有り得ない偶然
++ アルナシセカイ ++



隼が世界を交差させた(上)
魔力があり、隼が魔王の世界の「春」に成り代わった夢主1。
魔力のない世界で、魔王でない「シュン」に成り代わった夢主2。
魔王の隼のいたずらで世界が交差してしまう話。



【こちら魔力のある世界にて】
〜side 夢主1〜



こちら魔力のある世界。
月の女神たちが見守る地球にて。

愉快犯が3人。

雪のような白い髪をした青年は、香りが甘い紅茶を白いカップから優雅な仕草でコクリと飲む。
紫がかった黒い髪をした青年は、カップを片手にカラリと氷を鳴らしてワインのように彼ののどを優しく潤す。
ふんわりとした鶯色の髪をした青年は、周囲に花を舞わせるような笑顔で、温かいそれを飲んでいる。

優雅な仕草で、優雅な飲み物を・・。

とはいうが。
けっして雰囲気でだまされてはいけない。
そもそも彼らが飲んでいるものが、高級品だと誰が言った?
彼らが飲んでいるのは、しょせん紅茶と麦茶とコーヒーである。
しかもどれもがみな冷蔵庫にあったもの。
春もとい本名、弥生花のホットコーヒーなどは、すぐそこの自販機で買ったただのブラック。缶コーヒーだ。

睦月始のアイスティー(麦茶)は、寮の全員が飲めるようにと冷蔵庫に常備2リットル容器3つ分が入っている。そのうちの一つにすぎない。

一番美しい仕草で飲んでいるのにもかかわらず、霜月隼が飲んでいるものがもっともひどい。
香りが甘い?それももそのはず。フレバーティー?なんだそれレベルの、とにかくジュースのように甘いと評判の《午●の紅茶 レモンティー》だ。それも1リットル。
冷蔵庫の中にあったそのパックには、《30%割引き》のシールまで貼ってある。
隼はそれをカップにそそいで、地味に昨日からずっと飲み続けている。
彼がそれを買ったのは一昨日。そのまま一日まるっと存在を忘れていて、気付けば賞○期限は今日。 誰かにわけてしまえばいいものをそれをよしとしなかったがため、ゆえに、すべて今日中にそれを飲み干そうと、内心では本人必死だったりする。

現実は所詮現実である。
そこには雅の欠片さえないのだ。

彼らは今話題の芸能人であるが、周囲を寄せ付けない雰囲気を放つ白の魔王と、黒の王さまがいれば、 そうそうと近づこうと思う勇気ある者はいないため、かなりの頻度で一般人に紛れて外をぶらついていたりする。
とはいえ、ここは彼らツキノ芸能プロダクションに所属するアイドルたちの寮の、共有スペースである。
彼らの飲んでいる物と場所がわかってしまえば、なんのことはない。
世間を騒がす優美な方たちといえど、実際こんなもので、優雅さの欠片さえない普通の青年にすぎない。

周囲からは雅な茶会が開かれているように見えるその空間は、そこだけきりとられたようにまったりと時間が流れているようだ。
しかし茶を飲み交わしている彼らのうち王の名を冠する2人は、内心「この飲み物に●●をいれたらどうだろうか、周囲の反応がみたい」などとといたずらを考えていたりする。
外見の優雅さと中身が合わずギャップが酷いが、この世界線において二人は愉快犯である。ギャップの差もまた致し方ないといえよう。


そんな愉快犯三人のうち、いい加減同じ紅茶を飲み続けるのに飽きてきた隼が、白いカップの中に円を描いて揺れる琥珀色の液体を見てひらめいたように立ちあがる。

隼『そうだ月にいこう!』
始『はぁ?そうだ京都にいこう!みたいなノリで言わないでくれるか』

なお、彼の衝撃にめげずカップの中の液体も残りの(消○期限がヤバイパックの中身)も無事である。

春『ふふ。隼ってば紅茶が月にでもみえたの?』

剣呑とした始のに続いて、ふわりとした声が響く。
小さな子供を見るように目を細めて、隼の様子を楽しそうに見つめているのは、弥生 春。

ただしこちらは芸名である。
真名は誰も知る由もないが「字」という。真名については魂の名なので割愛する。
そして本名は「弥生 花」である。しかし魔力の影響でその「花」という名を聞き取れない者もいるため、アイドルとしてそれではダメだと会社が苦肉の策として彼に「春」という芸名をつけた。
彼の名が呼べないのは、この魔力に満ちた世界ならではの弊害で、つけられた名前と魂の間でなんらかの縛り、呪のようなものが命名の段階で発生してしまったためだ。
ゆえに彼の本名と呼ばれ方が違う。
それは大小かかわらず力を持つ者すべてにあてはまるようで、魔力を扱える者でもまれに彼の名を覚えられないこともあるほどだ。

