゃんとこの手触りは守り通すから!」

隼「僕は“うさぎさん”ファンじゃないよ!!」





 


始「ところでシュン」
隼「なにかなハジメ?ようやく海軍にもど」
始「らない。そうじゃなくて、これをやる」
隼「・・・・・・」
始「今回の、礼だ」

普段のシュンであれば、ハジメからのものは喜々として受け取っただろう。
しかしそのハジメの背後で、巨大な黄緑のウサギのぬいぐるみを丁寧にブラシでとかしてホクホクしている参謀の姿や、黒いうさ耳カチューシャをつけてる王子様のようなアオイの姿を見れば。
シュンの動きはビキリととまる。


渡された紙袋からは、ひょっこりと白いウサギの耳の先端がのぞいていた。





 




 




【オマケ】

海「なぁーシュン、知ってるか?最近黄緑のウサギをみると般若と殲滅者がついてくるらしい」
隼「ハルとハジメのことだね」

海「ところでシュン」
隼「なにかなカイ」

海「その頭なんだ?」

隼「ちょっと僕のことはほおっておいてくれるかな?(ニコリ)」
海「あ、ああ(汗)」

海「っと、そうだ」
隼「まだ、なにか?」

海「俺はそのウサギ耳帽子もシッポもつけないからな」





隼「なんだか最近僕は、ハジメたちがが何で軍を逃げ出したのかわからなくなってきたよ。むしろそんな疑問さえわかなくなってきたよ」








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