【短編】 シカマルと恋の傍観日記 |
-- side シカマル -- 本日は山ひとつ分の広大な敷地から、とても小さな指輪を捜すという任務。 あまりに範囲が広く対象も小さいので、下忍三班ともあつまり、懸命な捜索を行っている。 メンドクセーけど、やらないで寝るという選択肢は、目を光らせている上忍のせいで無理だ。 しかたないので、本気を出さずダラダラと指輪を捜す。 だけど、ただ指を捜しているのもすぐに厭きた。 そこで何か面白いものはないかと考え、おれのまわりでブツブツ文句を言ったりいろいろ騒がしく草むらをひたすら漁る仲間たちの姿が目に留まり――暇つぶしにちょうどいいものをみつけた。 この場で探索をしている面子を観察しよう。 少しはこのしちめんどくせー状況も楽しくなるかもしれない。 はたけカカシ率いる第七班。 まずおれを含めたこの9人の中で、一番騒がしく、一番強い連中がそろった班だろう。 しかもあそこは、おれやイノ、チョウジが三人がかりでかかっても足元にもおよばなそうな上級の血筋がなんちゃって2人もいる。 血だけじゃなく、全員が全員、とんでもない実力を隠し持っているのは間違いない。 第一にはたけカカシ。あのひとは、本物戦争を知っている。 その血筋は、白い牙といわれた父親の血を色濃く継いでいるし、なにより本人もコピー忍者として名高い。 三忍と火影を抜かせば、今でも里でかなり上位に入る力量の持ち主だ。 最近はボォ〜っと空を見上げてることが多いが、強いのは変わらないだろう。 弱点は、エロイことと目が死んだ魚のようであること、遅刻癖が途方もないことだ。 現に今日も4時間も遅刻している。 次に春野サクラ。 七班唯一の女子。 アカデミー時代は、忍には向いていない頭でっかちのただの女の子で、サスケバカだった。 それが今じゃどうだ? あまとまりが絶対ないだろうといわれている七班の男子を迫力ある笑顔ひとつ、言葉一つ、拳ひとつで押さえ込んでいる。 親父が女は怖いといっていたが、いまの七班を見ていると女という生き物の怖さがよくわかる。 春野サクラは、うちはサスケが好き――だった。 今はしらん。 うちはサスケは、里一番の瞳術をあやつる一族のこども。 いっけんクールで口数も少なく常に女子どもが、サスケをみてキャーキャーと甲高い声を上げるので、おれはサスケに近寄らない。 うるさいのは嫌いなんだ。 だけどおれはそのクールビューティーの本当の素顔を知っている。 サクラのように恋愛感情とは違う。サスケは兄弟愛を優先するので、ぞくにいうブランコンだ。 それも究極の。 さらには現在うずまきナルトという弟のような存在ができたためか、やたらとナルトにくっついている。ナルトにくっついているのはサクラも同じだが・・・。 まぁ、それのせいかサスケの態度も随分柔らかくなったのはいいことだろ。 ・・・たぶん。 サスケの将来は、うちの父親のように母ちゃん――というか、嫁さん――の尻にひかれることは間違いないだろう。 かっこいいこというわりに、絶対嫁さんに勝てない。 そんな強い嫁が彼の元にはくるだろうことが、目に見えるようで、なぜか目からしょっぱものがこぼれそうになった。 サスケの進化の仕方はそういう進化だった。 忍術について、サスケはアカデミー時代から変わらず人一倍ぬきんでた忍術の才能を見せているが、驚くことに、サクラがそのサスケと同等かそれ以上の動きを見せている。 この合同任務で見ている限りだが、ナルトの暴走はともかく、サスケやカカシに対してみせるサクラのつっこみには恐ろしいものがあり、木を殴れば彼女の一撃で粉砕している。 これはそうとうのチャクラを一気に拳に集中しているのだろうが、下忍にはあるまじき能力といえる。 いったい七班の間で何があったのか? 七班最後はうずまきナルトだ。 サクラの桃色の髪も目立つが、ナルトはそれ以上に鮮やかな黄色の髪をしていて、さらに目立てといわんばかりに前髪の一部が赤くメッシュになっている。 あいつの母親がハバネロと異名を持つほどに赤い髪だから、ナルトの赤色もうなずける。 