有り得ない偶然 Side1
++ H0Lic ++



04.ツバサ持つ者たちの



オレと彼女はもともと“縁”があった。
だからきっと、爺様が願わずとも、オレはこの“地”に来ていたのではないかと思う。

次元の魔女のシンボルは蝶。
その蝶は、きっと時間も時も超えて羽ばたいているのだろう。





 :: side 夢主1 ::





次元の魔女は、名を侑子というらしい。

オレはまだ本調子ではないようで、眠っては起きるというサイクルを繰り返している。
しかし眠ると言っても普通の眠りではなく、何日も何週間も眠り続けていることもあるようだ。目が覚めるのは不定期。

侑子いわく、強い“ちからあるもの”に触れてはだめだそうだ。
触れてしまえば、せっかく修復が進んだ魂がまた砕けてしまうのだという。
砕けるというのはよくわからないが、どうやらそれはオレが眠っている間のことをさすようだ。
寝てる間の記憶は特になく、起きれば前回目が覚めた時よりずいぶん体が軽く感じていたのは魂の修理がうまくいっている証拠らしい。

オレの指には、あの契約の日を境に、海のように青い透明な何かでできた指輪がある。
これは、オレの魂の死とひきかえに、オレから切り離したロジャーの魂を視える形にしたもの。
この海の色は、ロジャーの魂の色なのだと思う。
尚この指輪がある限り、オレは転生しても前世の記憶をしっかり持ち、前世の能力も前以上に制約に囚われず使えるようになるというおまけつきだ。便利だね。
とはいうものの、いつだかの《能力を付与する納力》事態も代価のひとつとして持っていかれたようだから、これから使える能力はかなり限定されてしまっているようだが。



さて。
この完全に、あからさま過ぎるほど異空間に立つ、客も店主もやることなすこと全てが“異常”なこの店で過ごして・・・・えっと、たぶん数年がたったわけだ。
いまだに借金分の代価がどれだけ残っているのかも、そもそも今も人型をしている時点でなにかしら追加の代価が発生しているのではと不安になるが、とりあえずオレは侑子さんがあきるまではここでバイトだ。
っで、目が覚めたとき、たまたま料理を作ってやったら・・・オレの料理に侑子さんがつれた。というか、気に入られた。
おかげで、「にがさないわよ〜おいしいごはん!」とさけばれ、しがみつかれたのは記憶に新しい。

そんなわけで今日も買出しに行ってさばを買ってきたので、さばの味噌煮にしようと家の玄関をくぐったところで――

ボス。

顔面から何かに衝突した。
子供のままの身体はあっけなくはじけとばされ、オレがしりもちをつくハメとなった。
オレがぶつかった相手もそうとう驚いたようで、ん?あれ?振りい向くことなく悲鳴を上げて頭を抱えられたんだけど。これはどういうことだろう?

『あ、えっと・・・』
「お帰りなさい。今日の収穫は?」
『あ、ただいまユーコ。さばが安かったんだ』
「まぁ!すてきね!酒もあると最高よね」
『なぁ、ところっで。ユーコ、こいつどうしたんだと思う?』
「幽霊でも見えるんでしょうよ」
『あー。いるよね。ユーコのところに来る客の一番相談事って、徐霊関係が多かったもんな。たまに変なの来るし』
「ふふ。貴方も十分変よ赤獅子さん」
『わぉ。それ“前の世界”で呼ばれていた呼び名だね。本当にユーコってばなんでも知ってるな〜。どうでもいいけどそのお客さん、オレに近づけないでね』
「当然でしょ」

うずくまっていた眼鏡の青年をまたぎ、館から外に出れない侑子のかわりに捕獲してきた戦利品をみせ、今日は日本酒が飲みたいな〜と台所に向かった。
オレのあとをヒラリと青い光をまとった蝶がふわりとおいかけてきた。かわりに指から指輪は消えている。

『ロジャー、今日はサバの味噌煮だよ。オレ、お神酒のんでもいいかな?』

肩にとまって存在をアピールするような黒い蝶に笑いながら、オレは今日は豪勢にしようと思った。
契約を交わしてからロジャーは、オレにある程度“力”があるとそれを糧に具現化するようになった。
具現化とはいっても一瞬で、そのときばかりはオレの左手の薬指から指輪が消える。

同時に、オレに彼を顕現できるだけの力がないと―――





ブツリとTVの電源を切ったように視界が真っ黒になる。
ふいにドサリと鈍い音が聞こえて・・・

ああ、またやってしまったと思った。

今度の眠りはいつ目覚めるだろうか。



つか、買ったサバをせめて冷蔵庫に入れてくれ!!!たのむだれか!食材を・・・・





* * * * * *





見覚えのある暗闇と暗い水の上。
ピチョーンと鳴り響く水滴の音。
水面から1mぐらいの場所に浮かぶ数々の本。

急な睡眠に入ったオレを配慮してか、気付けばオレの側にロジャーの姿はなく、左腕に青い蝶の刺青が浮かんでいる。
自身を見下ろせば、精神世界だけあって先程まで侑子に記せられた服とは違う真っ黒な服を着て水面の上に佇んでいた。

『よばれたか』

この世界に来てから何度目かの光景か。
再びオレは精神世界もとい夢に入り込んだらしい。

それともオレの魂が破損しているから眠っていることが多いのも原因かもしれない。

または"夢渡"をしている者が多数いる影響か。
淡い桃色の花を持つお姫様が、やたらと夢を行き来しているのに引きずられている可能性も高い。
他にもこの世界は、過去や未来関係なく夢を渡る者がいる。

その証拠のように、バサバサという鳥の羽ばたきの音とともに、真っ暗闇に白いものがわりこんでくる。
黒い背景だったものに白い鳥が割り込んで、空間を白に塗り替えていく。
時空も次元も超えた夢を渡る者が介入してきた証拠だ。
そして空間は、白い羽が舞いおちる純白の世界へとかわる。

世界の真ん中にいた小さな白い子供が振り返る。


[コンニチワ。カミサマ]


背に翼の模様の入った白い服をきた子どもは、こちらを認識するとふわりと笑みを浮かべ、来訪者たるオレたちを歓迎してくれた。

腕の入れ墨が発光し、ふわりと蝶の姿のロジャーさんが飛び立つ。

あのこどもが白と鳥であるのに対し、真っ黒なオレは蝶だ。
空間も色もすべてが真逆だ。
でもお互い、その身に《はね(ツバサ)》を持っていることには違いない。

[カミサマ・・・あの■に■えた?]