仮名の「花」でさえ認識できないものがいるのだ。きっと彼の真名は、読み書きも聞き取ることもでず、声に出してそれを言うこともかなわないことだろう。

"魔力"とは、この世界で生きる者の誰もが必ず持っている物で、それによって域とし生けるものは生きている。生命エネルギーのようなものだ。
"弥生花"という存在は、その魔力に大きく左右される人間であった。
魔力があるものには名前が呼べないことしかり、肉眼で魔力の流れが見えることしかり。

まぁ、魔王を自負し、それだけの魔力量を持つ隼でさえ、彼の名は呼べても真名は呼べないのだから、名とこの世界の縛りは強固なものなのは間違いない。

そういった事情からか、芸能人とし活躍するようになった彼のプロフィールには、「花」の名は公開されていない。

始『おい春、隼をとめろ』
春『楽しそうだね。誰と月にいくのかな隼は』
隼『もちろん!みんなでさ♪』
始『春も隼も人の話を聞いてるか?
相も変わらず、隼、突然何なんだお前は・・・はぁー。無理だろう普通に考えて。
そもそもみんなってことは“Six Gravity”のみんなか?隼がはいるってことは“Procellarum”もか?
っと、いうか。そろそろ諦めてその《午●ティー》捨てろよ。
そもそも全員で月までって、いくらかかることやら・・・


――むしろあちらの月側にゲートをあけてもらわないといけないな。えーっとまずは女神に連絡して』


春『団体なら割安になるんじゃない?でもね始。そこで月に行くの前程で必要なことあげてく始も始だよ』

この始というのは、この世界線では春の幼馴染みである。あまりに幼少期から春の傍にいすぎたため始の思考は、おかしな方向へ暴走し、"面白いことが大好き"人間へと成長を遂げた。そして笑いのツボが激しく浅く、些細なことで爆笑する残念イケメンである。
とめるようにみせかけて、ちゃっかり月に行く気まんまんなのは、もう彼の愉快犯としての性分ゆえだ。
もちろんそんな真面目な顔して内心真逆を行く愉快犯である始と、家柄の都合で幼いころかよりそこそこ交流のあった隼もまた、 面白いこと大好き人間と化した。 字と始という二人と出会ってしまっては、さすがの上流階級のお坊ちゃま(隼)と言えど、こうなる(愉快犯)のも必然だったといえよう。

つまりこの突発的な月旅行への話は、この白と紫の王たちのなかでは、すでに決定事項となっているのだった。

春『そっかぁ、みんなで月かぁー。恋とかよろこびそうだね。
じゃぁ、ひなさんによろしく。オレは留守番してるから』

隼始『『!?なんでそうなる!?』』

のほほんと美味しそうに缶コーヒーをすすりながら春が笑う。
それに仲のよい王様たちが勢いよくそちらを振り向く。
春は驚いた表情の彼らに意味が分からないとばかりに不思議そうに首をかしげている。
これほど隼が"みんな"という言葉を連呼しているのにもかかわらず、彼は自分が月に同行するとはみじんも思っていないようだった。

春『だって月だよね?』
隼『月だよ』
始『・・・月?あ、そっか月か。じゃぁお前は無理か』
春『うん。お土産よろしくね始』

繰り返された春の言葉で、彼が何を言いたいのか察したように始が「それなら仕方ない」と、別の遊びの算段をはじめる。

隼『どうして留守番!?"みんな"で行こうって言ってるのに。春がいないんじゃ"みんな"にならないよ』
春『うーん。でも月だし。やっぱいけない、かな』
隼『なんでだ春!?せっかくグラビのみんなの休みも合わせたのに。パスポートなら僕にまかしてくれれば』
春『オレには無理だよ』
始『おちつけ隼。春はだめだ』
隼『身長が高いからゲートくぐれいないからかい?』
春『ふは。隼てば(笑)その発想はなかったかなぁ。
いや、うん・・・たしかにあのゲート、ぶつかるけど(遠い目)
はは、平均日本人用に作られてるからちょっとだけね。うん、ちょっとだけ頭かすめたぐらいだって』