父親についてはだれもしらない。 ただおれは、ナルトにたまに違和感を覚える。どこかで似たような容姿の人物を見たことがあるのかもしれないが、それはいまはどうでもいい。 ナルトに関しては、あげればいくらでも特徴がでてくる。 忍にあるまじき、目も覚めるような明るいおれンジの忍服をいつも着ていることといい、 さらにはおれが知る限り、ナルトは物心つく頃からいつも人形を手放したことがない。 母親そっくりの「だってばよ」という口癖も叱り、常に全力で大声を上げて駆けずり回っているところもまた目立つ要因のひとつだ。 とにかくナルトという忍は目立つ存在で、おれにとってみれば、アカデミー時代のイタズラ仲間でもある。 ナルトはドベだけど、こいつは間違いなくこの場所にいる誰よりも強い。 なぜなら、いまとなっては最強と言ってもいいだろう下忍春野サクラを「お願い」のひとことで言うことを聞かせてしまえるのだ。 そのお願いには、兄弟を大切にするうちはサスケも率先して聞いている。 ナルトほど最強のヤツはいないだろう。 ちなみにこのナルト。うちの班の山中イノが大好きで大好きでたまらないらしい。 みていて微笑ましいほどアピールしているのだが、いかんせんイノは気づいていない。 しかもナルトは日向一族と仲がよく(幼馴染みだということは調べた。知らないやつのほうが多い)、ヒナタといるときは普段とは又違う笑みを浮かべる。 ヒナタもナルトを慕っていて、普段はほとんどしゃべらない彼女が、ナルトには自ら口を開いて話しかけている。 なので、イノは見事なまでに誤解している。 ナルトはヒナタが好き。ヒナタもナルトが好き。 たしかにお互い好意はあるだろうが、それは幼馴染みゆえの気心の知れた相手という雰囲気だ。 ライクであってラブじゃない。 ナルトにとって不幸だったのは、山中イノという少女がひとよりも大人びていて、ゆえに幼い頃から世話焼きで、困っている子を見捨てられないような少女であったことだろう。 サクラがいじめられてるときもかばったり、彼女が明るくなれるようにわざと嫌われ役を買って出たりと、イノはとにかくできたヤツだ。 アカデミー時代では、サクラが本当にサスケを好きなのを理解しているから、サクラのためにすきでもなんとも思っていないサスケに絡んでいたほど。 「イノ、イノ!みてくれってば!おれってばさっき、美味しそうなきのこみつけちゃったってばよ!!」 「ナルト、あんたそんなもの捜してないで、しっかり指輪を捜しなさいよ!!いつまでたっても帰れないじゃない」 「あ、うん。そうだってばね〜。ごめんねイノ」 「いいから、あんたはお得意の探査能力とやらで指輪探しなさいよね」 嬉しそうに“それひとつで家が建つとさえ言われるほどのすばらしい薬になる幻のきのこ”をイノに手渡そうとしていたが、それもままならず「こっちはわたしたちがやるから、あっちを捜してきて」と、ヒナタのいる方を善意で示すイノに、今にも泣きそうな顔をしながらナルトは逆らえずにしょんぼりと歩き去っていく。 その様子を遠くで見ていたヒナタの顔が、物凄くひきつっていたのは・・・絶対気のせいじゃない。 イノはいいことをしたといわんばりの笑顔で、ヒナタに手にしていたきのこを渡してその場にしゃがみこんでヒナタと話しながら探査を始めたナルトをみて満足そうにうなずき、再び草を掻き分けて指輪探しを再開する。 チョウジが何か言いたそうにイノをみていたが、結局チョウジも何も言わなかった。 その様子をアスマと七班の面子が、哀れみたっぷりの表情で見ていて、サクラとサスケが落ち込んでいるナルトの肩をなにげなく叩いているのが見えた。 チラリとおれの横にいるイノをみると、イノは鼻歌を歌いながらとても嬉しそうに草と格闘していた。 イノ、たのむから――早く気づけ。 あまりにあわれで言葉も出ない瞬間・・・ そして今日も日が暮れる。 それでいいのか青春!?面倒くさがりのオレでもさすがに今日だけはツッコミをいれたかった。 できれば、あのきのこ、おれがほしかった |