有得 [アリナシセカイ]
++ 字春・IF陰陽録 ++
3頁目 製作途中の加筆修正はよくあるノ談
<詳細設定>
【弥生春】
・転生し続けている成り代わり主
・芸名「春」/戸籍名「花」※真名は別にある。
・ロジャーと運命共同体
・前世から引き継いだ“超直感”は健在で、未来予知並みに勘がいい
・ナニカ視えている
・魔力がないので始に魔力を分け与えられて生き延びている
【睦月始】
・花の相棒
・笑い上戸
・愉快犯
・魔力がとても巨大
【霜月隼】
・黒年長とは小学生の頃からの仲良し
・愉快犯
・始の次に笑いの沸点が低い
・視えないが、魔力を操れる
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「月野鬼譚 華月陰陽録」
盤上に列ぶは陰陽師と、
彼らが使役する式鬼(シキ)たち――
秘術と策謀に彩られた京(みやこ)での
活劇にご期待ください。
「呪え 月影に隠れて
咲け 鮮烈なる命の華よ」
その島国では武士が天下人の誉れを
得ることはついぞ叶わなかった。
世の政は陰陽道を修めし者らの手に委ねられた。
貴族は己が高名を守らんがため究極を目指し、
民草は立身出世を希って研鑽に励んだ。
彼らを中心に文化が花開き、幾星霜を重ねた。
[公式 華月陰陽録 Storyより]
〜 side 霜月隼 〜
『あちゃぁ〜』
『どうした隼?』
『あ、いや。なにかに"追いつかれた"ような気がしただけだよ。たとえていうなら、「公式サイトがついに出来上がって、そこに設定が一部アップされた」かなぁ〜ってぐらいかな。"人物設定"ではないからこのくらいなら"僕たち"にはしばらく影響がないから気にしないで』
『あぁ?いまいちわからんが、そういうもんか』
『そういうもんだね』
生まれたばかりだった世界に、シナリオがどこかで追加された。
それは着実に、この世界の正史となりえる台本がくみ上げられているという証拠。
そのシナリオの役者として完全に飲み込まれてしまえば、僕らは元の世界に帰ることができなくなる。
だからその前にと、ツキウタ。のメンバーたちを探して、僕と海は旅をしている。
『ひとまず始だけでもみつけたいんだけどねぇ』
始と僕という存在は強い。あまりに強すぎて、僕と始がそろっている世界のほうが珍しい。
二人そろって同じ時間の同じ時代のすぐそばにいるなんてことはまれだし、同じ世界に同一存在が存在しているのがまずいと言われるほど。世界の起点のひとりだ。
だから早々に会って状況を共有しておきたいのに、あの目立つ存在の噂話一つ聞かないときている。
なんとなくだけど、あの笑いの沸点がとんでもなく浅い我らの睦月始なら、それはもうマイペースに自由気ままに生きてそうだ。
笑いの沸点が低いという表現はよく聞くが、我らの始は「低い」なんてもんじゃない。「浅い」のだ。
どこかの世界には笑い上戸ではない睦月始なんているのだろうか。
もしかするとこの世界のシナリオが完全なものとなったあかつきには、睦月始は笑い上戸ではない堅物な生真面目キャラと定義づけられたりするのかもしれない。
『…そんな始なんて、僕の知ってる始じゃなくていやだなぁ』
『どうした隼?』
『いやぁ〜、なに、ね。あの始のことだからシナリオとか無視しそうだし、今頃元気に笑ってるんじゃないかって思ってね』
『あ〜〜…。あ、いつ愉快犯だしなぁ』
『うんうん。僕もそう思う』
『お前のほうがまだ始よりひどくないだけましだ』
たしかに僕も面白いことが好きだけど。
それはあれだよ。幼いころに死にかけまくってる春と出会って、あの子を笑わせようと必死になって面白いことを追及しているうちに、つい愉快なことを探すのが癖になっってしまっただけで。いや、それは始も同じなんだけど。
始は春の反応が面白くてやらかしているうちにあれが板についちゃっただけで。
そんな愉快なこと大好き人間な、笑いの沸点が激浅な睦月始が、今頃は何をしていることやら。
おとなしくしてるとは思えない。
なにせあの始だ。
愉快犯と笑い上戸を兼ね備えたやかましいのが素の、あの始だ。
なにかしでかしてるんじゃないかという気持ちがないわけじゃない。
あの始のことだから、へたすると帝とか貴族とか地位とかそういうのは一切気にしないだろう。元の世界ではないこんな異世界においては特に。割り切るのがうまい始のことだから、元の世界なら法律の範囲内かつ報道にさらされない範囲で行動していたが、そういった制約がないと判断したら瞬時に欲望に突き進みそうだ。
つまり、自分が楽しみたいからと、誰でもなんでもかまわず、笑いのネタにでもして、今にも爆笑していたりしそうということ。
そのせいで不敬罪とか食らって、牢獄にいれられたりして。
・・・・・いや、まさかね。
さすがにないよね?
