19:散歩は一声かけて |
“花 宮 字” は、魂がたまに分離する。 字に気力もない時は、字の魂は頸動脈・・・いわゆる首のうなじあたりに蝶のあざとなってあらわれる。 ただ、蝶に字がなんらかの霊的エネルギーを渡すと、具現化する。 肌にあったあざが浮き上がり、実体化するといえばわかりやすいだろうか。 本人は蝶を呼ぶ体質とかごまかしているが、物心ついたころから字のことは見てきたからオレはあらかた真実を知っている。 あの蝶が本当は、字の魂の半分だとか。 字と火神は転生仲間だとか。 この世界が漫画で存在するとか。 だから、これはちょっとまずいんじゃないかとは思って、携帯電話の電源を入れた。 ++ side宮地清志 ++ 秀徳高校。 放課後の体育館では、バスケ部が練習をしている。 そんななか、ふわりと俺の前に蝶がとんでいるのをみて、思わず手を伸ばす。 ぐわしっという感じでつかまえたのだが、手のを開けば、手のひらに収まる大きさのその蝶の死体があるわけでもなく、 羽の一部にさえ異常はない。 見事にピンピンして、おとなしく羽をひろげたりとじりたりして逃げ出さない様子を見て、 やっぱりかとそいつの飼い主が今頃パニックになっているだろうと思うとため息が漏れる。 「蝶と、宮地先輩?ぶふっ!!どんな組み合わせですかそれ!」 「うるせぇ高尾黙ってろ!轢くぞ!!」 蝶をいったん肩にのせ、携帯をとる。 短縮ボタンに登録された番号を押せば、すぐにおちついた声が返ってくる。 『はい。なんですか?』 ん?おちついた声? もしかして気づいてないのだろうか。 これは後が大変そうだ。 「なぁ、またロジャーさんまたこっちきてんぞ。変な奴に蒐集されたら大変だから離すなって言ったよな?」 『・・・・・・』 バタン 「おい?アザナ?」 〔突然花宮がたおれた!!〕 〔花宮ー!!!息しろ!!しっかりしろ!!〕 〔ぎゃぁぁぁぁーーー!!顧問先生助けて!花宮君が!!〕 〔〔〔〔花宮先輩ーー!!〕〕〕 〔おはな、大丈夫!?しっかりしてよ!ねぇなにがあったの!?〕 〔電話してたら突然花宮先輩が!〕 〔しっかりしなさい!!ちょっと花宮くん!!〕 電話の向こうからかすかに聞こえるあちら側の絶叫の数々を聞き、俺はそっと携帯の電源を切った。 そのまま俺の肩にとまっていた黒い蝶に視線を向ける。 「ロジャー。あんたもう帰れ」 蝶は会話を理解していたのか、蝶らしくなく、慌てた様子でバサバサと音がしそうな感じで、それはもうあわただしく飛んで行った。 U←BackUTOPUNext→U |