春は一度行ったことのある月へのゲートを思い浮かべ、涙をのんだ。
何を想像してるか手に取るように分かった始は深くため息をつくと、春の頭をかるくたたいて正気に戻す。
イタイと苦情が来たがそれは無視した。

始『春もおちつけ。・・・身長じゃない。原因は地球だ』

月はいつも同じ面を地球に向けている。
そしてこの地球という星には、"力"で満ちている。
月はそのエネルギーをうまく循環させるために女神がいる。
そして弥生春はその"力"に翻弄されやすい体質である。
これらを踏まえて、月への旅行は春には無理だと言っているのである。
しかし春の体質を忘れているのか、隼は首をひねるばかりで、先程よりもさらに突飛な発想して見せる。

隼『地球かい?地球が原因ってことは、そういえば春は影響を受けやすい体質だったね。なら、春がいなくなると魔力のあるエネルギーの循環がうまくいかないとか? はたまた春が地球を離れると今度は別の場所の磁場の影響でうまくゲートが作動しないとか?』
始『どうしてそう規模がでかくなってるんだ。影響を受けるのは、春個人だけだ。
春の目にはなにがうつる?それでわかるだろ』

隼『ああ、そうか。そういえば』

始『ある面の月からはいつも地球がみえる。魔力を視覚化してみてる春の目には、地球は太陽のように眩しく見えるんだそうだ。 以前医者にもダメだしくらってたな。あまり魔力を見すぎるなって。失明するかもしれないからって』
隼『そっかぁ、春は見え過ぎちゃうもんね。



じゃぁ、まぶしくない世界とかどうかな?』


それはそれはい笑顔でつげた隼のだした解答は、もはや次元を超えていた。

春『わー。また随分と突拍子もない旅行先に変更になったね』
隼『あ。でもみんながいないとおもしろくないか』
始『隼。おまえ、今日はやたらと"みんな"にこだわるな』
春『みんなってツキウタの?』
隼『当然だよ。せっかく都合合わせての休みだよ。ここで何かしないではいられない』

春『じゃぁ隼の知ってる"みんな"がいれば別に月じゃなくてもいいってことだよね』

隼『そうだね』

春『っで、みんながいるけど、まぶしくない世界・・・』
始『そんなもん平行世界とかじゃないと無理だろ。魔力がある限り春の目には毒だ』
隼『だから魔力のあるない世界に行くんだよ』
始『あるのか?そんなもの』

隼『あるね』
春『うん。あるね』

始『そっか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふー。あるのか』

春『?あるのが普通じゃないの?』

始『いや、しらん』
隼『うん。僕もしらないなぁ。でも春が言うなら存在決定だね!
よし!早速行って、みんなと行くより先にちょっと偵察しておこう!どれくらい魔力がいるかな?ん。僕ひとりでたりる・・・のか?』
春『オレたちにむけられてるエネルギーを少し、こういじくればいけるよ』
隼『あとで女神に菓子折りでも持って、エネルギー借りったっておわびにいくことにするよ』
始『せっかくだから向こうの世界とやらの土産を月に持ってくのはどうだ?』
春『ひなさんにもよろしくね』

始隼『『どんだけ桃アが好きなんだ』』

春『え?好きな子?好きな子は自分をしっかり持ってて、NARUTOのいのさんみたいな子かな』
隼『い、いや、タイプはきいてないんだけど』

始『あきらめろ隼。春はこういうやつだ』
春『うん?ほら、ひなさんって可愛いよね。妹みたいで!』
始『もういい。このタラシ王が。お前はだまっとれ』

エネルギーがあたりまえでない世界にいこう。そうしよう♪と、と隣の家に行こうとばかりの気さくなノリで、ポンポンポンと軽く決まっていく異世界旅行。
別世界があるとかないとか彼らには関係なかった。
春があるといえばある。
隼ができるといえばできる。
それが弥生春であり、霜月隼である。そしてそれを無条件ですべて"できる"のだと信じて疑わず、むしろイケイケゴーゴーと彼らの背を押すのが睦月始である。

