02.うずまき ナルト |
-- side オレ -- 真っ暗で。でもあったかくて。 懐かしい感覚に、ここは誰かのお腹の中で、自分はまた生まれ変わったのだと気付いた。 聞こえてくる声は、優しかったり騒がしかったり。 『なんて名前をつけるか決めたのかミナト?』 『あぁ。それならもう決めてあるんです』 『女の子でも男の子でもいいように』 『ナルトっていうんです』 『クシナと二人で考えたんですよ。自来也先生のこの本からとって』 『いや。でもその本は…目の前にラーメンが偶然あったからで……適当に。マジでか?本当にそんな名で後悔せんか?』 『もう決めたんです!この本の主人公みたいに強くなってほしくて』 聞こえてきた会話に思わず母親の腹の中で噴き出したのは秘密だ。 いや〜…本当に食べ物のナルトから命名されるとは驚きだ。 あまりにビックリしたせいか、母親の「あら、動いたわ。きっとその名前がいいって言ってるのね」とかいう嬉しそうな声が聞こえた。 どうだろう? 別に名前にこだわりはないけど、できるなら食べ物の名前をそのままつけるのは遠慮願いたいものだ。 まぁ、両親がコレだ!と決めたのなら従うけどね。 あとで名前のせいでイジメられたら……すねてやる。 ミナト。ナルト。自来也先生。クシナ。 これだけでも十分わかるとおり、ここは忍の世界。 しかもどうやらオレが『ナルト』らしい。 おおー。生まれて死んで、とばされて…転生とトリップ体験を何度か繰り返したオレでもビックリだよ。 漫画のキャラに成り代わってしまった!! 本物のナルトはどうした!? まさかオレが殺してしまったのか!? それとも実はナルトはいて、オレはただ憑依しているだけとか? ぐるぐるぐる…わけがわからなくて目が回るような気がした。 それで色々と考えた。 オレの知りたいことに答えをくれたのは、原作ナルトの天敵『九尾』だった。 九尾こそが、オレがナルトであり、今を生きていることへの証明だったとしるのはもう少し先のこと。 ++++++++++ 結局オレが誰なのか。 本物のナルトを殺してしまったのではないかという考えは、なやんでいてもどうしようもなかった。 今のオレは、母親の胎内にいる赤ん坊だったし、ましてやまだ生まれてもいなかった。 自分の心のうちに向けて呼びかけても、本物のナルト君の気配さえない。 こりゃぁ、どうしようもないなと思って、このあったかい暗闇の中で身を任せて眠ることにした。 グァァァァァァァーーーーー!!!! 眠りについてすぐ、空間を震わすような轟音が聞こえて、パチリと目が開きました。 目が覚めたのは、すぐ側に感じる強い狂ったような気配。 「うっせー!!」 オレが目を開けてもグオングオンと響く音に、オレは頭が痛くなって耳をふさぎながら怒鳴った。 すると殺気がもれたのか、ピタリと音がやむ。 やべやべ。 うっかりハンター世界で覚えた念の交じったワンピース世界仕込みの覇気がもれてしまったようだ。 ワンピース世界の赤髪の義父いわく、オレの覇気は凶悪だそうだ。 うっかりうっかり。 そこでふと自分が胎児ではなく、13歳くらいの子供の姿をしているのに気付いた。 前世のそれとは違う『うずまきナルト』の姿で。 目も見えるし、足元にある水溜りにオレンジ色の影が映っているから間違いない。 なぜか顔のほうが一部分赤かったけどそれは見ないことにしておいた。 そして周りをみわたせば、真っ白な空間。 そういえば原作のなるとお腹の中は、下水道みたいなパイプがいっぱいあったりしたけど、やっぱりまだ生まれてないから関係ないのかな? とにかくオレの周りは白かった。 もう一度よく見回し、遠くのほうでひとつ色があるものを見つけた。 目をごしごしこすって確認したところ、そこには赤い長い髪の女性と、何十何百という白い鎖に撒きつかれて地に縛られた巨大なキツネがいた。 ほかには何もなくてつまらなかったので、ピチャンピチャンと水の上を走って二つの影のそばに走り寄る。 う〜ん。水の上を走るなんて、少し変な感じ。 でもそれも女性のそばまで来たところで白い地面に変わったのでホッとする。 こちらをみながらがりがりと地面に爪を立てて怒っているようにグルグル唸っているキツネ。 その側にいたのは、年老いた一人の女性の姿。 あのパンダみたいな二つのお団子とか、額のひし形とか…どっかでみたことがある気がするよ。 「あれ?だれだっけ?」 「クシナでさえ来たことがないというのに、ここまでくるとは…」 「あ、思い出した。ミトさんだか、ミコさんだぁ〜。 たしか初代のお嫁さんで、一人目の九尾の人柱力でしょ」 赤色の長い髪のおばあさんが驚いたように振り返ったのを見て、相手が誰か思い出した。 その驚きようからしてどうやら正解だったようで、前世での原作知識はまだ薄れていないようだ。 