『ああ。それでお前は?探し物はみつかったか――“ツバサ”?』

白い子供はオレをカミサマと呼ぶ。
最初の夢渡の際に、無茶苦茶な願いを一つしてきた存在だ。

あれ以降、何度かこうして夢で接触している。

“ツバサ”は探し物をしている。
ずっと・・・。
願いをかなえるための"必然ではないもの"を探して。

けれどその進捗はあまりよくないらしい。
そりゃぁそうだ。
あんな"願い"。
どんな神でも、魔女だって無理だ。

案の定、こどもはオレの言葉に首を横に振った。

[■■■を■■■■ぇ■■■■■■ぃ■■■■■て]
『それをオレに頼むのか?お前はすでにオレと契約している。その代価を“オレが払う”とも約束した。いま、お前が言ったその願いをオレに望むということは、あの契約にさらに追加される。お前たちにまだ支払える代価はあるのか?』
「・・・・■■■みたい」
『すっかり次元の魔女と似たようなことを言うようになったと思っただろお前。だが世界が成り立つために必要なものだ。願いをかなえるために“使った”ものをそのままにしておくと、“そこ”に穴が開く。その穴を防ぐためには変わりのつめものが必要なのさ。それが代価だ』

オレは優秀な生き物でもなければ、この世界の住人でもない。
神とはいえ、神一人一人にやれることは決まっている。それはオレも同じ。
ましてや神であったのはこことは異なる別の世界でのこと。オレには子どもに応えられるような力は、この世界ではほぼないのだ。

オレのできることは本当に少ないんだ。

そんな神の成れの果てのような自分にさえ、叶えたい夢があるからと、夢を伝ってこうして会いに来てくれる者がいる。

けれどオレには“ツバサ”の今回の願いをかなえてあげることはできない。
だってオレはすでに“ツバサ”から、“願い”をひとつ、たくされているのだ。
この“願い”があるから、いまだに魂の回復が完全に終わりきらないともいう。

どうも侑子は、この先に起こるであろう“何か”が変わる未来がみたいらしく、「イレギュラー」であるオレならと期待している。
絶対的な必然。運命というサダメからはずれた未来を望むのは、なにも目の前の子供だけではなく次元の魔女である侑子も同じだ。
彼らはみな必然を知っていながら運命を捻じ曲げようとしている者たちだ。

夢で白いこどもとあっていることについては、侑子なら気付いているかもしれないけれど、オレの好きなようにさせてくれている。
侑子はいつも未来というものに期待をしてはいるが、すでにあきらめている。
白いこどもとオレの邂逅さえ、侑子にはかすかな希望になるのならいいと思う。

ま、難しい話はおいておこう。
よくいうだろう。神への願い事は口に出すと叶わなくなると。
誰が、どんな願い事をオレにしたかなんてことは、きいてくれるな。それこそ野暮ってもんだろう。

問題は目の前。

オレの目の前には、大人が守るべきこどもがいる。
しかも眉を八の字にさせて、必死で泣くのをこらえようと踏ん張っている強がりな子供だ。
困ったように泣きそうなその顔の“ツバサ”をひきよせ、そのまま頭を撫でてやる。
するとそいつが顔を上げてオレをみあげるが、くしゃっと顔をゆがめていて・・・

『ああ、もう!泣きたいなら泣け。ここにはオレたちしかいない』
「・・・デモ、ロジャー、サン、イル」
『あいつのことは空気と思え』

蝶々なんて気にするな。
泣けばいいんだ。
子供は食べてわめいて寝て遊ぶのが仕事だ。

夢の中ぐらい泣いてもいいじゃないか。

何度も何度も言い聞かせて、“ツバサ”から涙を引き出す。
こうでもしないとこのこどもは決して泣かないのだ。
こいつはいつも夢の中だっていうのに傷だらけで訪れるか、泣くのをこらえる。
オレは転生しまくってるからね。魂でいうなら大人だ。
どんなやつだってもはや小さな子供のように感じる。
ましては神頼みをしてきた"人の子"だ。
かわいいとおもわないはずがない。

ああ、こいつの願いをかなえてやりたいもんだ。

ポンポンと背中をさすってやれば、しだいに腕の中から「ヒック」「ひっく・・・うぅ・・・」と微かな鼻をすするような音とかすれた声が漏れだす。

『願え。
願い続けろ』

ここは夢の世界だから、実際にこの子をたすけてやることはできない。
いまはお互い体がない精神体だ。
このまま“ツバサ”のもとにいってやることも、実体で触れることも、お互いを認識することもできないだろう。生きる世界線と時空と次元が違うのだから。
オレはなにもこの子にしてやれることはない。

“今”はまだ――


その小さな背を撫でてやる。

こいつの目が覚めるまで側にいてやること、こいつを泣かしてやることしか、"今"はできないから。
だから今だけは存分にこいつを甘やかすのだ。










なぁ   ツ バ サ

オレもお前も


 い つ か ――





自由に“飛べる”ことが できれば いいのにな








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