睦月始というのが、そこまで常識知らずのはずもなく。
いやぁ〜でもなぁ。あの始だしなぁ。
アイドル世界でもないここでは法律もゆるいし週刊誌もないし…つまり醜聞を気にすることもない。
始にとっては、いろいろと我慢をしなくていい世界だ。
・・・あ、だめかもこれ。
いや、まてよ。春がいるじゃないか。
でもストッパーになるだろう春が、運よく始のそばにいるとも限らない。
この前「世界に取り込まれる前に!」と僕のもとに陽を担いで駆け込んできたとき、春はまだ始を見つけられていなかった。
そもそも始が何らかの事情でどこかにつかまっていようと、あの春だ。
あのときはまだあのときは始を見つけられていなかったとしても、春のことだから情報収集や超直感でもなんでも駆使して、やがては始のもとにたどりつくだろう。
もし始が何らかの事情で幽閉されていたり、見つからないような場所に封印なりされていようと、春のことだから余裕で脱獄ぐらいはさせてくれそうな気もする。
いける?
これはいけるか?
当然、常識と普通からかけ離れた存在である春ならば、この世界が生まれたてで、世界が物語を紡ぐための役者を探していることも気づいているだろう。
だから二人はシナリオから逃げることを選びそうだ。
『・・・・・あれ。あの二人ならいまごろ逃走中とか素でやってそうなのが、なぜかありありと目に浮かぶんだけど。あれれぇ?何だか、目からしょっぱい汁がでそう』
それはもうリアルに浮かんだ光景に、思わず目頭を押さえて、でそうになった物をむりやり引っ込める。
僕も楽しいことと面白いこと、笑える展開は大好きだ。
でもここで非常識を貫きそうな二人には敵いそうにない気がした。
あと、できれば、脱獄逃走劇とか、なにそれ、面白そうな気配がする。僕も生で見たい。
『はは。僕はどうやら仲間はずれのようだよ海』
『おいおい、脳内妄想もほどほどにな(苦笑)
お前がボッチなら、お前と今つるんでいる俺もそうだわ』
『それもそうか』
脳内の愉快な黒年長のことは置いておき、そろそろ僕は本当に始に会いたい。
あの愉快な甲高い笑い声じゃなくて、かっこいい始の声を聴きたい。
始のうたを聞きたい。
始のポスターをながめたい。始の抱き枕をぎゅっとしたい。
推しが足りない。
『はぁ〜スマホが恋しい。始に会いたい』
せめてスマホをこの世界にもってこれていれば、毎日動画や写真を眺めかえしたのに。
スマホといえば、ボタンひとつで遠くの人とやりとりできるのって、本当に画期的なアイテムだったんだなぁってこの世界にきて実感してしまう。
世界の法則にのっとって術者らしく式紙でもとばしてやり取りしろよ。と思うかもしれないが、知らない人間のもとに式紙とばせないんだよ。
広範囲探索に式紙や術を使うことはあっても、どこにいるかわからない誰かを探すために術を展開し続けるのは無理だ。
『推しが拝めない人生…つまらないよぉ』
『あーはいはい』
『海はわかってない!推しの姿を一崇められない日々の辛さを!』
『うーん。始ねぇ〜』
『そう!僕の最推しさ!始のことだから帝の一族とか、どこかの有力貴族とかにいたりしないかなぁと、僕も陰陽師になって陰陽寮に入り込んでみたけど、それらしいのいなかったんだよね。はぁ〜。本当に今どこでなにしてるのやら』
『この世界にいるってのはわかってんだよな?』
『そうだね。これは春も保証してたから間違いないと思うよ』
僕らの世界の春は、特殊存在だ。彼は転生を繰り返しているらしく、魂の格がもはや人間のそれじゃない。格上の上位存在といっても過言ではない。その影響か、彼には肉眼で“魔力”や"視えてはいけないもの"が視えている。そして異常なほどの的中率をみせる勘をもつ。
