有り得ない偶然 SideW
-クロバヌ 外伝-




花宮の徒然日記

オレの名前は 字(アザナ)
今のオレは―― 花宮 字(ハナミヤ アザナ) という。

何十という世界を転生しては、死と生を繰り返している。 もちろんそのすべてが人間だったというわけではないので、獣であったり、妖怪であったりしたときもあった。
ちなみに前世は、【家庭教師ヒ○トマンREB0RN!】という漫画によく似た世界のXANXASであった。
簡単にいうと、イタリアマフィアの暗殺部隊のボスだった。
その世界では、一族にはたぐいまれなる直感力のあるものが生まれた。
未来予知にも近いそれは、あまりに的確すぎ《超直感》と言われていた。

なぜか。
転生した今もその《超直感》がオレには備わっていた。
その能力が、オレに告げたのは、この世界にはオレ以外にも転生者あるいはトリッパーがいるという可能性。

ま、一目見て、わかったけどな。





++ side花宮成り代わり主 ++





オレは今回の世界では、青春を楽しむバスケ少年として過ごしている。
幼いころに幼馴染みの宮地清志に渡されたボールがきっかけだ。

そのままなにげなく続けていたものの、中学半ばから、他校のバスケ仲間どもがどんどん成長していき、気が付けば周囲にオレより低い選手がいなくなっていた。
それに腹が立ち、チビのままテッペンとってやるわ!!と、中学生の時、このまま高校もバスケを続けることを誓った。

中学最後の年、平均身長メンバーしかいなかった我が中学バスケ部は、高身長やろうどもを前に燃えに燃えた。

結果、彼らを指揮していたオレは、〈無冠の五将〉 “悪童” なんていう不名誉極まりないあだ名をもらった。
なぜにオレだけ、そんな悲しい名前を付けられたんだろう。

チビでもバスケができることをアピールするために、知略戦で挑み、小回りの利く身軽な身体を生かしてディフェンスからボールを奪うスティールをしまくった。
スティールってのは、結局相手の動きをどれだけ読み取り、素早く動く反射神経があるかが必須となる。
ディフェンスとのバランスを取ることが重要となるもので、簡単に言うならパスカットだ。
それを成功させるために必要なのが、敵味方の動きを事細かにみておくこと。
オレの場合はたまたま前世から引き継いだ反射神経と、異常なまでの《勘》がそれをおぎない、 スティールメインで試合をすることが可能となっていた。
つまり《小回りがきく》。それがオレのプレースタイルだったわけだ。

妖怪じみた先輩いわく、その行為が “いたずらっこ” みたいだから、それで “悪童” と名付けられたらしい。

この際、前世が殺し屋だったり、妖怪任侠一家の跡取りだったり、マフィアの暗殺部隊のボスだったりしたから、そんな些細なこと気にしないことにした。
前世のごとく人殺しなどと叫ばれるよりましだろう。


それから高校に入って、オレの不幸体質が拍車をかけ始めた。
オレがひたすらこけたりなんかしていればそれに巻き込まれた奴らが、「花 宮にラフプレーでやられた」と言いだした。
いや、まじでやってねぇから。証拠もないから、後々指摘されるのはうそをついた側だというのに、よくやるな〜と爺心に変な関心をしてしまったものだ。

っが、しかし。
そうも悠長にいってられなくなった。
それがきっかけで “悪童” という二つ名が、その嘘に拍車をかけたのだ。

ラフプレーをするから “悪童” 。
そう思われるようになったのだ。

呆れて呆然とするオレが、中学の妖怪先輩から「なんでぐれたん!?」「なにかあったらワシに言うてな!」と勘違い甚だしい電話攻撃を食らうようになった。
毎日とかなんなんだよ!?うっとうしい!
そもそもオレは何もしていないんだ。
オレが不幸に遭遇してるところに周囲が勝手に巻き込まれただけなんだ!その訴えを理解してくれたのは、同じ学校の仲間と幼馴染みの清志だけだった。


それから高校一年のあるとき、最悪の出会いがあった。
幼馴染みと同じ名前の、オレと同じ〈無冠〉の選手 “木吉鉄平” と会った。というか、試合をしたのだ。

『 きょー兄 と同じ名前だから、きっといいやつのいる学校だ!強いだろうな〜』

と、ほのぼのしつつ誠凛との試合を楽しみにしていたのに。
終わってみれば、オレは史上類を見ない悪役となっていた。

――そのときの試合は本当に散々で。誰がって、オレがだよ。木吉なんかしるかよ。

あのとき、床のワックスがききすぎて、オレはこけそうになった。
試合中だというのに、なんてことだ!だけど、盛大な観衆の前でそんな恥ずかしいまねできない。とっさに床を蹴って踏ん張った。
蹴ったというか足を踏みしめたときに、パンと床を叩く音が見事に響いた。
オレは無理な体制でやったせいで捻挫した。試合が終わるまで何もなかった風を装ったけど。痛かった。
だけどその音に驚いた仲間が動きを鈍らせ、それにより相手選手の 木吉鉄平 が着地に失敗し、膝をいためた。
向こうのおっかない顔した眼鏡やろうに「お前が合図したんだろ!」と怒鳴られた。
物凄い理不尽だ。

