有得 [アリナシセカイ]
++ 字春・IF陰陽録 ++
00話 白紙の頁に命を綴る
<詳細設定>
【弥生春(ヤヨイハル)】
・転生し続けている成り代わり主
・芸名「春」/戸籍名「花」※真名は別にある。
・ロジャーと運命共同体
・前世から引き継いだ“超直感”は健在で、未来予知並みに勘がいい
・ナニカ視えている
・魔力がないので始に魔力を分け与えられて生き延びている
【睦月始(ムツキハジメ)】
・花の相棒
・笑い上戸
・魔力がとても巨大
〜 side 春成り代わり主 〜
『これはどういった原理で。どういう理屈だ?』
「お!そこに興味を持ったか!さすがは後継者たるもの!いいかこの術は星を読むことから……」
『・・・・・・(それは聞いてない!)』
そもそもおっさん誰だよ。
というか、さっきのつぶやきは思わず漏れただけで、術の基礎をしりたかったわけではない。
なぜなら気が付けば、見知らぬ場所にいたからだ。
いつものように精神だけすっぽぬけての入れ代り現象が起きたわけでもなく、すってんころりんと異世界にトリップしたわけでもない。
本当に"突然"に、生まれかわったような感覚なのだ。
この自分は、狩衣なんかをまとって、正座してこの見知らぬ男の講義を受けているらしい。
目の前の水盆をみるに、自分は中学生くらいの姿のようだ。
男の話をよそに、周囲を見渡せばいかにも平屋ですとばかりの平安時代風の開放感ある建物が見える。
木目調がいい味わいを出している床、ガラスや網戸がない代わりに薄い板で壁が作られ、一部は御簾や布が風に揺れている。
室内は、棚があふれていて、書物がぎっちりつまり、紐でとじられた紙や、巻物、竹の書簡らしきものある。他には幾何学な道具が雑多に陳列している。
呆然とする自分の正面に座り何事か語っていた大人は、どうやら陰陽師らしく、跡取りになるのだからウンヌンとこちらに心構えや術についての何たるかを語ってくる。
陰陽師……。
信じられないことに、"この世界"における自分はどうやら陰陽師らしい。
いや、無理だろうと、内心思った。
今までの転生のなかで人間に祓われることはあっても、人間の術など学んだことはないのだから。
そもそもこの"世界"の"この肉体"は、オレの力には耐えきれない。
世界も器もなにかも弱いのだ。
その状態でオレが"なにかしらの力"を使ってみろ、穴という穴から血が噴き出すぞ。あげく肉体が先にぶっ壊れるし、隼がよく言う「世界がパッカーンしちゃう」あれがたぶん現実でおきる。
つまり、オレが陰陽術なんて使おうものなら、この肉体は死ぬかもしれないってことだ。
人体破裂の血みどろ木っ端微塵炸裂ショーがみたいならとめはしないが。
自分は今この世界に生まれたんだと理解した。
否、世界そのものが"今"生まれたのだ。
だれかがこの世界を書き始めた。まさに終わりなんか決まっていないシナリオが未完成の、作者が筆をとりはじめた段階。
そんな生まれたての世界――物語と評した方がいいだろう。そこに自分は取り込まれた。
だから"生まれ変わった"と感じたのだ。
『この世界、"弱い"な』
この世界で異質な魂を排除しようという強制力は働いていない。
世界の陰陽のバランスも崩れてはいないが、魔力もない。
月の女神の加護もない。
この世界にオレを殺そうとするような強い力は感じず、いうなればこの世界は生まれたばかりの赤子のような感じだ。その産声に、オレはきっとひきよせられた。
むしろ魂さえ作られていなかったから、あまたの世界から急遽いろんな魂をかき集めて生き物たちに詰め込んだ――そんな感じだ。
だからこそ、世界がまるっと全力でオレを消そうと襲い掛かってきたとしても、オレの魂のほうが格上かつ強すぎてすべてを跳ね返してしまえるだろう。
ただし、いままでの転生において魂が引き継いできた数々の恩恵という力が制御ができない状態ではあるが。
体の内に今までの記憶も経験もあることは理解できる。
できるが、それがこの生まれたての世界であつかうには"強すぎる"のだ。
この世界はまだ護りの力が弱すぎるため、世界に満ちる力を利用しただけではオレの力が抑えられないのだ。
一度自分の力を体内から何かに移し替えて封印でもしないと、この世界を壊してしまいそうだと思った。
『…ふむ』
自分の力が暴走しそうなら、それを抑えるのはなんてことはない。これは長い転生で慣れているので問題ない。
他人の暴走は、まぁ、相手の意識を刈り取るなりすればいけそうな気がする。
オレがこの世界でできることは、基本力技、物理攻撃限定だ。
筋肉鍛えるか。
あとでこの世界の術のありようについて、きちんと学んでおこう。知識はいくらあってもいい。
っというか、一番やばいのは"そこ"ではなく、この世界に"ツキウタメンバー全員"引きづりこまれていないか?と、勘がささやくことである。
つまり、みんなも"同じように、気付いたらこの世界の自分に成り代わっていた"なんて可能性が高い。
そのうち何人が、アイドルをしていて自身が二十歳をとおに超えている。という記憶をもっているか。
この世界のシナリオが出来上がってしまっていたら、その設定に取り込まれてしまって、アイドルをしていた本来の記憶を失っている可能性もある。はたまた、シナリオ通りのことしか口にできないから、記憶があるようには見えない――メンバーもいるかもしれない。
『まぁ、始と隼あたりは記憶がありそうだから、他のメンバーのことはいっか』
始と隼という存在は特異点らしいし、まがりなりにも二人は我らがリーダーだ。
あの辺が何とかしてくれることを祈ろう。
「というわけで、お前にはさっそく式神召喚の秘術を授ける!とくと」
『申し訳ありません。無理です。オレに霊力的な術をつかう能力はないので、物理で行きます!』
「は?」
『物理でいきます』
「はぁ!?いや、お前、それは…どうやって魑魅魍魎や厄災から民を守るんだい?」
『安心してください。すべてぶん殴って祓いとばしてみせましょう!』
どこかの梨の妖精のように「梨汁ブッシャ―!」じゃないけど、血みどろブシャーの肉片になりたくないので、そう宣言したところ、師の絶叫がとどろいた。
ここにうちの始がいたら、きっとオレのどや顔と宣言に甲高い声で大爆笑していそうだ。
脳内に笑いの沸点の低い始が笑い転げるさまが浮かび、幻聴だとわかってはいるがあの派手な笑い声が聞こえた。
いらっとした。
――さぁ!シナリオと設定に追いつかれる前に、物語をはじめよう!!