有得 [アリナシセカイ]
++ 字春・IF陰陽録 ++
1頁目 鬼ノ談
<詳細設定>
【弥生春(ヤヨイハル)】
・転生し続けている成り代わり主
・芸名「春」/戸籍名「花」※真名は別にある。
・ロジャーと運命共同体
・前世から引き継いだ“超直感”は健在で、未来予知並みに勘がいい
・ナニカ視えている
・魔力がないので始に魔力を分け与えられて生き延びている
【睦月始(ムツキハジメ)】
・花の相棒
・笑い上戸
・愉快犯
・魔力がとても巨大
※天帝のイメージは「鬼〇の冷徹」の閻魔大王(笑)
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なんてことはない。
これは"いつものこと"だ。
だからあとはなるようにしかならないし、なるようにさせる奴がなんとかしてくれるのだ。
なので俺ができることはただ一つ。
今は、"この瞬間"をいつものようにただ楽しむだけだ。
〜 side 睦月始 〜
この世界に、自分は突然いた。
ここは八百万の神や鬼や妖怪が住まう〈異郷〉と呼ばれる地で、人の世と〈異郷〉は隣接している。
これはいつもの隼か春が原因のすってんころりん超常現象にちがいないと目途をつける。
きけばここにも睦月始はいたらしく、ここでの睦月始は、天帝に連なる一族の鬼のひとりだった。
鬼だが天帝の血筋でいいのか!?と思ったが、まぁ、この〈異郷〉は人族からはみ出たものが人界から追い出されできた種族ごったまぜの領域だから異種婚とか普通にあるらしい。
なるほど、これがご都合主義か。
なお、天帝の〇〇番目の子どもが別嬪の鬼と結婚して生まれたのが俺らしい。
天帝に「神にも鬼にも人にもなれるけど大人になるころには選んでね?」と言われて、「人」はどこからきた?と思ったりした。
神族な父、鬼な母。人はどこから来た?隔世遺伝か?
そう思っていたら、鬼は角を折ると力を失ってほぼ人のようになってしまうらしい。つまり第三の選択肢はそういうことだ。
っというか、思うにそれらは混ぜてはいけないのだろうか。
そもそも俺は神と鬼の力両方が使えるのだが、いっそのこと「神鬼(シンキ)」か「鬼神(キジン)」とでもよんでくれてもいいぞ。
第四の選択肢を選ぶ!と叫び、力を披露した。
気分はカードゲームの伏せられたカードを開くときのワクワク感である。
両親の顎がはずれ、天帝おじいちゃんがとんでもない悲鳴を上げ、場が阿鼻叫喚に満たされた。
「この子ちから強すぎるぅ!やばいぃ!!〈異郷〉がこわれちゃうぅぅぅ!」
天帝の悲鳴が〈異郷〉中に響きわたった。
そこからは、どったんばったんの大騒ぎ。
天帝、父母を含め、親戚の力の強い叔父叔母やその姪や、天狐や仙人や鬼の統領やら…とにかく〈異郷〉の大物たちが緊急収集され、彼らによって俺の力は宝玉に封じられた。
なお、数名の高名なあやかしがぶっ倒れた。
「こうくぅーーーーんんん!!!!!!」
力がかなり強かったはずの九尾の狐な衛藤昂輝は、強すぎる力のせいで封印に力がひっぱられてしまい力を使いすぎぶっ倒れ、側にいた影法師の藤村衛が悲鳴を上げていた。
・・・思うに、君らとあそこの白澤の在原守人は、世界線が違くないか?まぁいっか。
そもそも何が悪かったんだ?と思わず首をかしげてしまう。
そうしたら息切れして、いまにも死にそうな天帝が説明をしてくれた。
親の種族が違う場合は、通常は片方の種族の力しか持たないという。
おっと。これはしまった。きっと、俺が別の世界からこの睦月始に憑依した影響に違いない。
きをつけねば(笑)
まぁ、力は危ないから「ないない」しましょうね。と宝玉にしまわれた後、ランタンにいれられた。
理由は簡単。
光が漏れてるのだ。
玉は青い炎のような光を放っていて素手は危険だし、その光に触れたものは炎と光で消滅されてしまうしまつ。
なおこれは、ひとりの尊くない人柱のおかげで判明した事実である。
なにがあったかというと、玉をなんとかしようとした移動の最中に、力の気配を感じ取りいづこからやってきた邪龍が宝玉を奪おうとくわえたところ――彼がシュっとそれはもうはかないマッチの着火音と同じ音を立て次の瞬間には塵となって消えてしまったのだ。
力のある玉を取り込めば力がつく。なんて思うのは個人の勝手だが、力が強すぎ玉に負けてしまったようだ。
ああ、たしかにこれはやばいな。あのまま放っていたら本当にこの世界消えていたかもしれないと納得した。
もう一度言う。
あれは尊くない犠牲だった。
天帝でも宝玉に込められた力をどうこうするのは不可能で、扱えるのは俺だけだった。
あげく強すぎたせいで〈異郷〉では、これを封じ抑える場所がないときた。