その春が「始はいる」というのだから間違いはないだろう。
『まて、隼。おまえいつの間に春に会ったんだ』
『ああ、言い忘れてたっけ。ほら、都を出るからって海が旅の準備に出かけてたときだよ。あのときに、陽が訪ねてきてね。というか、正確には気絶した陽を俵抱きした春が血反吐を吐くように家に飛び込できてね』
『おまっ!?陽にも会ってたのかよ!そういう大事なことは先に言えよ』
あれ。言ってなかったけ。
それはごめんごめん。
てへ☆としたら、海には盛大にため息をつかれた。
『あーそれで?春は元気だったか?春ならさぞ陰陽師として名をはせそうなものだけど』
『文字通り血を吐いてたよ』
『そうかそうか。って、うんん?』
『血反吐を吐く"勢い"でじゃなくて、血反吐を吐き"ながら"きたんだ』
『まじか』
『春は、術は使えなかった。というか、魂に宿る力が強すぎてそれを抑えるので必死だったみたい。それで陰陽師として知識もあるし、敵を滅するのはできるのに、術師ではないから名はあがらなかった』
あれは僕が世界に飲み込まれる前にと、京の都を出る決意を決めたときだ。
ちょうど帝から、最近増え続けるあやかしたちの原因と都に迫る危機を探れと調査依頼があった。
星見の陰陽師が、都に迫る影を察知したという。
本音を言うと、当時一番の術者たる僕と強い式鬼である海のセットを都の外に出すより、星を見るしかできないその星見を調査に向かわせた方が都は安心だったと思う。だけど僕としてはシナリオに従いたくはなかったし、なにより仲間を探し出したかったので、これ幸いと帝の密命をうけた。
その密命のためという名目で旅の準備を始めたとき、春が僕の仮の住まいに駆け込んできたのだ。
腕には意識を失って目を回している状態の陽をつれて。
本人は、ゴホゴホとせきこんではあたりに血をまき散らし、死にそうなていで、まさに転がり込んできた。
作業中にドゴン!と派手な音がして、気になって扉を開ければ、廊下には血だまりの中に倒れる二つの人陰があったときには、さすがにびっくりて言葉を失ったよ。
春は元々なの師れていた僕のもとに来るために旅をしていたらしい。その道中、シナリオに飲み込まれかけていた陽をたたいて正気付かせ、そのまま陽をかっさらってきたとか。そうして陽をかついで居場所を把握していた僕のところにきたが、春が血を吐いたあげく、それに滑って転んで二人で転倒。春は懸命に起き上がろうとしたようだけど、ちょうど僕が玄関の扉を開けたところで力尽きた。――というのが状況だったのだけど。
都一といわれる陰陽師の部屋の前に広がる血の海、廊下を傷つけるレベルの爪痕、二つの死体()。
いやぁ、あれははた目には凄惨だった。
おもわず、僕がいろいろ危ないことしていると疑われかねない!っと焦ってしまったほど。
海が帰ってくる前に術ですべて処理と修復したけどね。
証拠隠滅は大事。
『あの時の春は、色いろんなものを抑え込みすぎて肉体の限界に来ていて、死にかけカウントダウン間際って感じだったかな。どうも春は肉体が十歳ぐらいの頃からこの世界にいたらしくて、それはもう死に物狂いで自分の中の力を抑え込んでいきてたらしい。だから陰陽師としてはいままで名が挙がってこなかったわけ』
『始がいないのに、よく無事だったな』
『本当にね』
春は"視る"ことはできてもそれ以外の力の操作はできない。そういうのはそばにいた守護霊のロジャーさんか、始の役目だった。
アイドル世界でそうだったのだから、今回も自分で操作できないだろうと海は思ったようだ。
あれでもあの子、"抑える"ことには慣れているみたいなんだよねぇ。
