白と赤色の物語
- 銀 魂 -



25.どうでもいい事に限ってなかなか忘れられない
第31話「どうでもいい事に限ってなかなか忘れられない」より





「どーも。眼鏡かけ器でもなければ人間も放棄してない志村新八です。
“もう31話!?飛びすぎじゃね!?第29話のゴキブリ事件はどうした!?” って、笑いマーク付きで質問きてますよー。
《灯だまり金魚》の銀魂が原作以上に普通じゃないのわかっててツッコミをいれるなんて、世の中には奇特な方もいますねぇ〜。
“あのとき絶対に真選組にもG被害が及んでいたはずなのに夢主さんは何してたの?”って言われちゃってますよ。
どうするんです管理人さん。
そのへんどうなんです土方さん?」

『・・・・・・ふ』

「“ふ”じゃねぇよ!!!」
「おちつきなせぇ眼鏡」

「ああ、あのときね。ひどい目にあったよね」
「山崎の言うとおり。しかもGだけじゃなくて、土方さんにもひどい目にあわされたしな」
「土方さん、あのとき屯所からマッハの勢いで逃げだして・・・事件終了後にはどこからともなく戻ってきやしてね。
そのまま問答無用で、屯所中をアルコール洗浄しやがったんでぇい。
もう消防車なみのホースで土方さんの無言&無表情つきで」

「「「「・・・・・・」」」」


「ま、だれにせよ。やっぱりあの事件だけは・・・忘れたいってことだよね」

『同意』
「だな」
「ですね」



「こうゆうことは、忘れたくても忘れられないのにね」


僕らは、いつ、間違ってしまったんだろう。
ねぇ、銀さん。








 -- side 志村新八 --








銀さんが交通事故にあったって連絡を受けて僕が病院にかけつけた時には、病室の前の廊下で、すでにお登勢さんや神楽ちゃん、キャサリンがいた。

新「銀さんは!?銀さんは大丈夫なの!?」
楽「新八・・・」

登「病院ででけぇ声だすんじゃないよバカヤロウ!」
楽「おまえもな!ババぁ!」
キャ「おまえもだクソガキ!そしてワタシもさ」

僕の声がうるさいって怒られたけど、そのままコントに発展していた。
みんないつもどおりのテンションみたいにみえるけど、でもきっと本当はみんな不安でしょうがないはずだ。
まだ話が分かりそうなお登勢さんに視線を向ければ

登「あいつの親父さんには連絡済だよ」

たばこをとりだして、お登勢さんは静かにうなずいた。
そうだった。
銀さんがこんなことになって、一番きがきでないのは、きっとシロウさんだ。

新「それで。銀さんは?」
登「なぁに心配いらんよ。車にはねられたぐらいで死ぬたまかい」
楽「ジャンプ買いに行ったときにハネられたラシイネ。イイトシして、こんなん読んでるからこんな目に合うアル」
キャ「これを機会にすこしは大人になってほしいモノデスネ」
登「まったくだ」
新「はぁ」

心配してない風をよそおってるけど。心配なのはわかる。僕もそうだから。
それでもみんな態度をくずさないところに関心・・・

「いやぁ〜。そういってもらえるとはねたこっちも気が楽ッス。
マジ、すんませんでしたぁ。携帯でしゃべってたら確認おくれちゃってぇ」

なんか割り込んできた。

そっちをみれば、紫の着物をきたちゃらそうな男がいた。
バカだなこいつ。
心配してないわけないだろうが。
そのとおり、神楽ちゃんとお登勢さんが風のような速さで僕の脇を駆け抜け、銀さんをひいた犯人と思われる男を凹殴りにしていた。

やっぱり看護婦さんにうるさいと怒鳴られてしまった。



それからようやく入れた病室にいた銀さんは、思いのほか元気そうだった。
先生が言うには、怪我も大したことはないらしい。
ただ頭を強く打っているようで

登「なんだい。全然元気じゃないかい」
楽「心配カケテ!もう、ジャンプなんて買わせナイからネ!」
新「心配しましたよ銀さん。えらいめにあいましたね」


銀「だれ?


