短話. 世界を繋ぎとめる青 |
おれの知る アナタは、いつも大事なことを言葉と態度でごまかして。 そうやって真実を覆い隠してしまう。 そうして、ひとりでカタをつけようとする。 「――代価は、貴方が今を生きるためだけのもの」 「承知でわたしにきた」 「ここは願いを叶える店。 願いはなに?…そう聞きたいけれど、これを代価として受け取ってしまえば―― あなたの『願い』はかなわないわ」 魔女の言葉にアナタは不思議そうに首をかしげるだけ。 とられる『代価』がどれほどのものなのか気にもせず。 「それがどうかしたか?」 アナタがそんなひとだから―― 次元の魔女が眉をひそめるんだ。 そして偉大な海賊の王だったという海のようなひとは、アナタのために指輪に姿を変えたんだ。 「いいのね?『さがしもの』が見つからなくても…」 「ああ。別にいいさ。 自分の願いは自分で叶える。 そもそも今払った代価は、“爺様”の願いの分だ。そのつもりでここにきたんだからな」 当然だろう?なにを言ってるんだ。 そうや言ってくったくなく笑うから。 そんなアナタだから、生きてほしいと『誰か』が願うんだ。 今の願い、『さがしもの』っていうのが、実はおれのためだっていうのは、とっくにもう理解してる。 真実を聞いて泣きたくなっていたおれは、大丈夫だと笑うアナタに頭をなでられ、それだけでなんだか心が温かくなった気がした。 だからこそよけいに思ってしまう。願ってしまう。 いつか『アナタ自身』の願いがかなうようにと… 思ってしまうんだ。 -- side サトシ -- さんの特徴と言えば、一番は、めについてやまない赤い髪だろう。 次は瞳。黄色みの強い明るい黄緑の瞳は、光の加減で金や朱金と様々な色に姿を変える。 そういえば、いつも服装がどこぞのバーテンダーかウェイターみたいな、黒と白の服ばっか着てるかな。 あと、ちょっとドジなところもあるかも。 よくポケモンの背中から落ちては、おれの前に振ってくるし。 よくこけてるのみる。その都度、側の人になにかしらラッキーなことがあるようにみえるけど・・・あれはおれの勘違いかな。 さんといえば、ポケモンとの関係が凄いかな。持ってる手持ちのポケモンを普通じゃないのが多いし。 あ、そうそう。最後は、左薬指の指輪。 存在感が凄くある気がするのに、なぜか指摘するまで誰も気づかない。 ほとんどの人が気にも留めないし、気付くこともなくおわってしまう――そんな不思議な青い指輪。 じっくりみせてもらったことがあるけど、あの指輪は眺めていると漣の音が聞こえてきそう。 そんな深い青色のガラスのような透明感があるのに、深い色をしている。 その指輪に関しては、おれが物心つくころにはもうさんはすでにしていたように思う。どの写真を見てもしているから、誰かの形見なのかもしれない。 そうそう。指輪というと、こないだそれから発生したタケシとのノリノリなテンションが凄かった。 はじまりはなんだったかな。 タケシがさんの指輪に気付いて、尋ねたんだ。 「形見だとしても左の薬指ってのは…。そんなものしてたら、可愛い子が寄ってこないぞアザナ」 「これ、とれねーんだよ。だからもうあきらめてるよ」 以前タケシが左の薬指に光る青い指輪を見て、難しい顔をして言った。 それにさんは困ったような表情をしていて、指輪に何かあるのかなと思っていたら。 その二人の表情がとんでもなくつらそうだったから、おれは何も言えなくて。 わってはいれるような空気じゃなかったから、ピカチュウを抱きしめて、そっとその場を離れようとした。ら―― 「さぁ、我が心の友よ!共に叫ぼう!!せーの!お・ね・え・さぁーーーーーーんっ!!」 「ダメだタケシ!そんな女性は逆にひく! 女性は照れ屋と相場が決まっている!こういう口説き文句は、相手を至上の存在として!全人類の女性は、みな我が女王!我が主!オレは騎士!!ガラスのような繊細な至宝の玉!!手のとり方はこうだ!うやうやしく!そして目を見て、優しく微笑み、そっとつううみこむようにてをとり…」 意味のわからないことをはじめた。 いままでの悲痛な空気はどこへ行った!? 突然タケシが「おねーさーん!」と叫び始め、それに便乗してさんが、目をキラキラと輝かせて熱弁し始める。 それからしばらく意味の分からないことをふたりは、それはもう、さっきとは別の意味で話しかけずらい雰囲気をまき散らして、長々とそして活き活きと語っていた。 その後、嫌がって鳥肌を立たせるカスミを実験に、女性の口説き方講座を始めていた。 ピカチュウがそんな三人をみて、やれやれと首を横に振って肩をすくめていた。 「なぁ、カスミ」 「なによ」 「なんでさんが指輪をしてると女の子が寄ってこなくなるんだ?」 「それはだなサトシ!俺から説明しよう!」 