そうなった経緯を考えると、どうしても苦笑がでてしまう。
『春の魂がこの世界にあわなすぎたんだよ。あ、今はもう大丈夫だよ!僕がケセラセラ〜っと』
『ああ、隼が治してくれたのか。それなら安心だな』
『いやぁ〜、さすがの僕でもケセラセラであんなの治せなくてね。なにせ魂関係だし。
でも春を生かすためには、格上すぎる春の魂の力を抑える必要があったわけだ。運がいいことに、力を抑え込む道具として最適なものがたまたま手元にあった。それでなんとか春の力を抑え込むことに成功したってわけ。僕も結構頑張ったんだよ』
『はいはい、よく頑張りました。で。春の力を抑え込む道具ってなんだ?そんなもんお前もってたか?』
『ほら密命と一緒に帝から賜った刀だよ。あれを春にあげたんだよ』
『あれか!浄化の力があるとかいう刀!都によからぬ気が集まってるから討伐してくれって依頼で、あれ帝からあづかった刀だろ!たしかに旅に出るときはないなーとは思ってたんだよ。え、国宝だぞ?よかったのか?』
『だからこそだよ。
この世界が生まれたてだってのは以前説明したよね。つまりこの世界はとにかく弱くて脆いんだよ。
そんな世界が、数千という時間を生きている春の魂にかなうわけがない。
だから対抗できうるものが必要だった。
よく「歴史の重みを感じる」とかいうでしょう。あれだよ。あの認識が必要だった。
"歴史ある"とされ、かつ"国宝"という認識がある御物なら、歴史が今生み出されていく最中のこの世界ではめずらしく、"確固たる存在"として“数千年以上存在している”という明確な年数を生きた物という扱いになる。
つまり。年数を生きたので力がある。
そう、ひとびとが信じ、設定でもそうなっている。
それがこの脆い世界においては、珍しく“脆くない強い物”となり、春の力を抑えるには適した器となったわけだ』
『なるほど。とにかく強い御物だったから、春にあげたってことだな』
『そうそう。そういうこと♪』
それに術を使うだけで、体の中の力が暴れるぐらい酷い状況の春は今後も術は使えないだろう。武器の一つも手元にあったほうがいい。
とはいえ、刀に春の力を移したことで、刀を鞘から抜いたら春の力が解放されてしまうので、また肉体に影響を充てるだろう。春にはめったなことがなければ抜くなとは言ってある。
まぁ、僕のもとまで無事に旅をしてきたのだから、今更武器をもとうがきっとなかろうが問題はないだろう。
次に会うときは、武器を使う侍として名をはせているかもしれない。
『で、僕らの状況を陽と春にも伝えたところ、シナリオに飲み込まれるのはまずいって二手に分かれることにしたわけだ。陽と春は、仲間を探しに僕の名が響いていない場所を。僕は帝の命をうけているけど、名を売りながら大々的に移動する。そうすればおのずと見つかるかもしれないからね』
『現段階で陽は人間か?』
『そうだね。春も陽も人間で、どちらも陰陽師としての素質は十分すぎるぐらいいにあったよ』
『そっか。それなら安心だ。あー!にしてもこの世界面倒くさいな!人間とそれ以外で次元が分かれてるから、探すの大変じゃねぇか』
『もし誰かが妖怪であっても、そこはおのおのの相方たちが引き寄せあうからきっと大丈夫さ。問題はバディの双方が〈異郷〉にいた場合だね。まぁご都合世界だからねぇ。そんな厄介なことはきっとないと思うけどね』
『そういえば陽が言ってたけど、最近あやかしの事件が増えてきているのは、〈異郷〉と人界との間の結界がほころびかけてるからじゃないかって』
ちなみにそれをきいた春がそのまま〈異郷〉に突撃しに行ったのは秘密だ。
あの子、人間なのに〈異郷〉に何しに行ったんだろう。
まさか…結界を壊しにじゃないよね?