「「「「え」」」」



銀「いったいだれだい君たちは。
ぼくの知り合いなのかい?」



医「怪我はどうってことないんだけどね。その拍子に記憶もポローンっておとしてきちゃったみたいで」

「「「えぇぇぇ!!!記憶喪失!?」」」





―――銀さんは記憶喪失になってしまったらしい。







**********







医「えーっと、みなさんご家族で?」
登「あたしゃ保護者がくるまでの代理だよ。じきに親はくるよ」

先生が病状の説明を軽くしてくれたところで、廊下の方からタッタッタと軽い音がして、お登勢さんが「きたな」と視線をそちらに向ける。
僕にもそれが誰かすぐにわかった。

コンコンと控えめにノックがなる。
それとともに黒い影が扉をあけて入ってくる。

はいってきたそのひとは、らしくなく、似合わない困ったようなへにょんとした笑みを浮かべていた。
普段は鮮やかで印象的なその緑の目は、今日はどこか輝きがなりをひそめている。


夢『・・・うちの銀時が病院に運ばれたって聞いたんだが』

本当に急いできたようで、土方さんは、真選組の隊服のまま姿を見せた。
それに先生が目を丸くしている。

医「え。あ、親御さん?」

わかります先生。その気持ち。
ぼくもはじめて土方さんの年齢や、銀さんとの関係を聞いた時の驚きは忘れられない。

夢『はい。坂田銀時の父親ですが・・・それでうちの子は』
医「・・・ず、ずいぶんお若いですね」
夢『ああ、若作りってよく言われます。もういい年なんですがね』

困ったように頬をかく土方さんは、いつもより元気がない。
鬼の副長と呼ばれたひとと同じとは思えない表情だ。
その視線がせわしなく動いて、ベッドの上に上半身を起こしてぼぉーっとしている銀さんをみて動きを止める。

登「先生、だまされんじゃぁないよ」

土方さんの困惑具合を感じてか、はぁーと煙草の煙を吐き出しながらお登勢さんが言葉をつなぐ。

登「その若造の見てくれのくせにそいつ、あたしより年寄りだからね」
医「そ、そうですか。うらやま・・・ゴホン。とりあえず坂田さんについてお話します。
強く頭を打ったようで・・・」
夢『命に別状は?』
医「それは問題ないですが、見ての通りだからイイと言える状況かは怪しいですね。
事故前後の記憶がちょこっと消えるっていうのは、よくあるんだがねぇ。彼の場合、自分の存在も忘れてるみたいで。ちょっとやっかいだな」

夢『・・・それでも、無事でよかった。命あってこそだ』

先生の話を聞きながら、これ以上大きなけがはしていないのだと知り土方さんはほっと息をついていた。
そういうセリフをさらりと言えちゃうぐらいに土方さんは、たぶんこの中の誰よりも銀さんを心配してるのだとよくわかった。

医「なぁに、人間の記憶は、木の枝のように複雑にからみあってできている。その枝の一本でもざわめかせれば、他の枝も徐々に動き始めていきますよ」
夢『木の、枝・・・』
医「ええ。ま、あせらず気長にみていきましょう」


そのあとちょっと先生と今後のことを話した後、銀さんは退院を許可され、一度自宅にもどってみることとなった。
病院を出るときにはいつのまにか普段の着流し姿に戻っていた土方さんは、銀さんを案内する僕らの後ろを歩調をお登勢さんに合わせ、カラコロといつものようにゲタをならして万事屋までついてきた。
その間に土方さんから、銀さんに声をかけることはなかった。





