03.その親子、マヨラー |
「おーっす!生きってかぁ虎徹!お、椛もきてんだな・・・・・おい」 筋肉ムキムキの男が遠慮なく玄関の扉を開けた時、リビングにはたっぷりと黄色いものがかかったドンぶりを手にしていた小さいのと大きいのがいた。 「・・・何喰ってんだお前ら」 『通称土方スペシャルシュテルンビルトバージョン!!世界の神秘と究極のエネルギーを詰め込んだ非常食にもなる食べ物だ(ドヤ)』 「うまいぞー。ここにネギとかあいそうなんだよなぁ。あ、醤油マヨとかいけるかも」 「ただのマヨ丼だろぉがぁ!!!」 「ただのって、お前何言っちゃってくれてんの。こんなうまいもんないだろうに」 『そうそう。マヨネーズの油脂によって山で遭難してからも一か月耐え忍び、生き抜いた人もいるほど素晴らしいもの!あとうまい』 「あ、米ならまだ炊飯器にあるけど。お前も食う?」 「やめろ!すすめるな!!俺をお前ら親子の趣味に巻き込むなぁぁ!!!!!料理できるんだからもっとちゃんとしたものを食えよぉぉぉぉぉ!!!!」 『「うまいのに」』 side 夢主1 .。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+ 前世、飢餓期をゴミ捨て場にあったマヨネーズにすくわれ、銀時が万屋を開いてからは、真選組というところによく飯をもらいに行ったものだ。そのときマヨラーなる前髪がV型をした土方という男が猫であるオレにあたえてくれたのがマヨネーズだった。あれのおかげで万屋が金も依頼もなく飢饉にあっていてもオレは生きていけたのだ。マヨネーズは神だった。それからはマヨネーズは素晴らしいものだと思っている。 今食べているのだって、かの土方さんがやっていたマヨネーズの食べ方だ。 そんなオレは赤い方のメイプル、鏑木椛(かぶらぎもみじ)です。 苗字も名前も難しい漢字だが、覚えろよ。これ以降は自己紹介しないからな(笑) さて、今世では猫になれるだけの一般人な元神様なオレですが、今生の父がマヨラーであり、二人きり気になるとマヨネーズについて熱く語りもする。 マヨネーズ最高だよな。 そう言う意味では気の合う良い父親だと思う。 話は変わるが、実は少し前に母が亡くなった。 神(という名のオレ)へ届けられた願い。いわば神前の誓いだ。それを叶えなくてどうすると、鏑木虎徹の願いを叶えるべくオレは生まれた。きちんと友恵の寿命を引き伸ばすことには成功したと思う。 けれどさすがに元が生死を司る神だろうが、その力はその段階でほぼないに等しかった。 そのせいか、あるいは延命に力を多く持っていかれたためか、どれだけ頑張っても引き延ばすのもそろそろ難しいと思い始めていたころ。 これ以上は無理だというのは、とおに感じていた。 それは母も感じ取っていたらしく、オレが与えられる加護がへっているのに気付きつ「もういいのよ」と言っては撫でてくれた。 やはり彼女は知っていたのだろう。オレがどういう存在で、彼女を生かすべくそばにいることを。 たぶんだが、寿命以上に長く母を生かすことはできたと思う。 現に、母は家族に見守られながら穏やかに亡くなった。 最期の最期まで「私は本当はもっと早く死ぬはずだったの」「神様のおかげね」「とても幸せだった」と言って笑い、 その最期はとても幸福そうな安らかな笑顔を浮かべていたのは、ずっと見守ってきたオレとしては救いである。 問題はその後だ。 母が亡くなってから、父が実家に寄り付かなくなった。 仕事が忙しいのは分かるが、単身赴任先のシュテルンビルトから帰ってこない。以前は日課のようにちゃんと電話をしてきていたが、最近では電話の回数も減った。 