そのため「自分で力を制御できるようになってね」と、杖状にした錫杖にランタンをとりつりつけられ、それを持ち歩くことになったのである。
なお、封印具がランタンだったのは、光が漏れているから灯の代わりになるためとかではない。
封印の間なんてものをつくり部屋一つを封印するより、コンパクトに圧縮した方が封印の力が強まるという理由だったりする。
このランタンの格子はそれはもう高名なあれこれという名の術者が頑張って作った封印具で、世界樹の枝で作られており、世界で一番強固な堅牢である。
ぶっちゃけダイヤモンドやオリハルコンより硬い。硬いというか、世界樹は誰にも壊すことができないものとしてこの世界では定義されているため、つまり世界樹産というだけで物理で壊すこともどうこうすることもできないというわけだ。
ランタンの中の宝玉の光だけでも最強浄化能力があるのだが、物理においてこのちっぽけなランタンに勝るものはなかった。
もはや提灯替わりどころか、武器として役に立っている。トンカチやハンマーより便利だし、鉄球のついた重機モンケン並の威力も出せるので大物も一撃必殺が可能である。
俺の力を封じ込めているだけあって、この頑丈すぎるランタンは振り回せば十分凶器になった。
「いや!強すぎ!封印したのにあんまり変わってないよお孫ちゃん!」
「封印の道具自体を武器として扱うなんて聞いたことないです」
『後悔はない(キリッ)』
「息子よ。そこはキリってするところじゃねぇんだわ」
『だが母よ。これ以上の武器はない!鬼に金棒!まさにこれだ!』
「最近の鬼は金棒使わないかな。ははは(乾いた笑い)」
「規格外だ。ついていけん」
『あははははははwwwww』
「は、はじめさぁ〜ん!!!待ってください!」
「まってぇ!うちの子を連れて行かないで!」
「白澤様が誘拐されたぞ!!!」
あ〜、空の散歩は楽しいなぁ♪
っと白澤姿の在原守人にのせてもらい遠くに見える世界樹めがけて飛んでもらっていたら、地上から悲鳴が聞こえ、何人かがおってくる。
「誘拐!?」「勘違いされてますがいいんですか!」と白澤からもう帰ろうという視線がなげかけられる。
いやいや、せっかくの空の散歩だぞ。
あの世界樹まで行ってみたいじゃないか。
いつもどこまで行ってもたどり着けないから、これはさすがに空を飛ばないと無理かと思っていたところだったんだ。
「始さん、好奇心旺盛すぎです。もう帰ったほうがいいと思うんですが」
『祖父さんによると、世界樹の枝は本当に望んだ者にしか与えられず、あのふもとにたどりつけた者はいないとか。そういう設定なら、覆したくなるというもの!そもそもあの巨木の下に何かあるのか気にならないか!』
設定って何ですかぁ!っという白澤の悲鳴が空に響いた。
さすがにホログラムみたいな場所にいけるとは内心思っていなかったので、わるいとおもったのもあり、ある程度空を満喫させてもらったあと在原守人は先に帰した。
泣かれた。
地上で再会を果たしたSOARAメンバーたちが泣きながら抱き合っていた。
だから誘拐犯じゃないというに。
『・・・やはりあれはホログラムのようなものであそこに物体はないのかもしれないな。うちの"花"がいたら、ああいう"現象"や世界の理とかが、どう作用しているか一目でわかるんだろうが』
いないものはしかたがない。
"すべてが視えている"相棒がいないのだから、かわりに現場に行くかとおもったのだが、たどりつけないのだからどうしようもない。
現象の正体を把握し、世界の法則を知ろうと思ったが、それもあきらめるしかあるまい。
世界樹にはたどり着けない――これは何人たりとも覆せないこの世界のありようなのだろう。
こうなっては、この世界の法則など全く分からないままだ。
とりあえず、この世界においてわかっていることは一つ。
この世界は今、邪気という黒いオーラによって、世界がむしばまれかけている。
瘴気ともよばれるそれは、邪悪の心から生まれ、それが世界の生き物に取り憑き悪さを働いているらしい。
しかも瘴気から生まれた"厄災"が肉体を得て、世界樹を攻撃していて、世界樹が枯れかけている。
"厄災"はどんなに姿になるかは不明で、それと戦うのがこの世界に生きる者の役目のようだ。
――と、いうことらしいので、俺も日々ランタン振り回して瘴気の対処をしている。
なお、この世界では"武器"は、あまり主流ではない。
おかげで俺がランタンを掲げていようが武器を持っているとは思考がいかないようで、たまに無謀にも正面から襲い掛かってくる魑魅魍魎の類ががいる。
一撃必殺撲殺結果オーライですが、な・に・か?