実際、こういういいがかりは結構ありましてね、そのせいで “悪童” だし。
ラフプレーしてるとまで言われて、学校ではいい噂を聞かないと、校長とか上の奴らが、バスケ部のレギュラー全員決められた平均点を超えないと退部させるとか、オレのせいで条件をつけられてるほどなんですよ。

あまりの理不尽さに頭痛がした。

オレがよくこけるのを知っている霧崎のチームメンバーには、すぐに捻挫がばれた。
お前、また怪我したのかよ。と同情された、踏ん張って試合に出続けた。
試合中はそれほどでもなかった痛みだが、無茶をしすぎたせいで、試合終了後の控室付近で、痛みが倍になってもどってきた。
その痛みは、控室を目前とした気を抜けると思った矢先だったので、息が止まりそうだった。 むしろ一瞬、息が止まったかもしれない。
あーあ、これはやばい。
横でレギュラーの先輩が「大丈夫か花 宮」と声をかけてくれたが、大丈夫ですと言葉はでなくて、かわりにとまりかけたそれをなんとか吐き出したものの、 うまくいかなくて、なんだか「フハッ!」と鼻で笑ったような雰囲気に聞こえてしまった。

っで。運が悪いことに本日の試合相手である誠凛がたまたま近くにいて――

物凄い睨まれた。

「なに隠れて笑ってんだよ!お前なぁっ!!!」

日向が目を吊り上げて、霧崎の先輩たちをかきわけてオレの方まで来るとそのまま胸倉をつかまれ、怒鳴られた。

「人の不幸は蜜の味ってか!?最低だなお前!!」
『え?』
「お前のせいで木吉は!!」

オレってば、元マフィアだからね。もっと怖い顔をした人たちをみてきたし、 転生場所が悪いと戦争の真っただ中とかもあったから、目の前の眼鏡の青年が怖いということはない。
ただ、本当に意味が分からなかったんだ。

足の痛みがこらえきれなくなってきて、つまっていた息を吐き出しただけで、なんで食って掛かられるんだ?

霧崎の仲間が、いろいろオレを弁解してくれていたが、必死なオレの先輩や仲間たちの話などあちらさんはまともに受けてはくれなかった。

それで、とまっていたオレの思考も動き出す。
年のせいか、怒り狂ってる相手をみているうちに、思考がすっかり冷めてくる。

勝手にあつくなるのは結構だが、本当にいい加減にしてほしい。
そもそもの原因はオレに “悪童” というネーミングをつけた雑誌記者が悪い。
おかげでいいイメージよりも悪いイメージばかり先立つ。
彼らもまたその言葉にこめられたイメージから、思い込んでいるのだろう。

ハァー。

胸倉つかまれ、今にも日向青年に殴られそうになっているというのに、思わず呆れたようなため息が漏れてしまう。
それにさらに誠凛が激昂してきた。

「なに余裕ぶってんのよ!あんたのせいで木吉くんが怪我したじゃないの!!」

脱色した金色の髪をバサバサゆらし怒り心頭な誠凛のマネージャーに、顔を真っ赤にして罵声を浴びせられた。
いや、もしかするとあの髪は本当は黒かもしれない。彼女自体がゆがんで見えることから、なにかの幻覚でその姿を保っている可能性がある。
幻覚を使う女ね。
たしかあの女は誠凛のマネージャーで、名は ●● ●●●といったか。

“この派手な女子生徒もオレと同じ――イレギュラーだ

なぜかふいにそう思った。

《超直感》からの警告だ。間違いはないだろう。
だが、なにがどうイレギュラーなのかはわからない。
どうせ転生者かトリッパーなのだろう。
同郷者だろうと、だからといって、彼女になど興味はない。

オレはジャージをつかんでくる日向の手をはたきおと、地面についた衝撃で痛んだ足に顔をしかめつつ、聞く耳もつきがないのがまるわかりな誠凛をおいて、先輩たちに早くいきましょうと促した。

「まちなさいよっ!!」
『まだ、なにか?』

こちらの話をいっさいききもせず、都合のいい言葉だけを喚き散らすくせに「待て」だと?
バカバカしい。
騒ぐ金髪女,徹野に冷めきった感情のまま視線を向ければ、相変わらず誠凛のみなさんはオレをきつく睨んでくる。
霧崎の先輩や仲間たちがオロオロとそんなオレと誠凛を交互に見てくるのを視線でなだめ、オレは “敵” をみる。