そうして生まれた愉快犯トリオであるため、すでに彼らの中では、月旅行ではなく別世界に行くという発想に切り替わっているのも仕方がないことだった。


春が楽しそうにお土産になにを買ってこようかとニコニコしながら話している横で、ついに紅茶をテーブルにおいた隼が、楽しげに空中で手を動かしている。
彼の目には何が見えているのだろうかと始はテーブルに頬杖を突きながら、なにかわからないものを召喚して自分たちに迷惑がかからなければ何でもいいとその様子を見守っている。

隼『よし!じゃぁ、このエネルギーを・・・えい!』

ふいに隼の指差したさきの空間にパッカリと縦の亀裂が開く。
穴の向こうはなにやら白くキラキラしたものが弾けたり、渦を巻いたりしている。
春が興味深そうにそれを覗き込もうとしたのをとっさに始が目をふさいで覆い隠す。
春とは違って魔力など見えないのが普通だ。それが始の目にもきっちりみえることで、その亀裂の向こうがここと違う空気であるのを察することは可能だ。

始『一発で時空に穴が開くとか。さすが隼だな』
隼『やったー始にほめられた(棒読み)っと、おふざけはここまで。ん!完成☆じゃぁ、座標は・・・って、春!?大丈夫?直視しちゃった?』
春『ん、始の手が邪魔で前が見えない。みてないよー』
始『おいこら隼。もっと左だ。あっちの方に"流れ"がたまってる感覚がある。その塊をうまく流してこっちの世界とつなげばいいんじゃないか』
隼『うーん。いつも思うけど、始は視えてないよね?なんでそう魔力の流れがわかるのかな』
始『春といるからだろ。慣れだ』

そうこうしている間に、時空の裂け目を覗き込む春と始の背後に、にこにこ顔の隼がまわりこみ――

隼『えい!』

始『!?』
春『わぁ〜。もう隼、突然はやめてよぉ・・・』

始はニコニコ顔の隼が近寄ってきたことに意図が読めず不思議そうにその行動を見ていたが、まさか春ごと空間の亀裂に突き落とされるとは思っていなかったようで驚いたような表情を見せる。
隼によって背中を押された二人は、勢いよくキラキラ輝く穴に落ちて行った。

隼『じゃぁ、偵察よろしくね二人とも。
あ!あとこれ持って行って!麦茶のパック!これ持っていくといいことあるかもよ!』

ふとテーブルのわきにあった棚にあった麦茶パックをみた隼は、何を思い立ったかその御特用パックのセットを一袋つかむと、勢いよく穴の中に投げ込む。
落下中の始がいち早くそれに気付き、見事な宝物線を描いたそれをキャッチした。
重い方が先に落ちるのが重力だと思うが、どうやら次元の亀裂のなかで重力は関係ないようだった。
それにほっとしつつ隼は「いってらっしゃい」と手を振る。
目をしっかりつぶっている春は首をかしげているが、始は隼に手を振りかえした。

こうして二人は時空の穴の向こう側へと消えて行った。
それを笑顔で、さらに手を振って見送る白い魔王がひとり。
本来は一番旅行に行きたがっていた本人であるが、彼には考えがあるようでこの場に残ったのだった。

なお、驚いていはいるのだろうが、やたらとまったりのんびりとした春の声が遠くなっていくのに、さすがの隼も苦笑を禁じ得ない。

隼『あれは絶対僕がなにするかわかってたよね』

小さな緑の小鳥の皮をかぶたアレはナンだろうか。こわいこわい。
目を閉じたままの鶯のゆるい声が完全に聞こえなくなるのを待って、隼は縦にさけたその白い亀裂をとじる。
魔王の動きなど、彼にはきっとすべてわかっているのだ。
それをあのまったりした態度ですべて許してしまう。それが弥生春だ。



隼『さ。僕はティーパーティーの準備でもしようかな』

それは楽しげにスキップをしながら、白い魔王は食堂を見渡して指をひとふりした。

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【こちら魔法なんて有り得ない世界ですが!?】
〜side 夢主2〜