壊されちゃうと、さすがの僕でも困る。
次元と世界と世界を分かつ結界の修復なんて僕には無理だよ。
『なぁ隼。結界のほころびがあるって、それ、俺らもそっちに向かった方がいいんじゃないか?密命の原因それじゃないか?ってことは、俺たちが調査すべきは結界だと思うんだが』
『そうだよ。都に迫る危機とか、あやかしが増えた原因とか全部結界のせいだよ』
『なっ!?隼、お前、しってたな』
『
いいのいいの。そもそも僕にはなんで結界がほころんでいるかとかわからないしー。調査に行っても無駄骨になっちゃうからね。だったら仲間探しを優先した方がいい。それに結界には春が向かったから、ああいうのは彼に任せておけばいいよ』
『ああ、春が…』
『……春、結界こわしたりしないよな?』
『それねぇ。僕もそこだけはすごく気になってる』
黒年長の個性が濃すぎて、思わず海と顔を見合わせて互いに苦笑とため息をこぼしたのはしょうがない。
* * * * *
『なぁ、隼。最近妖怪どもの話で始の名前が挙がったんだが』
『え!?始の!?ききたいききたい!』
『なんでも聞いた話によると、〈異郷〉の天帝の血筋に睦月始ってのがいるらしい』
『ようやく始の情報が!天帝の血筋ときたか!?人間の帝なんて目じゃなかったわけだ。
それにしても海はなんでまたぎぎなんだい?君だって〈異郷〉にいけるはずだけど』
『あいにくこの身体は《こっち》生まれなんだわ。俺、一度も〈異郷〉に行ったことがない。
ただ式鬼仲間経緯で、あっちの情報は入ってくるってわけ』
ただし、それが最新情報かは怪しい。
その頃、睦月始は牢屋の中にいたとか、隼と海がしるよしもない。
『お、ついに恋のやつが〈異郷〉で生まれたって。
で。今はもう《こっち》にきていて鬼式やってるらしいぞ。陽と夜からの情報だ』
『あーもう!なんか情報が錯綜しすぎてて、こっちに伝わってくるのにタイムラグを感じるんだけど!!』
『しゃぁーない。俺が〈異郷〉につてがまったくないからなぁwww
あ、面白い話。恋なんだが、あっちにいたときに始が武器を振り回すのをみて、金棒ふるうようになったらしい。とはいえ、どうも種族柄そんな重量級を扱えなかったらしくて、結局術で風を操りつつその補佐に巨大扇子をあやつるって方法にかえたらしいぜ』
『そういえばこの世界、武器を持ってる方が珍しいんだったね』
『そう。侍はマイナーかつド底辺扱いだからなこの世界。術じゃなく、物理…というか武器だな。それを攻撃に使うやつがいると、珍しがって結構話題に上がるんだよ』
『でもこれで恋もこの世界にいるのが分かったね。居場所もわかってるみたいだし、探しやすそうだからそっちにいこうか』
『やぁ、駆。ひさしぶりだねぇ』
『あ、隼さん。ひさしぶりです!』
『駆を正気付かせて、恋を召喚&契約して、恋も正気づかせて…ああ、あれからけっこうたつねぇ』
『おかげさまで、俺たちシナリオに抵抗できてます!』
『そういえばですね!最近Growthの方に会ったって話しましたっけ?』
『いやぁ、それは初耳だよ。彼らはシナリオのことには気づいてるのかな。駆たちのように正気づかせてあげるべきか。どうしようか』
『それなんですが、少しおかしいんですよ』
『おかしい?』
『はい。会ったのは恋で、それも会ったのは〈異郷〉で。しかもSOARAのかたもそろったALIVE全員が〈異郷〉うまれの妖怪だったそうです』
『んん?え?全員?』
『そうなんですよー。しかもその装いがどうも以前舞台で俺たちがやった「月野百鬼夜行」のそれで。そのままの設定だったらしくて。この世界には合わないなぁっていうか、なんかおかしいよねって恋と話してたんです。隼さん、何かご存じないですか?』
『・・・・・・この世界作ってるひとは、"僕ら"のことを知っている、ってことかな?』
『どうせまだ世界が作られてる最中で、明確な設定が決まってないから、どこかで聞いた設定や資料がたまた混ざりこんだんじゃないか?』
『さすが海!僕らの参謀は頭が回るね!』
『いや、あんだけこの世界は物語の中なんだ。作り途中なんだって言われてりゃぁおもいつくだろそんぐらい』
『えらい海!よくおもいついたね!…それで駆、ALIVEの子たちはその後こっち側に出てきてたりするかはしってるかい?』
『そこなんですよねぇー。どうも〈異郷〉を出た妖怪たちは、だれもALIVEメンバーたちのことを覚えてないようで』
