有り得ない偶然
++ アルナシセカイ ++
隼が世界を交差させた(下)
「春」成り代わり夢主1の世界…『漢字名』。
「隼」成り代わり夢主2の世界…「カナ名」。
―――ここは魔法が存在しない、ごくありふれた地球の、さらにそのなかでもせまいとある島国の上。
その一角で、魔法のような摩訶不思議な事件はおこっていた。
【むしろそれは魔法だ!】
〜side 夢主2〜
元バスケ世界の火神成り代わり主、もとい零(レイ)。現在“霜月隼”たるそのひとは、突然降ってわいた《弥生春》と《睦月始》をみて唖然としていた。
買い物に出かけたはずの二人の代わりにやってきたのは、瓜二つの容姿の別世界の住人。
字『面倒だからオレのことは、春じゃなくて《字》でいいよ。オレもそっちの隼のことは〈レイ〉って呼ぶから』
始『お?それが本名か?いやー初めてちゃんと聞き取れたわ。なにお前、本名《字》っていうのか。
ん?そうなると、お前の名前が普通に聞き取れて口に出せるってことは、“こっち”には本当に魔力ないんだな』
字『そうみたいだね』
始『にしても本当に難儀な体質だなお前。
魔力が視えるのに、魔力がすっからかんときてる。
しかも“あっち”の世界では万物すべてにかならず魔力が宿るとされる。
だから本来なら、かすっぺでも魔力がない人間はいないはずだから、魔力がないお前の名前をだれも認識できないって・・・やっかいすぎだろ。
ほら、ロジャーさん返す。いまならお前だけの力でもそばにいれるだろ』
字『始!そういうはじめの優しい気遣いが好きだよ』
始『・・・そう言いながらまったく俺は見向きもしないとはな。なんだ?俺は空気か』
字『ははは、うん。でも、ありがとう。“生かして”くれて』
始は、『ほれ』と洋服をぬいで春もとい字にそれをおしつけると、字は周囲などそっちのけとばかりに洋服に抱きついた。
それから始の服の蝶の模様を平らにするように広げると、そこにそっと手をかざす。
すると布に描かれていた蝶の部分が青く光りだし・・・
字『おきて――“ロジャー”』
字の言葉にこたえるように絵が布から浮かび上がると、青い燐光をまとった黒い蝶がふわりと舞いあがった。
しかし蝶は空中に出るとすぐに形をくずし、ただの青い光へと姿を変え、それは字の伸ばした左手にからみつくと、パッと光は弾けて消えた。
かわりに先程までなかったものが、彼の薬指にキラめいている。
それは透明感のある青いガラスかなにかでできた指輪だった。
字『お帰りロジャー!ああ!やっぱり側にいないと不安で!』
始『おうおう、おあついね〜。そしてやっぱり俺は空気かwww』
字『やだなぁ〜始ってば!そんな卑屈にならないでよ。始にはちゃんと感謝してるんだよ!』
零「・・・・・・」
シュンなレイが、チラリと視線をそらし、投げ捨てられた服をみやる。
蝶のガラがあった始の服は、なぜかぽっかりと蝶だけが消えていた。
それはもう。
まるで、絵の中の蝶が抜けだしたように、みごとにぽっかりと・・・
そうか。彼の服のもとの生地は灰色だったのか。
そんなことを、まるで塗り忘れのようにぽっかりと柄がなくなり、違和感がハンパナイ部分を見ながら考える。
そして〈レイ〉は思う。
嬉しそうに自分の指にはまる指輪を『ロジャー』と呼ぶ長身眼鏡を見つつ、何事もなかったように服を着直す始を見て――
零「それのどこが魔力ゼロなんだよ!!!!どうみても魔法だろうが!!!」
思わずツッコミ、叫んだのだった。
字『え?オレ、魔力ないけど』
始『そうだな。いまのは魔法でさえないし』
字『そうそう。ただロジャーさんを起こしただけだし。ほら、朝睡眠から起こすのに「おはよう」って普通に言うよね?それと一緒だよ』
零「いまのどこが“普通”なんだ!!!!」
そんなわけで。
なぜかわからないが、迎えが来るまで平行世界の住人の相手をする羽目となったレイであった。
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【ふたりの出逢いについて聞いてみた】
〜side 夢主2〜
始『は?俺と春の出逢い、だと?』
零「そう。あの“アザナさん”ですよ!
あの!
絶対無茶ぶりしまくったでしょ。前世ではとあるドルオタ属性の原作キャラだって性格改変されてたし!
むしろよく一緒にいれるなーと。
だってあの“アザナさん”ですよ!あの“無意識の原作破壊(とかいてアザナさんと読む)”とっ!」
字『なんかオレの風評被害が酷い』
零「間違ってない認識かと」
始『・・・こっちの隼はよくしゃべる“隼”だな』
零「あ、それより始、さん」
始『“さん”はいらない。話しやすいように話してくれていい』
零「ありがとな!」
始『あ、ああ(ニカっと笑う“隼”とかwww)』
始『それで?さっきのはなんだ?』
零「そうそう!さっきの蝶の件!!あれってやっぱりロジャーさんなのか?」
始『ああ。ロジャーさんだ。うちの隼が魔法で布にはりつけやがった』
零「ぶっふぉwwwリアルど根性ガエルwwwww」
始『だよな。さっきのみたらそう思うだろ。
使い魔とか守護霊っていわば生き物だろ。それを布にはりつけるとか、何者だってかんじだよ。
むしろ貼り付ける場所間違ってる。どう考えても春の服にしろって言いたい。
魔力の共有がどうとか意味わからん。なんで俺の服なんだか』
零「へぇ〜。あ、アザナさんが依存してる始・・・の服に。ってことは、始とアザナさんも幼いころからの仲だったりするのか?
ほら、アザナさんって依存するまで結構時間かかるし。
今回の対象は“服”だけど(笑)
やっぱり“こっち”と同じで、二人は幼馴染みだったりするのか?“こっち”の二人は中学の時に会ったって」
始『そう、だな。
・・・ああ、そうだ。中学・・・いや、“こっち”は小学高学年だな。
六?いや五年?・・・あれは、たしか体育の授業でとなりのクラスと合同で・・・(遠い目)』
始『"そこのひとあぶない!よけて!"と声が聞こえたかと思ったら、俺の顔横すれすれを超高速のオレンジの閃光がよぎったんだ』
零「あ・・・(察し)」
零「それって、"以前"の俺の相方のものまねかも・・・なんかスミマセン」
始『死ぬかと思ったぞ。
というか、それを無意識にキャッチした俺をほめてくれ』
零「よくぞ無事で。オレンジって、やっぱりバスケットボールか?」
始『正解だ。高速パスの練習してたとら起動がずれたとか、まじ意味わからん。
しかも春・・・当時は《花》ってよばれてたんだが。
あのやろう、ヘラヘラ笑いながらかけよってくるもんだから、俺は顔面向けてボールを投げかえしたんだよ"あぶねーだろ!"って。腹たってたし。
"あはは〜やめてよもー"っとへっらと笑いながら、俺のボールをよけやがったのはいまだに忘れない。
あいつが悪いのに、教師に怒れたのは俺だけとか・・・やりかえそうとした俺はたぶん悪くないと思う』
その別世界の始は、それから長々と字の愚痴をこぼし続けていた。
しかも当の字は悪気がないのだろう、そんな幼馴染みをただ微笑ましげに見詰めているだけだった。
レイは笑顔で始の話を親身になって聞いていた。
しかしその回想を聞いてレイは思っていた。
なんなんだこいつら。絶対いろいろおかしいだろ。っと。