しかたないといえばしかたない。父親業をやっていればままならないこともあるものだ。 あれほど友恵を愛していた虎徹だからこそ、ぽっかりと心に穴が開いたようなのだろう。 曰く、楓に合わす顔がないと彼は言う。 友恵の死は彼が原因ではないというのに。 まぁ、それだけではなく、いろいろな気持ちが混ざって、それがそろそろ限界に到達してしまったのではないかと思う。 父親として母親の代わりになれるかという不安もあるだろう。 いつまで楓に自分がヒーローであることを黙っているか。 愛する者を亡くしてこの先どういう態度をとればいいのか。 しかも世間は怪力だけの能力で、かつ虎徹がドジっこなので、そんなワイルドタイガーには風当たりもきつい。 すべてが父の心に重しとなって今は身動きができない状態なのだ。 ならば、一つ一つそのしがらみをほどいてくしかないだろう。 いまはゆっくりとすべきで、一番心を安らげる場所にいるのが本当はいいのだ。 彼を実家に帰すのが一番だろうか。 虎「友恵・・・・」 会いたい。と机に突っ伏して、拳を強く握る姿は、まるで泣いているようだ。 けれどその目から水はあふれ出てこない。 強がりだなぁ。 一人ででも泣けないなら、同じ思いを共有した者と泣けばいいものを。 椛『・・・神様にも限界というものがあったんだろうさ』 虎「それでもなぁ。どうしたらいいかわからなくてな。そっちほっぽってごめんな。ほんと、俺って悪いっ父親だよなぁ」 父は机につっぷしながらグスグスと鼻をすすりながら、泣きそうな顔で告げてくる。 傷心中であるというのに、仕事で一人暮らし。しかも母が亡くなってしばらくは傍にいないとまっとうな飯も食わず、生きた屍とかしどんどん痩せていった。 しかたなくオレが様子をよく見に来るようにったのだ。 父は基本的に優しく、そしてとんでもない馬鹿だ。母曰く、“純粋なひと”ということらしい。 それが間違った気づかいだと気付かず、父は自分のことではなく相手を気遣って気遣って気遣いまくってまいってしまう。 オレはともかく、楓に父が職業を教えないのも、NEXT能力者の父親がいることを知られないため―――だというがなぁ。 椛『そもそも楓ちゃんは父さんがヒーローだって気づいてるけど?なにを心配してるんだ?』 さすがに自分の親の声ぐらい、猫でなくともわかる。 テレビに映ったワイルドタイガーをみて、ひとめで楓は気づいていた。 ぶっちゃけ、母が生きてるころの話だからずいぶん前だからな。 そんなオレの言葉に「はぁ!?」とわけがわからないとばかりに情けない声をあげて、ガバリと顔をあげた父は「うそだろ」と呆然としている。 椛『いや。もはや家族全員がしっていて、知らないふりをしていた状態だな』 虎「はぁ〜・・・・まじかよ。いままでの俺の苦労って」 椛『なんだぁ?“苦労”だと思っていたのか?』 虎「そんなわけねぇだろ!!ヒーローやるのも!お前らと過ごすのも!!好きでやってんだよ!お前らが好きだからお前らの父親やってんだろうが!!・・・っ!ただ・・・あの辺はまだ偏見がすげぇ。お前らがいじめられたらと。それにヒーローは危険な仕事だ」 椛『そういうのもすべてわかってるぜオレら。わかっていたから、楓ちゃんは何も言わなかったし、母さんが死んですぐ単身赴任に出かける父さんを引き留めなかった。 もちろん事情を知っているとはいえ、オレは楓ちゃんにはなにも教えてない。あいつは自分一人で、すでに答えにたどり着いてる』 さぁ、そろそろそんな優しい娘の想いに恩を返すときじゃぁないのか? 椛『父さんがしている“心配かけさせまい”って行動は、それは父さんが心配してるんであって、相手への気遣いじゃぁねぇよ。いい加減気づけ。 