俺の名は火神大我。
誠凛高校バスケ部の一年。ポジションはポイントガ・・・

って、ちがった。
うっかり勢いのままに前世の名乗りをしちゃいそうになるが、俺の本名というか真名は〈零(レイ)〉という。
しょせん転生者やトリッパーというあれである。

今回の世界で俺はアメリカ帰りの帰国子女でもなければ、バスケ選手でもない。
霜月シュンという。
いいところのお坊ちゃんとして生まれ、しつけられ(とはいえ、食べる量は前世の影響でかなり食う)育った。
髪の毛は白。
前世のと比べると肌が白くて、体つきもバスケをしてないせいか細い。
全体的に白いが、一応これでも日本人である。

まぁ、前の世界はカラフルなバスケ選手がいたんだから、こっちの世界でも髪の色を誰も気にしないの問題ない。

そんな俺は現在、ツキノプロダクションというところでアイドルなんかをやっている。
俺のチームは、同じプロダクションで俺達より先に活躍していた“Six Gravity”の対になっていて、グループ名は“Procellarum”。
黒で統一されている“Six Gravity”とは真逆で、白がメインカラーだ。
そのリーダーをやらせてもらっている。



アイドルで、しかもリーダーでもある俺は、普段は忙しくてテンテコマイなのだが、今日はとても暇である。
プロセラ共用ルームでは、俺が一人。
皆、仕事や学校が入っており海も取材が入っていていないのだ。

完璧なオフは俺だけのためだ。

さて。どうやって時間をつぶそうかと思っていれば、共有ルームにグラビの弥生ハルと睦月ハジメがやってきた。

隼「や、お二人さん」
始「なんだシュンだけか」
春「しょうがないよ。皆、仕事入ってるものね」

蛇足として言うならば、グラビではハルとハジメだけが完璧なオフだったそうだ。

隼「飯でもくうか?」
春「ほんと!お腹すいちゃって。あ、麦茶切らしてたんだね。ならオレ、スーパーで買いたいのあったからついでにいってくるよ。二人とも何か欲しいのない?」
隼「じゃぁ、二人にはこれ頼む。俺は他のおかず作ってるから」
始「お前にしては頼む量が少ないな」
隼「あくまでも必要なだけだし」
春「胃袋ブラックホールのシュンが少なめの料理なんて。明日は雨!?」
始「おいハル。あんまいじめてやるな。あーあと俺も暇だからハルについてくわ」
春「ふふごめんねシュン。ありがとうハジメ。じゃぁいってくるね」
隼「たのむわ」

始「行ってくる」
春「いてきまーす」

隼「いってらっしゃい」

っと、二人を見送り、軽い物のレシピを考える。
俺達は本日はのんびり怠惰な日を過ごす事となったのだから、まったりしたい。
簡単にできるのはホットケーキだろうか。

早速とりかかるかと席を立った


―――のだが


ドサドサドサ。


始『っ!?いってー頭うった』

春『うわっ!』
始『ぐぇ・・・』


隼「・・・・・・」


後ろからドサドサっと上から降ってきたかのような聞き覚えのある(主にP4時代)音とともに振り返れば、つい数秒前に共有ルームを出て行ったはずのシュンとハジメがダイナミック帰宅(?)をしていた。
折り重なる形で床にのびているすがたをみるに、まるでどこからかおちてきたような体制だ。

二人はさきほど、扉を出たはず。
そちらへ視線を向けても扉は閉まったまま。

もう一度二人が降ってきたほうを見れば、買いにいったはずの麦茶のパック(なぜか開封済み)を抱えた“始”が顔をしかめて頭を押さえ仰向きでたおれている。
その腹の上に“春”がのっかっていたが、あわてて立ち上がって、初めの頭を必死に撫でている。

始『うぉぇ。おま、時間差でおちてくんな!しかもひとの腹の上に・・・って春!目は無事か!?ぅ・・つかいつまでのってるんだ。どけ!!重い!』
春『わ!ご、ごめん始!えっと大丈夫?ほら、いたいのいたいのとんでけー』
始『こっちは魔法ないんじゃなかったのか?』
春『ふはっ。そもそもオレ、魔力まったくないよ〜。これは気分の問題。病も気からっていうからね。
むしろこの世界だろうが、始の方が魔力あるでしょ。あ、そうなると始が自分で治した方がはやかったかも?』
始『燃料切れだ』
春『そう?なら、あっちむいて。隼のように信憑性はないけど、ほら、もう一回。おまじない。いたいのとんでけー』


あの穏やかな“春”が「フハッ」って言った。
というか“魔法”ってどういうこと?
“魔力”って何?
「こっち」ってどっちだよ!?
そもそもあのハジメが厨二病患者のような発言してるんですけど?
イメージ崩れてますよキングぅ!!