『なるほど。結界を境になんらかの術がかかっているか。はたまたもう修正力で余計なものは消されてしまったか』
『俺や恋が覚えているのは、たぶんシナリオに飲み込まれてないからでしょうね。
いやぁ〜あの「シナリオに飲み込まれる」って感覚、あんまりもう一度体験はしたくないや。なんか意識はあるのに決まった行動と動きかしかできなくて。自分の意識じゃないのに体が動いてる感じで、体の中に意識だけが閉じ込められてる感じだったんですよぉ〜』
『げっ!それはイヤだな。
俺は自分の意識が目覚めた瞬間には、俺の意識で体を動かしてたからなぁ』
『それは僕のおかげだね』
『そうだな。召喚された瞬間に俺として自覚もあったし、目の前に隼がいたから助かったな。早々に現実を突きつけられたせいで、シナリオに飲まれる経験はないし』
『召喚主が正気な状態で召喚すると、召喚された時点で相方の正気も戻るみたいだね。それだけは救いだよ』
『ですよねー。へたしたら召喚してすぐに、相棒から攻撃されたり、敵意を向けられたりしてたかもしれないし。そう考えただけで辛い。俺なら泣いてます』
『夜のあの姿見たか?あれは絶対、強い妖だぞ。あれが正気を失った状態でもし出会っていたらと思うと。今の俺でもあまり止められる気はしねぇんだよなぁ(笑)』
『いや笑い事じゃないよ海。陽が夜を召喚した時点で正気に戻ってくれて本当に良かったよ』
『うんうん。あ、でも俺、こっちの夜さんにまだあったことなっかったや』
『まぁ、あれだ。うちのはなぁー明らかに人間じゃないし、恋みたくかわいらしい雰囲気は一切ない』
『ひぇ』
『正気に戻ってくれたおかげで、陽が血をながすこともなかったからいいけどね(苦笑)
僕としては大事な仲間たちが争いあうのは見たくないし』
『『いや、それはみんなそう』』
『かなり仲間がそれってきてよかったよ。早くみんなをシナリオから解放して帰りたいところだけど』
『そういえば・・・』
『隼さん、海さん、グラビ(うち)のメンバーの情報はないですか?』
『『・・・・はぁ〜。本当にそれなぁ/ねぇ〜』』
『え。何なんですかのため息は。まさか』
『まさかだねぇ』
『あー、わり。残念がらないんだよなぁ』
『うん。春には一回会ったけどそれっきりで。始に関しては一度噂を聞いただけで。年中組のほうはまったく』
『やっぱり』
『もしかすると、“世界にまだ取り込まれてない”かもな』
『まだこの世界に二人は来てないってことかい?』
『その可能性もあるってことだ。なにせこの世界、建設途中みたいなもんだから、どこでどう修正が入ってどう変更するか増築するかわからない状態だし。ないとはいえないだろ』
『なるほど。それもそうだね』
『しょうがない。とりあえず他のメンバー探しつつ、妖怪退治でもして僕らはあっちの方に行ってみるよ。
君たちは、京にむかってくれるかい。
陽にも春にも言ってあるけど、集合場所は京だからね』
『了解です隼さん!』
『やれやれだね』
『はは。先は長そうだな』
『“先は長そう”とは言ったけど・・・』
隼『嘘、だろ』
涙『あ〜隼がすごい顔してる。つんつん。愕然としてる隼、めずらしい』
郁『こら涙!隼さんのほっぺつんつんしないの。ごめんなさい隼さん!』
海『あれ?おっかしいなぁー(汗)』
陽『海、これはどういうことだ』
夜『聞いていたのとちがいません?密命で隼さんたち都を出たんですよね?』
海『あはは・・・おい、隼。どういうことだこれは』
隼『僕だって何が何だか』
隼『戻ってきたら“二十年もたってた”なんて聞いてない!!!!』
* * * * *
「呪え 月影に隠れて
咲け 鮮烈なる命の華よ」
その島国では武士が天下人の誉れを
得ることはついぞ叶わなかった。
世の政は陰陽道を修めし者らの手に委ねられた。
貴族は己が高名を守らんがため究極を目指し、
民草は立身出世を希って研鑽に励んだ。
彼らを中心に文化が花開き、幾星霜を重ねた。
――然るに転機は前触れもなく訪れた。
未曽有の大災厄・白き嵐が京を蹂躙し、
その地と民、天子の威光に深き傷を遺したのだ。
それから二十年。
京の再建は果たされたものの、
混沌の余波は政の安寧を未だ寄せつけなかった。
この窮状を打破せんと、時の天子は決断を下す。
政府諸機関に属する陰陽師と
彼らが従える式鬼にその力を競わせ、
最も優れた機関の長を
己が権力の傍らに置くことを布告したのだ。
かくして陰謀と秘術が絡み合い
陰陽大戦の幕が開く――
[公式 華月陰陽録 Storyより]