もう隠す必要なんかない。いらない気づかいも無用だろうさ。そろそろ楓ちゃんに会ってはどうだ? まぁ、仲直りしても、忙しいから単身赴任は変わらないだろうが。それでも昔見たいに―――もっと家に電話して。もっと話そう。もっと一緒にいよう』 そうじゃないと子供ってぐれるからな。うん。 子育て経験者なめんなよ。 まさかちょっと散歩(という数年間)にいっているあいだに、我が子を預けていたおうちが燃やされて、育ててくれてた先生の復讐のために、我が子とその幼馴染たちが戦争に参加しちゃうとは思うめぇ。 いやぁ、あれは酷かった。 ――っと、いうことがありまして。 その日父は、久しぶりにオリエンタルタウンに戻ってきた。 そうして今まで彼が思っていたこと。胸の中にためていたこと。まるっとすべてを娘に、家族に語った。 今の職業が危険であるため、家族に心配かけさせたくなくて職業内容を知らせなかったこと。 母が死に際に「ヒーローの虎徹君が好き」っと言ったことを忠実に守っているというのも。 家族全員でそんな父をたたいたり殴ったりしてケジメをつけ、楓は泣きながら父を許した。 ようやく前の幸せなみんなの笑顔が戻ってきた。 それは傍で見ているだけでもとてもあったかくて、これこそ友恵が望んだ光景ではないかと・・・ なぁ、そうだろ? いままでずっと心配そうに父の傍にいた“彼女”へと視線を向ける。 ふわりと視界の端で微笑む女性に、この結果が正解なのだと俺も満足でき、口端が持ち上がる。 オレの視線を感じたのか、振り返った“彼女”は ――いままでありがとう ・・・わたしの 小さな神様 生前と同じ花が咲きほころぶようなきれいな笑顔を浮かべると消えてしまった。 満足できたようで何より。 さぁて、オレの前世からの力も使い果たした。 椛『神様の加護はここまでだ。ここからは自分たちだけの力で歩めよ』 っというわけで宴会です。 正確にはお疲れ様会というか、男二人だけのねぎらい会というか。 シュテルンビルトに戻ってきたオレと父は、ただいま二人でキッチンで調理中。 父はちゃっかりエプロンもして、包丁を手に長ネギを綺麗に刻んでいる。 意外とまめである。そしてやればできるんだよなこのひと。 椛『わだかまりもとけてよかったな』 虎「いや〜ほんとうにな。お世話をかけましたー・・・って、お前本当にいくつだよ?」 椛『肉体的には楓ちゃんと同じ年齢だが?』 虎「ずっと思ってたんだけど、肉体的ってなにそれ?」 椛『しつこいなぁ。せっかく“お願いごと”叶えてやったのに、それ以上は野暮ってもんだろ』 虎「ん?おねがい、ごと?って、なん・・・のっ!?え?まさか“あの”!?」 虎「!?ま、まじか」 何をいまさら。 思わず驚きで力でも抜けたのか、ストーンとばかりに父の手から包丁が滑り落ち、危なそうだったのでそれを空中でキャッチし、クルリとまわして二本指ではさんだままの刃先を自分に向け柄の方を父へ向ける。 椛『ほら。あぶなかったな』 虎「あ、ありがとう・・・っていうか今のもなに!?真剣白羽どり!?ちょっと違うけど!?でもすごくね?え?本当に椛何者?」 包丁をうけとりつつわたわたする父にニヤリと口端が持ち上がる。 母は気づいていただろうに。 何度もオレの正体にかかわりそうなヒントを誰かが告げていたではないか。 父の場合は気付けなかったというよりか、それをみとめられずわからないふりをしていたのだろう。まぁ、人間の本能はそういうものだ。信じられないものは見て見ぬふりをする。しかたあるまい。 それに今はなんでもないただの人間だ。 そう。しいて名乗る名は一つしかないわけで―― 椛『鏑木椛!虎徹の息子!人間です!特技、猫としゃべれる!