そもそも突然二人が現れるなんて、そんな魔法じみたことからしておかしいから!

というか先程出て行ったわりに、服装が違いますよお二人とも。
うちのハルはあまり派手な衣装好きじゃないって、私服はわりとすっきりしたふんわりcollarの着てたよね!?
それがどうして「豚に真珠」なんて文字の書かれたダサシャツをきているんだ。
あとハジメは、黒い蝶の柄がはいったセーターとか派手ではないですか?衣装にあわせて蝶柄着てるんですか?
黒い蝶とか、前世でいた怖い先輩の守護霊思いだすのでやめてください。


もう、わけがわからないよ。
彼らの登場も意味不明だけど、彼のら会話はもっと摩訶不思議だ。


呆然とするのも仕方ないよな。

つか、逃げたい。
俺は悪くないと叫んで逃げるか雲隠れしたい。
むしろ前世の黒子のように彼らに気付かれる前に存在感消したい。
なんかダイナミック帰宅した二人に違和感があって、話しかけたなくないと思ってしまった俺はきっとわるくない。
っていうかあの“春”やばい。「フハッ」て言った。「フハッ」って!!!!
前世でそういう嗤い方をする先輩いたし!しかも幽霊視えちゃう系の極悪人面の!

俺の本能が言ってる。
こいつら“違う”って。

とくに“春”。
こいつ絶対やばいって、俺の本能が警鐘ならしてるもん。
なんかメチャクチャヤバイ強者の匂い漂わせてるんですけど、そこのハルさん。


っというか、ほんとうになにがおきてるんだこれ?
だれか説明してくれ!!!



隼「・・・二人には昼の買い出しを頼んだんだが……ず、随分と変わった帰宅方法だな」

乾いた笑いがこぼれたのはもう仕方ないよな。
驚く意外にどうしろと?


始『は?エプロン姿の隼・・・だとぉ?・・・ぶっふぉwww今度はなんの冗談だ?』
春『あっれぇ?〈零〉がいる。
・・・・ああ、そういうこと。ふはっ、まさかの展開。いやぁ〜、運命の引力って凄いねぇ』



アウトーーー!!!!!

だめだこれ。
あのひと俺の「ハル」じゃない!
つかあんた“春”じゃないだろ。どうせいつもどおり〈字〉って名前なんだろ!
あのひと、俺の前世の先輩で、見えちゃいけないものが視えちゃう系で極悪人面で、「ふは」とか「バァーカ」が口癖だった先輩ご本人!間違いない!決定事項だ。

だって俺の真名をさらっと言ってくれちゃったし。
まぁ、この世界で真名とか関係ないんだけどね。だってこっちでは「シュン」だし。
いや、それになにより、ほらそちらみたいに“魔法”とかないですし。







つか。

隼「なぁ、俺の世界のハルとハジメは?」

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【こちら魔力のある世界にて】
〜side 魔力のある隼〜



見渡す限り緑と花がひろがる森の中。
いや、正確には、どこかのおとぎ話に出てきそうな城の庭園とばかりに美しいガーデニング。 それを見渡すように、庭園の中心と思われる場所に白い丸テーブルと椅子が並べられている。
テーブルの上には、湯気をたてているティーポット。
からっぽんのカゴと、カップーが置かれている。

始「俺達は昼の買い出しに出た・・・んだったよな?」
春「そうだね」

買い物に行こうと扉をでてすぐに、ハルとハジメはなにかにひっぱられ、ひきづられるようにして黒い空間の裂け目に連れ込まれた。
そして気づけば、ふたりともにティーパーティー会場の椅子に座っていたのだ。
これで驚かない人間がいるわけがない。