タケシの説明はちょっと長かった。 そして――し、しらなかった。 左の薬指にする指輪って、結婚、指輪…だったのか。 って、それって 「えええええ!?さん、結婚してたのか!!!!」 「ぴか?」 「や。してないけど。はめたらぬけなくなっただけだしな」 「だがサトシ。これは俺たち、お姉さん大好き同盟としては、とても大事なことだ。わかるか?このままではアザナは結婚できない!たとえどんなにアザナが紳士的で魅力的な容姿をしていようと、すでに彼女がいると勘違いされてしまうからなのだ!」 「そうそう。気付けば幼馴染が全員結婚しているなか、オレだけひとりみ。なんて。なんてさみしんだ!!」 タケシと女の人のことですっかり意気投合し、抱き合って涙を流すまでしていたさんだったけど。 結局、その指輪を取る気はないようだった。 「ふっふっふ!それにな聞いて驚けよ。なんとこいつは魔女との契約だから外せないのさ。 それに――これは・・・・というかただ成長して指が太くなってだな、あげく指がむんくで…結局ぬけなくなっちまっただけだけどなー」 魔女との契約とか、おちゃらけて、芝居がかって言うから、なにかのお伽噺をまねたのだとタケシもカスミもおれも思った。 だけどそれがさんの作戦で、“そう思わせる”ように振る舞っていたのだとおれは後で知った。 ********** おれが“その真実”を知るのは随分後のこと―― 「このままでいいんだ。いや、むしろこのままじゃないと…オレは生きることができないんだよ。 オレにとってこれは魂そのもの。 オレを生かしてくれたひとの形見のようなものだから――」 「――さぁ、魔女よ。代価を払おう」 魔女の前でそう告げたさんは、“代価”を彼女に手渡すことよりもあの青い指輪を取った。 お伽噺の魔女は実在した。 魔女は『代価』と称して、さんから『目に見えないなにか』をたくさん持っていった。 「その指輪。あなたの大切な人の命でできているわ。 それとこの代価をたしてもあなたにまうわる『願い』を叶えられるのは一回分だけ。『代価』を払ったあと、あなたはもう二度と次元を超える能力を失ってしまう。 それでは貴方が旅をする理由が、あなたが今、望む“『さがしもの』をみつける”という願いはかなえられないけれど。それでいいのかしら?」 「かまわない。オレが生きていることが、願いへ近づく方法だ。 能力がなくなっても手段ならまだある。 時間を超えるならセレビィが、空間を超えるならギラティナ、パルキアたちが助けてくれる。オレたちには、オレたちができないことをかわりにしてくれる仲間がいる。 だからオレの願いは自分のこと足で叶える! いま、渡したのはオレの願いじゃない。爺様の生きろっていう願いへの代価だからな。そこ、まちがえないでくれる?」 ニィっと笑ったさんには、なんの後悔も見れなかった。 「『代価』はいただいたわ。これであなたは『生きなければいけなく』なった」 「かまわないさ。さぁ、いこう、いくぞサトシ!!次の世界へ」 そう笑った彼の言葉に反応するように、セレビィが姿をみせた。 「きたな玉ねぎ頭」 「びぃ〜♪」 「そうそう魔女さん。誰かが歌ってた曲の歌詞なんだけどな、『仲間がいるから』大丈夫なんだとさ。 意外と『必然』ってのも、なんとかなるかもしれねないぜ」 「…いくのね。アナタは先へ」 「ああ。『死んだ赤い鹿なオレ』をよろしく頼むぜ!」 「ええ。まかせて」 「行くぞサトシ!」 ホウオウの背に乗から伸ばされたさんの手を取りながら、その手に光る青い指輪を見て、きっとこのひとはおれが知らない長い時間を旅し続けるんだろうってなんとなく思った。 おれたちはたくさんのポケモンと、時空を超えた。 けれどそれは戻れば、一瞬のことで。 おれたちが旅立ってから、元の世界での時間はあまり進んではいなかった。 「オレはいくけど、サトシは?」 「――地方にいってみようとおってるけど…」 「じゃぁ、今回はここでお別れだな」 「でも、また会えます!絶対に!」 「そうだな。ま、気長に行こうぜ。オレもお前もまだ目標に届いてないしな」 さんと指輪の物語。 それはきっと・・・今の旅が終わっても続くのかもしれない。 そこにはもうおれもポケモンたちも側にはいれないのかもしれない。 なんだか、そう思ってしまった。 それとともに、おれは魔女の言葉を思い出していた。 ――アナタは生きなければいけない。 それはいったいいつまでのことなんだろう。 たぶんさんを守る指輪の主とともに、あの青色が陰るまで続くんだろう。 空の色は海の色。 海の色は魂の色。 世界の色。 あのひとの イノチの色 ―― せめてどこの世界の空も、海も この世界と同じ色をしていればいればいいのに。 そうすれば世界が違っても、繋がっているような気がするだろ? |