新「ここが万事屋ですよ!」

僕らがそう言って、万事屋の説明をし、家の中に銀さんをつれていっても銀さんの反応はさっぱりだった。
あの定春をみてもかわらない。
土方さんが入り口の方で、壁に寄りかかりながら僕たちのことをみていたが、とくに何か口出してる来ることはなかった。
さすがに銀さんが定春に頭部からがぶりとやられたときは、「はぁ〜」とため息をついて『定春、それは食えねぇよ』と名前を呼んでとめると、銀さんを定春の口からズルリとひきづりだして救い出していた。
銀さんの好きなTV番組を見せてもダメ。
神楽ちゃんが「もっとばかになれ!」とゆするも効果はなし。
それでも思い出さない銀さんに困ってしまってお登勢さんに助けを求めれば、かぶき町を散歩してこいと言った。

登「江戸の町、ぶらりとしてきな。こいつは江戸中に枝はっている男だ。 記憶呼び覚ますきっかけなんかそこらじゅうに転がってるだろうさ」



それもそうかと、今度は町に銀さんを連れて行くことにした。
店があるからと残ったお登勢さんとキャサリン、年寄りは留守番してるわと残った土方さんに見送られ、僕らは銀さんの記憶を取り戻そうと町に繰り出した。


そのとき、僕らは土方さんがお登勢さんとどんな会話をしていたかなんて知る由もなかった。







**********







「あんたはいいのかい?」
『ああ。いま、ちょうど見回りの時間帯だから町にいったら、真選組の奴らとかちあっちまうからな』
「・・・そうじゃなくてさ。
ったく、本当にあんたもあいつも」

「わかってんだろ。
あたしゃぁ、 “町にいっしょについていかなくてよかったのかい?” なんてきいちゃいないよ。
あの子たちみたいに、 “銀時の記憶が戻ってほしいんじゃないのかい?” って話だ。ごまかすんじゃないよ。
っというわけでいますぐ吐いちまいな。ゲロでもなんでもいまならきいてやるよ」

『本当に、あんたは昔からいい女だなぁ』
「あんた、あたしをしってんのかい?」
『団子屋の娘だろ?あのときは仲間ともどもごちそうさん』
「赤い猫なんて目立つもの、みたことはないはずだけどねぇ」
『さぁてね。当時のオレの毛色が今と同じとは限らねぇさ』
「っで?」
『くいつくなぁ』
「吐いちまいな」

『・・・当然戻ってほしい。思い出してほしい。忘れたままでいてほしくない。
っが。それだけさ。
“〜がほしい”ってのは、あくまで “こっち側” の願望にすぎねぇ。

それに、記憶は重なっていくもんだからな。こういうこともある』


「そうかい」
『ああ。そういうもんさ』







**********







――街につけば、まず桂さんに出会った。

桂さんってば、銀さんに別の記憶を刷り込もうとしちゃったり。キャバクラに呼び込もうとしたり。
それをひきとめようと蹴り飛ばしたり、神楽ちゃんと桂さんが銀さんをなぐって記憶を戻そうとしたり。
もう大変だった。
そのときに巡回をしていた沖田さんに遭遇し、桂さんと真選組のドタバタ劇に巻き込まれ、銀さんはさらに記憶を失った。

ファミレスで、猿飛アヤメとあった。
さっちゃんは、眼鏡を落とし暴走していた。っで、プレイがなんとかと騒ぐし。 そのあとなぜか銀さんをうばわせないとか叫んで、煙玉を投げて銀さんをさらっていくし。 煙玉のなかに無意味に納豆が入っていたり。くさいわっ!!