武器に関してだが、特に人界だとその傾向が強い。
人々は侍であったことを忘れ、武器を捨て、いまでは術だよりの世界なのだとか。
いまでは、陰陽師という術者が幅を利かせていて、彼らは〈異郷〉の"強い者"を術でくだし、契約をして〈式鬼〉として使役しているという。
人権無視かとつぶやいたが、人権という言葉に周囲にいたやつらに首を傾げられた。
法律をもっと整備しろ創造主!と思った俺は悪くない。
そもそも〈異郷〉と人界の間には、世界樹により大きな結界があっておいそれと超えられるものではないらしい。
境界を超えられるのは、害の少ない小さなあやかしだという。
ならば陰陽師たちはどうやって強い人外の者たちと契約をしているのか。
一、召喚術。
一、もとから人界にいたあやかし。
一、なんらかの原因であやかしに転じた者。
ちなみこの世界に来てから、俺を喚ぼうとした奴が数人いる。
あまりに軟弱かつ弱すぎる召喚陣に、いらっとして召喚陣は破壊したが。
術が破棄された反動はあっただろう。それで陰陽師がどうなったかなんてのは残念ながら知るすべもないし、むしろ結界の向こう側の住民などどうなろうと興味はない。
こちとら、年中暇というわけではないのだ。
こちらの都合も考えない召喚に応じるはずもないだろう。
そもそも召喚陣が最初に足元に出たとき、俺は〈異郷〉の空を覆いつくさんと増えた"巨大バッタ"と格闘中だった。
空を飛ぶ妖怪たちの何人が、シッポや翅をむしられたことか。こちとら天狗の一族が絶滅しかけたぞ。
ランタンを横に一振りし蒼炎をだす。だが燃やしても燃やしても奴らは減らず、ほんとうにっ!!!!大変だったんだ。
その年、一部地域の食糧難はかなりやばかった。
あんな天災はもう勘弁してほしい。
いや、もしかするとあれこそが"厄災"の一つだった可能性もある。
陰陽師というやつらは本当にタイミング悪いんだ。
二回目のときは、天帝の宮殿の廊下を飾る装飾が金色で、メッキか本物か以前から気になっていたので確認しているときだった。
壺を掲げてかじれるのだろうかと口を開けた瞬間、顔の前に召喚陣がパッ!とあらわれたのだ。
腹が立って召喚陣にそのまま噛みついて、砕いた。
・・・おわかりだろう。壺と俺の顔を遮るように召喚陣があったので、召喚陣に向けた牙がそのまま壺を貫いた。
結果、壺は割れ、これまた天帝の悲鳴が響いた。
なんと宝貝(パオペエ)という仙人たちが作った特別な道具だったらしい。
そんな大切なものだとは知らなかったんだ。金メッキか知りたかっただけなんだ。
なお、その壺に封印されていた古代のナンタラ〜というのは、ランタンをフルスイングして抹殺した。
あいつも真っ黒な瘴気を放っていたので、厄災の一つだったに違いない。
『やれやれ。虫の大量発生にしろ、人間の身勝手な召喚にしろ。世界樹がどうとか…忙しすぎだろこの世界』
そもそも、俺はこんなことをしていていいのだろうか。
"帰る"手段なんてしりもしない。
とんとうかばないし。
こういうのは物語の定番として、世界樹を救い世界を救ったら何とかなるんじゃないのか?
そうはいうが世界樹は幻のようなもので、近づけもしないのに?
あー、なんか俺は頑張りすぎてる気がする。
寝たい。
はやく元の世界に帰りたい。
むしろ――
『人間には召喚術があるという。――――――おい、"花"。早く俺を喚べよな』