「木吉くんに謝りなさいよ!」
『なにもしてないのになぜ謝る必要が?
それともあなたがたがオレをののしれば、殴れば、気は晴れるんですか?
そちらのエースさんが戻ってくるんですか?
そもそもあなたたちはその目で真実をきちんとみたんですか?あなたたちが言う “それ” が事実なら、オレが悪いんでしょう。そのときは殴ればいい』
「人のことをなんだと思ってるの!!相手の気持ちもわからないなんて!それでもあなた人間なの?!」
『他人の気持ちなんかわかるわけねぇだろ。汲み取って考えることはできてもな。だが、残念。お前の気持ちを汲み取る気はもうとうねぇ』
「なんなのあなた!本当に!!なんで木吉くんを傷つけたのに平然としていられるの!?さっきだって笑って・・・最低!!」

相手の気持ちがわからないのが人間という生き物だと思う。
言葉を交わさずにわかるのは、妖怪サトリだけで十分だ。
むしろそうなったら人間じゃぁないな。
わからないからこそ、人は言葉を交わすのだと思う。

ま。オレは転生しまくってるから、もはや人間か怪しいけど。

それでもオレは彼らより人の話を聞いていると思う。
聞いているから、そこから考え、それをもとに相手の気持ちを配慮しようという考えがわくのだ。
まずはそこに会話が成り立たなければ意味をなさない話だがな。

「●●●、もういい。落ち着きなさい」
「でもリコちゃん!こいつが木吉くんがあんなことになったのにっ!」

キャンキャンとわめく女に、あちらのもう一人のマネージャー 相田リコ というのが、とめにはいった。
相田の目はまっすぐにオレをきつく睨んでくるが、まだあの派手な ●●●という女より話が通じそうだなと思った。

「わたしたちはあなたを許さないわ」

ハイ。アウトー。
だめだこりゃぁー。

誠凛は全員キマジメで、あげくとても仲間思いで、そんでもって思い込みが激しいと発覚。
こっちの話なんか絶対聞かないというオーラーを全身に漂わせて警戒心まるだしな誠凛に、オレは会話をすることを諦めた。

『勝手にしろ』

それだけ言い捨てて、霧崎の仲間を控室におしやり、オレももどりました。





「っで。花 宮」
『なんですか先輩』
「おまえその足どうした?」
『・・・イタクナンカナインデスヨォ〜』
「にげんな花 宮。おめぇーら、花 宮を捕獲しろ!」
「りょーかいキャプテン!」
『いやいやいやいや!こんなもの放置しておけばなおるから!!病院なんか行きたくな』
「おまえの不幸体質は放置できる域を超えてんだよ!捕獲だ!」
『ほわっ!?』

その後、部員の皆さんに逃げようとしたところに抱きつかれておしつぶされ捕まり、病院に連れてかれた。


医者にしばらく安静にしていろと怒られました。

医者曰く
「最近のバスケはいつから怪我人ばかり出るそんなに激しい競技になったのかね?」
とのこと。
ですよね。
なにせ今日でバスケ関係者二人目ですよね。わかります。

でもその原因のひとりである 木吉鉄平くん は、もとから膝に限界がきてたと思いますよ。
奴のはもっとはやくに治療をすれば、もっと長くバスケができたと思うんです。これ、オレの超直観が言うんですから間違いありません。
木吉のは自業自得です。

「むしろ君、この前、すべてっこけた勢いでそのまま階段までスライディングしたあげく階段からから落ちてウチにきた子だよね?」

やだ。このひと、この前の担当医だ。
そんでもってオレのは、転生特典である “自分が不幸になると、どっかの誰かが幸せになる” という体質なので、どうしようもありません。

その日は医者と仲間と、みんなでため息をついた。





*********





「アザナぁ、いいかげんそれやめろよ」

疲れたときの癒し!
そう思って、幼馴染み宮地清志がいくという買い物に無理やりついていった。

その腰にしがみついて、そのままズリズリとひきづられていた。
これはもうなんというかこの世界で物心ついたときからの癖で、 オレの膝から下にすり傷ができるとうちの母親が清志 に「アザナはまたなにかあったの?」と聞きに行くぐらいには日常と化したパターンである。