あわてて納豆をふりほどいて外に出れば、屋根の上を姫抱きだっこしながらさっちゃんがとんでいた。

それを取り返そうとした神楽ちゃんが攻撃を仕掛け、それをよけたさっちゃんが銀さんを落として―――僕が受け止めようとしたら、神楽ちゃんがフルスイングで銀さんをふっとばした。

ふっとんだ銀さんを回収して、今度は姉上のところに相談しにいけば・・・。
記憶喪失のせいで銀さんがイケメン具合を発揮して、姉上が頬を染めたり。
途中からゴリラがストーカーを発揮してコタツの中から出てきたり。
甘いもので目が覚めそうだったところを。
姉上が作った甘いたまごやきという名の暗黒物質をくわしたせいで、0どころかマイナスにもどしたり。



そのあとも知り合いに会いに行ったり、銀さんの行きつけの店とかを回ったけど、夕日が沈みかけるころになっても効果はなかった。





銀「すみません。いろいろ手をつくしてくれたのに、結局ぼくはなにも・・・」

新「やめてくださいよ、らしくもない。銀さんは90%自分がわるくても残りの10%で全身全霊をかけて謝らないひとですよ」
楽「ゆっくり思い出せばイイネ。わたしたち待ってるアルから」
新「今日は家に帰ってゆっくりやすみましょう」
楽「そうね。家でまったりしていレバ何か思い出すカモ」



三人で万事屋へ帰るさなか

「あ、あれはなんだ!」

悲鳴を上げる人たちにつられて、空を見上げれば。
煙を出してふらふらしている宇宙船がみえた。


宇宙船がふってくるなんてじたいに見舞われるなんて、すごいな。
でもこんな危険は何度もあった!

楽「銀ちゃんの出番アルネ!」
新「お願いします銀さん!」

僕らはついいつもの調子で、銀さんに木刀を持たせてしまった。
ノリとツッコミと気合で普段の銀さんなら、あのくらいの宇宙船どうにかしてしまうから。
それに刺激があったほうが、記憶が戻りやすいかもしれないと・・・そう思ったんだ。



このときの僕たちは、この“一人称も「ぼく」と言う人物”のことをまったく理解していなかったんだ。
いまの銀さんは、僕たちの知る坂田銀時ではなかった。





屋根の上で記憶のない銀さんに、木刀を構えるよう願った僕と神楽ちゃん。
銀さんの困惑にぼくらは気付きもしないで。
銀さんは、その言葉に決意を決めたように、落下してくる宇宙船と向かいあう。

っが、しかし―――

カラ ン・・

渇いた音がして、木刀が屋根の上を転がる。
銀さんは、木刀を構えはしたが宇宙船になにかすることはなく、そのまま宇宙船が通り過ぎるのを見送って、木刀を手放した。

楽「銀ちゃん・・・」
銀「無理ですよ。
人間がそんな便利になれるわけないじゃないですか」

うつむく銀さんに、僕らはかけることばが・・・。


ドッカーン!!!!


「「「!?」」」

今度はなんなんだ!?

新「あ!あっちは万事屋の方ですよ!!!」

なんでこういろんなことが重なるかなぁ。
あの宇宙船は、なんと万事屋の方におちたようだ。



僕らがあわててかけつけたとき、万事屋にみごとに直撃し、器用に二階部分だけを破壊した宇宙船の姿があった。
しかもやったのは、銀さんの古い友人だというあの坂本竜真さんだった。

坂本さんはなんか相変わらず銀さんを金さんと間違えて呼んでいて、ガス欠で宇宙船を落下させたとか。
いろいろ有り得ないひとだ。
坂本さんはそのままおかっぴきにつれていかれていた。