始「ここは、どこだ?」

春「しらないよ。落とし穴に落ちた記憶もないしね」
始「落ちてはいないが、後ろからいきなり腕を掴まれたな」
春「ああ、うん――ホラーの如く、白い腕にね」

あまり良い気分ではない。
むしろあのひんやりとした腕を思い出すだけでどこかゾッとしたものを感じずにはいられない。
ふたりは縛られているわけでもなく、ただ座っているだけだ。
あのうすら寒さを思い出し、ふたりは逃げた方がいいだろうかと視線をあわせたが。

隼『それは僕の腕だね』

ふいに聞きなれた声が響き、ハルとハジメは勢いよくそちらへ振り返る。
さっきも聞いたばかりなのに口調に違和感を感じる。
振り返れば、ききなれた声どおり、そこには白い衣服に身を包む真っ白な男、通称“しもつきしゅん”がいた。

彼はそれは楽しげにニッコリと笑うと、両手を広げるて歓迎のアピールをする。

隼『やぁやぁ。ようこそ御両人!
よくきたね二人とも!・・・うん、平行世界でも始はやっぱり輝いてるねっ』

ウェルカムっと両腕を広げる隼のテンションはすごぶる高い。

春「えっと……シュン?」
始「うそだろ」

隼『ん?どうしたんだい“ハル”。“ハジメ”も?僕は“隼”だよ。
あぁ!僕としたことが。お客様には美味しい紅茶とクッキーを振る舞わなきゃね!
こっちは僕らの春がつくったフォンダンショコラ。いま温めてきたところだから早めに食べてね。どこかの海外のおかあさんの味みたいでおいしいよ。
こっちの宝石みたいにデコレーションがきれいなクッキーは、始作。始のは春とは違ってどこかの宮廷料理っぽくてお店で売ってる感じだから』

隼は優雅な仕草で、机を挟んで彼らの正面にあたる椅子に足を組むように座ると、パチンと指をならす。
するとどうだろう。
彼が言っていたフォンダンショコラやクッキーがテーブルに現れ、空だったカゴには色とりどりなクッキーがならべられ、ポットは宙に舞い、カップにコポコポと中身を注いでいくではないか。

ハルとハジメが知っている“シュン”は、たしかに御家柄仕草や食べ方はとても優雅で品があるが、一人称は「俺」であり、もっとこう庶民に近い雰囲気で。
ましてやこんな魔力のあるような芸当はできない。ただの一般的な人間である。
まぁ、彼が使える魔力のあるようなことと言えば、その細い体のどこに入るのだと疑いたくなるブラックホールのような食欲ぐらいだろうか。
とはいえ、自分達の知る“霜月シュン”はごく普通の人間だったと、ハルとハジメは認識している。

しかし、それがどうだろう。

目の前の“隼”は、仕草にあった優雅な口調で。
なんというか一般人とかけ離れたようなオーラを醸し出して、それは意味ありげな笑みをニコニコ浮かべている。
しかも彼が指を振れば、かならず奇怪な現象が起きるときている。

ハルとハジメの頭はパニックに見舞われていた。


隼『大丈夫。ちゃんと説明するから』

戸惑う二人に、隼は先程までとは違うふわりとした微笑みを浮かべる。
邪気のないそれに、二人は肩からようやく力を抜く。




まぁ、その後「有り得ない」というハルとハジメのつぶやきがこぼれるのは・・・いたしかたないことだろう。















:: オマケ ::


ばたん!

『隼さん!月旅行に連れてってくれるって本当ですか!これで愛に会える・・・ってなんで庭園?』
『たっだいまー!って、うわー・・・』
『うぉっ!?なんだこれ!?共有ルームが!』
『隼さんまたやらかしましたね!わー共有ルームがおとぎの国wwww』
『あれ・・・春さんの、偽者?』
『いや、涙。あれどうみても本人じゃ・・・あれ?やっぱ違う、かも?』

『お帰りみんなー。待ってたよ。春と始は先に"向こう"に行っててもらってね』

「・・・・え!?あそこ森じゃ。あんなところに扉あったの!?」
「つっこむのはそこかハル」
「だってハジメ、あそこいま空と森がきれてコイたちがきたよ」
「だまし絵ぐらいの認識でがまんしとけ」
「あ、そっか・・・だましえ・・・ねぇ、ハジメ。だましえの中の鳥がはばたいてこっちきたんだけど。これ・・・」
「もうしらん(遠い目)」








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