いままでの前世ではここまで甘やかしてくれる存在はいなくて、つい爺な中身なオレも清志にはすっかりほだされてしまい、甘えたくなるのだ。
清志はオレを甘やかしてくれるが、ぶっちゃけオレからまとわりつくとそのまま放置される。
いまみたいにはりついていようと、足が地面をこすっていようと、けっこうスルーされる。
もうその対応がオレ的には普通だから気にする必要もないけど、清志より身長が低いとはいえやっぱり平均身長はある高校一年生の男をひきづって歩くのは歩きづらいらしい。

『きょー兄 ぃ・・・どうしよう。悪名がどんどん広がってんだけど』
「悪名って・・・言い得て妙に当てはまるのが怖いな」
『そこで憤るでもなく、同情もしない きょー兄 がらしすぎて、オレは泣けるよ』
「泣いてもいいが手を離せ。重い」
『ん』

宮地清志。
オレの幼馴染みにして、兄的存在。もはや兄である。
小さいときからオレに自我があったとはいえ、肉体の及ぼす影響はぬぐえず、彼の名を小さいときは上手く発音できなかった。
そのためしたったらずな当時のオレは、清志を “きょー” と発音していた。
さすがに中学に入ったとき、 きょー兄 が恥ずかしいのではと思って清志と名前で呼ぶことにした。
だけどすぐに「木吉鉄平」という気に食わない奴が登場したので、あえなく清志の呼び名を「きょー兄」と元に戻した。

邪魔だと清志のはらまわりを一周していたオレの腕をペンペンとたたかれたので、しぶしぶ言われた通り手を離したら、よくできましたとばかりに頭をわしゃわしゃなでられた。
子ども扱い。
でも清志にならされてもいい。
きょー兄 からしたら、きっとオレはいつまでも一つ下のガキなのだろうから。

でも同じ きよし でも “木吉” に同じことされたら、本気で泣くが。
なんか 木吉鉄平 に頭を撫でられたら、身長差のせいで子ども扱いされてる気がしてむかつくから絶対嫌だ。
あと生理的嫌悪感が先立って、木吉の存在そのものを受け付けない。

「っで?アザナ。ついてくんならおとなしくしとけよ。こどもらしく、だ!またどっかの誰かに変な喧嘩ふるなよ」
『ケンカって・・・ご老人が困っていたら助けるのが日本男子だろう!』
「いや、なんか古いぞそれ。言い回しが。
っていうかな、たまたま道端で撮影中のクイズ番組に乱入して、数学が解けなくて困ってるどこぞやの教授に変な公式ふきこんだりとか。
たちの悪そうな奴みて、酒は二十歳過ぎてからだー!とか言って、相手の年齢と誕生日をドンピシャであててドギモぬかして、あげくとうとうと変な説教とかだめだからな」
『だけど大人は子供の見本となるべきじゃないのか?』
「いや、お前が子供であるべきだ」

清志はまじめな顔でつっこみかえしてきて、そのままわしゃわしゃ頭を撫でてきたあと、視線を合わせるようにちょっと腰をかがめて

「お前はまだ子供でいろよ」

ニィっと笑った。
そのまま今度はオレの手をグイグイと引っ張って駆け出した。

「新しくスポーツ店ができたからな!あそこまで競争しようぜ」
『っ!?理不尽だ!』

コンパスの差を理解してほしい。
途中で離された手のせいで、清志とどんどん距離が開いてしまう。
それにヒーヒーいいながら、街中をはしっているとき――
ふいに懐かしい “だれか” とすれ違った気がして、一瞬足を止めた。


『・・・ 〈レイ〉 ?』


その気配をたよりに周囲を見渡せば、人ごみの中でも頭一つ分以上高い身長の赤い頭がみえた。
その青年が、転生仲間である 〈レイ〉 だと、すぐにわかった。

隣に誰かいるらしく、楽しそうに笑いながら歩いている。
それをみて、オレも思わず笑う。

あいつが “今” を満喫しているならそれでいい。

「おーい、アザナ!おいてくぞ」
『待ってよ、 きょー兄 !』





君が前世を覚えていることも。
君とまたどこかで出会えることも。

なんとなくだけど、知ってたよ。



『一年後。コートの上で会おう』



そうしてオレたちはすれ違った。





 


:: オマケ ::

字『たしかに一年後に試合会場であったが・・・再会は“試合で”じゃなかったんだな』
火「え?なにその予言」
字『前世の影響で、勘はよかったんだけど。綱吉のようにはうまくいかないか』
火「あ、先輩の前世わかった!【復活】か」
字『正解。ちなみにあっちの沢田綱吉の超直感の正解率は120%』
火「100オーバーってなんですかそれ!?」
字『オレもききたかったよ。あいつ、遠い場所のことも的確に当てるんだよ。オレは、ま、せいぜい目の前のことが少しわかるくらいだったんだけどな。それも全部ってわけじゃないからせいぜい70%くらいか』
火「いや、十分それだけで怖いよ」





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