新「どうしましょう。家までなくなっちゃった」

見上げた場所は、不思議なくらい万事屋だけが壊れていた。
お登勢さんの店が無事ってどんな運転テクだ。

三人で呆然と見上げていたけど、銀さんが不安そうにしていたから、僕たちはあわてて言葉をかけた。

楽「銀ちゃん・・・大丈夫アルよ!なんとかなるアル!」
新「そうそう。記憶が戻れば笑い話になってますから。
とりあえず今日の寝床を探しましょう!」

そんなぼくたちをお登勢さんや土方さんが、人ごみにまぎれ、離れた建物に身をあずけて寄りかかりながら、こちらを観察するように見ていたのには気付かなかった。


銀「もう、いいですよ。ぼくのことは放っといて。
みんな帰るところがあるんでしょう?
ぼくのことは気にせずに自由になってください」


新「銀、さん?」

銀「聞けば、給料もろくにもらわず働かされていたようですし。こうなった今、残る理由もないでしょう」


そう言って銀さんが見上げた先にあるのは、宇宙船がつきささった万事屋の姿。


銀「記憶も住まいも失って、ぼくがこの世に生きてきた証はなくなってしまった。でも、これはいい機会かもしれない。
みんなの話じゃ、ぼくも無茶苦茶な男だったらしいし、生まれ変わったつもりで生き直してみようかなって」

銀さんが僕たちに背を向ける。
次の言葉に僕らは胸を射られた。



銀「・・・だから。万事屋は、ここで解散しましょう」



痛い。いたい。イタイ。
これは悲しいという気持ちだ。
なんて胸が痛いんだろう。


視界の隅で、髪の毛の色を赤に戻した浪人姿のシロウさんが、ため息をついたのが見えた気がした。


新「う、嘘でしょ銀さん」

信じられない言葉だった。
むけられた背中が、僕らを拒絶しているようで。

楽「や、やぁよ。あたし給料なんかいらない!酢昆布でがまんするから!ねぇ!銀ちゃん!!」

神楽ちゃんがその背においすがろうとしたが、銀さんは振り返らなかった。

楽「銀ちゃん!」
新「銀さん」

銀「・・・すまない。きみたちの知っている銀さんは、もうぼくのなかにいないよ」

歩きだした銀さんをとめる言葉は僕にはなかった。
けれど。

カラン



夢『お前がそれを望むなら・・・やりたいようにやればいい。とめやしねぇよ』



涼しげなゲタの音がしたかとおもいきや、銀さんの前に黒い羽織がふわりとはためいた。
まるで黒い着流しに、黒い羽織。
短めの赤い髪は風にサラサラとゆれていて、その穏やかに細められた緑の瞳が夕焼けによって染め上げられた世界の中で優しくきらめいている。

新「シロウさん!?」
楽「何言ってるアルかシロウ!!だって、だって!銀ちゃんがいないと!!」

黒と赤のコントラストは、まるで宵闇が夕焼けの中に躍り出てきたみたいだ。
このまま夕暮れ色の世界ごと取り込んで、夜へと引きずり込んでいってしまうのではないかと、錯覚してしまいそうになる。

僕らが必死にすがろうとした銀さんとの間に立ちはだかるように、シロウさんは足を進め、いまにも泣きそうな神楽ちゃんの頭をガシガシと撫でた。
少し乱暴なそれは、神楽ちゃんの涙を引っ込めるには十分で、まるで泣くなと言わんばかりだ。
その目はいつになくやさしい。
いや、やさしいのではなく、困ったような・・・少し悲しげな雰囲気があった。

夢『神楽。新八。無理言うんじゃネェよ。
医者も無理やり思い出させるのは、よくないって言ってただろ』

楽「でも・・・」
新「シロウさんはそれでいいんですか!?だってシロウさんが一番心配して」


夢『心配と無理強いは違うだろ』


その言葉にいまさらハッとする。
僕らは「いかないでほしい」「もどってきてほしい」そればかり思っていた。
こどもをさとすような優しい緑の目にみつめられ、そこでようやく僕たちは銀さんのことなど考えず、自分たちの感情だけを押し付けていたのだと気づいた。

だから、銀さんは・・・。


僕らから離れていこうとした?