イェーイ(*´▽`*)』 小さなころの父に瓜二つらしい姿を利用して、まんべんなく子供らしい仕草を意識て、にっこりと笑ってやった。 ぴぴぴぴ・・・ お、いいタイミングだ。 ほかほかのご飯もたけて、みそ汁もできている。準備は万端だ。 さぁ、夜ご飯にしようか。っと、二人で席について「いただきます」をしたところで―― 「おーっす!生きってかぁ虎徹!お、椛もきてんだな・・・・・おい」 と、父の友人であるアントニオが勢いよく扉を開けて入ってきた。 が、しかし。 彼はオレ達が食べようとしていたものを見るなり、悲鳴を上げ、かつ説教をしてきた。 ア「・・・何喰ってんだお前ら」 なにって、今世の父にすすめられて食べるようになった、かつ前世では思考の品。 その名も―― マ・ヨ・ネ・ー・ズ・丼 だっ!! それがなにか? 今日はできたてほかほかの実家からそのまま頂戴したお米に、お酢を数滴たらしたそれはもうホッカホッカの白いご飯だ。 あ、白米はお酢を数滴入れるとそれはもうふっくらとお米がたけて、うまみ倍間違いなし。 それに長ネギを細く切ったものをかけ、上にマヨネーズをたっぷりかけた。 添え物に沢庵、そして昆布出汁の豆腐のみそ汁。 うんうん。日本食に長ネギは最高の組み合わせだ。 前世では与えあられるばかりで、マヨネーズ丼になにかそえものをするという考えさえ思いつかなかった。 こういう添え物は父がやり始めたのだが、長ネギがあうなんておもわなかたよ。ここはシュテルンビルトバージョンとでも名付けよう。 なんだかんだときかれたら?世はなさけ――ではなく。 何を食っているときかかれたら?だな。 ならば聞いてくれ。 この素晴らしい食べ物の名を! お、そうか、あんたも食べたいんだなアントニオ。 そうかそうか。なら、こい。そしてその椅子に座ってじっくり聞いてくれ。 この素晴らしい物の名を!! 椛『通称土方スペシャルシュテルンビルトバージョン!!世界の神秘と究極のエネルギーを詰め込んだ非常食にもなる食べ物だ(ドヤ)』 虎「うまいぞー。ここにネギとかニンニクの芽とかチャーシューがあいそうなんだよなぁ。あ、醤油マヨとかいけるかも」 ア「ただのマヨ丼だろぉがぁ!!!」 虎「ただのって、お前何言っちゃってくれてんの。こんなうまいもんないだろうに」 椛『そうそう。マヨネーズの油脂によって山で遭難してからも一か月耐え忍び、生き抜いた人もいるほど素晴らしいもの!あとうまい』 虎「あ、米ならまだ炊飯器にあるけど。お前も食う?」 ア「やめろ!すすめるな!!俺をお前ら親子の趣味に巻き込むなぁぁ!!!!!料理できるんだからもっとちゃんとしたものを食えよぉぉぉぉぉ!!!!」 『「うまいのに」』 いいじゃないかマヨネーズ。 今度、竜田揚げつくって、うえにタルタルソースかけて食べよ。 あ、牛丼にもあいそー・・・・・じゅる。 ア「おまっ!椛!今何考えたぁ!!!こっちみんなぁぁ!?」 虎「あー椛が獲物を狙う目してんなぁ〜。椛、椛、そこのおじさんは食べれないからやめなさいな。あー土方スペシャル丼うめぇ。今度これにあわせで鯖缶開けたらもっとうまそうだな」 ア「え!?マヨネーズ丼の名前それで確定!?つかヒジカタってなに!?つか、椛やめろ!瞳孔ひらいてるから!俺はうまくないぞ!!!」 虎「そういえば土方さんって誰だ?そのひとが椛に作り方教えてくれたっていうから。 ところで椛、アントニオは旨くないからな。よだれはしまえ」 椛『いや。その、牛丼いつか驕ってくれないかなぁと思っただけで。テヘ』 タベナイヨ? 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