でも原作とは少し違う気がする。 だってミトさんがここにいるし! さて。挨拶をすましたところで、もう一度状況を確認してみる。 場所は真っ白な空間。 水溜りがあってそこの中心には九尾がいてる。 上や横や下やら、どこからのびているのかわからない鎖と、ミトさんから伸びている二種類の鎖で覆われている九尾は爪を地面に立ててはいるものの動けないようだ。 ミトさんのものとは違う方の鎖をなんとなく視線でたどって…感じた感覚で、それが"今"の人柱力のものだとわかる。 なるほど。 母・うずまきクシナの封印だな。 「お前はクシナの子だね」 「あ、はじめまして〜。それでミトさん?ミコさん?」 「ミトね。うずまきミト」 「オレもー。オレもね『うずまき』になると思うよ。うずまきナルトぉ〜。たぶんだけどね」 ミトさんは、原作でいうナルトの中にいた波風ミナトやうずまきクシナのように、今ではチャクラだけの存在のようだ。 やがて消えると彼女は言っていた。 それもこれもすべて二人目の人柱力たるうずまきクシナとその子供のためらしい。 「ところで、ここって深層世界ってやつだよね。 ここにさ、金色の髪に青い目の奴いないかな?」 オレ以外に。 そう尋ねるとミトさんは不思議そうな顔をして、オレの方を指差してきた。 「そこにいるじゃないか」 「えっとね。だからオレ以外だってば」 「いないねぇ。ここにいるのは初めからお前だけだよ」 「そうなの?」 てっきり魂のどっかに本物のナルトがいるんじゃないかと思ってたけど、違うと彼女にいわれた。 なぜそんなことを聞くのかと問われ、オレには前世の記憶があって、さらに別の『うずまきナルト』のことを知っていることを告げた。 オレと『オレの知るうずまきナルト』は、どう考えても違う存在だ。 だからてっきり憑依だと思って、本物のナルトの魂を探していた。 それをすべて話すと、「お前が『うずまきナルト』だろ?」と言ってきた。 「いやいや。ミトさんや。オレはオレだよ。ナルトのわけないじゃん」 「お前の知る『うずまきナルト』はまた別の世界のナルトだろうねぇ。 この世界ではお前が『うずまきナルト』でしかない。 お前がお前たる記憶はすべて前世のもの。今世はナルト。 わたしはずっとクシナと共にいるからわかるんだよ。 ナルトという命が生まれてから、その魂はずっと一つ。 わたしが感じていた魂は、ずっとお前のものだったよ。 その証拠にあの九尾が狙っているのは、別の魂ではなくおまえ自身。狙われる理由はわかるだろう?」 ミトさんとクシナの他に唯一九尾を封じることができる"器"として。 「お前には『うずまき』の血が濃く流れているようだねぇ。髪が赤いのがその証拠」 そこで先程水面に移した己の姿にあって、見ぬふりをした"赤色"のことを思い出した。 オレの今の姿は、外見は原作のナルトそのままなのに、前髪一部分だけメッシュがかかったように赤かった。 それは原作のナルトではありえない色。だからさっきはみないふりをした。 だけど、それにも理由があったのだといまさら気付いた。 「ふふ。わかったようだねぇ。 それが『うずまき』の証。 だからまだ生まれていない弱いお前ならばと、九尾はお前を狙っている…が、それを一瞬の殺気で黙らせたのもまたお前」 「は?殺気?あ〜…じゃぁ、さっき突然静かになったのはそれが原因か。 う〜んでもちょっと待って。 気がついたらオレがここにいた理由って、もしかしなくとも九尾が呼んだの?」 「そうなるかね」 「でも九尾の願いとは裏腹に、オレをのっとるなり殺すなりするのは無理だったと。 オレってば、無垢な赤ん坊じゃないし。すでに前世の記憶がある分魂だけは大人だしね。 九尾の策略は敵わず、次の器たるオレを魂のうちに殺すことはできなかったと…」 「さすがはクシナの子。生まれる前から九尾をだまらせるなんて随分と太い神経をしているよ」 九尾が狙うのは、オレ。 渦の国がなくなった今、オレは次の器になりうる存在。 今、ここにいるオレ自身と、九尾が呼応しているらしい。 だから九尾に呼び寄せられてこの精神世界に来てしまったらしい。 つまりオレ自身が『うずまきナルト』で、本物のナルトなんてものは始めからいないということらしい。 あくまでオレはナルトで、ただ前世の記憶を持ったままここにいるということらしい。 なるほど。 オレはオレで。 オレがナルトなのか。 ぶっちゃけ、漫画大好き人間が前世じゃなかったら、ややこしいことこのうえないね。 むしろ理解できなかったかもしれない。 いや、オレ的にはいいけどね。 漫画世界万歳!んでもって、転生万歳。 原作なんてオレが楽しく生きていためにある予備知識に過ぎない! 目指せ!!世界平和という名のオレの幸せ!! |