夢『お前は自由に生きろ』

足を止め、シロウさんのことを不思議そうにみつめる銀さんに、シロウさんは振り向きざまいつものような笑顔を見せた。
神楽ちゃんや僕の頭を撫でていた手が離れ、シロウさんは銀さんの横にたつ。

夢『お前が生きたいようにすればいい。
なぁに、帰りたくなったら帰ってくればいいだけだ。オレたちはいつでもここにいる』

自分がだれかわからなくて坂田銀時じゃないと思うなら、名前だって好きに名乗っていいし、好きな場所で好きな人生を生き直せばいいと――シロウさんのその短い言葉に含まれているようだった。

それはまさに銀さんがさっき言っていた「新しくやり直す」ってこと。

それじゃぁ、二度と会えないかもしれない。
居候で、ただの仲間で、そんな僕らでさえ、あんな押しつけがましくなれるほどに、銀さんと離れたくないのに。
このひとは僕ら以上にもっと離れたくないだろうに。

なのに。
こうやって背を押すんだ。


夢『行って来い』

シロウさんは僕らにしたのとは違う撫で方で銀さんの頭をそっと撫でると、翳りのない笑顔でその背をポンとたたいた。
銀さんがそれにおされて、一歩たたらをふむ。

その一歩が怖かった。

だめだ。そのままいかせてしまっては。
そう思っても僕らは動くことも声を出すこともできなかった。



夢『枝はまたのびる』



銀さんは己のくしゃくしゃになった髪を不思議そうに触ったあと、チラリとシロウさんや僕たちを見て――
今度こそ振り返ることなく、その足踏み出した。

銀さんが夕暮れの町にまぎれて姿が見えなくなるまで、僕らは言葉を発することもできなかった。

























【後日談】

長「おいおい土方君、もうそれ以上酒はやめた方が」
夢『・・・・・・オレは、人間の酒では酔えネェ』
長「意味わかんないからねっ!?っていうか、土方君顔真っ赤だよ!!本当にもう帰んなよ」
夢『か、える。ううぅぅ・・・あの子、もう帰る場所ないって言った。自分は覚えてないから違うって。な、名前まで嫌いだって・・・ふぇ〜ん!!!!』
長「泣いたぁっ!!!?」
夢『ぐす・・ぐす・・で、でも・・・ぐす・・でもちゃんと、ちゃんと名前にも意味あったのに。一緒にみた田んぼが銀色にキラキラしてきれいだったから、ずっと覚えていてほしくて名前付けたのに・・・ぐす・・・松陽しぇんしぇ〜、オレ、オレはあの子に碌な人生を与えてやれなくて・・ふぇ』
長「酔ってるぅっ!?酔ってるから!!俺はその“ショウヨウセンセイ”ってやつじゃないからね!
こんな土方君、おじさんどうしたらいいかわかんないよ!!」


登「はぁ〜。ちょいとイイコト言ったと思いきや――」



登「万事屋の奴らがいなくなった途端これかい!!」



登「泣くぐらいなら最初からやるんじゃないよ、まったく」
夢『オレ・・・グス・・子育て失敗したって・・・総悟がぁぁぁうわぁぁぁん!!!!松陽先生の、かわりにって、ぐす、ぐす・・・オレ、オレ、あんなに頑張ったのに・・・生きてる証は何もなくなったって言われたぁぁぁああああ!!!!』
長「意味わかんないよ土方君!」
夢『酔ってない!!』
長「聞いてないし!?」

キャ「真選組のヤツラ、ズットコイツのコトサガシテイタヨ。邪魔ネ。捨テルカお登勢サン?」
登「よしなキャサリン。そのゴミ袋もおしまい。
ちょうどいいそこのマダオ。その酔っ払い、真選組の屯所まで連れてってやんな」
長「え。俺?」
登「あんた以外に誰がいんのさ」

長「ま、いつも世話になってるしなぁ」

登「ああ、それと。
こいつ、酔うと瞳孔開いたままなんでも切りまくる癖があるらしいから気をつけな」
長「え・・・」









第31話「どうでもいい事に限ってなかなか忘れられない」より








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