有り得ない偶然 SideW
++ TIGER&BUNNY ++




第7話 虎と記憶と兎



前世のオレは、その世界の生き物にあるまじきことに生命エネルギーともよべる魔力を持っていなかった。
そのせいでことあるごとに死にかけた。消えるのはいたいことだってしっている。心も痛い。魂をガリガリと削られる痛みも。置いて逝く気持ちも。おいていかれることも・・・すべてが痛みを伴うのだと。オレは知っている。





-- side 夢主1 --





楓ちゃんはどこだろう。オレじたいは一度も会ったことがない、でも血のつながった娘。
虎徹は、彼女たちが大切で、守りたかった。
だからヒーローなんてしている父親をみて、いつも心を痛める母,杏樹のように、心配させないように、つらい想いで待つことにならないようにと――だから楓には、絶対に素性をばらさなかった。

でもね。残念。

オレは、虎徹であって虎徹じゃない。
オレは[アザナ]でもあるんだ。

まだ完全に融合していない今は、アザナの人格が強い。

ねぇ、知ってるかい虎徹?
オレはね、君が思うより、きっと身内が大切なんだ。
オレ、けっこうものに頓着しないし、淡白な性格だと思うんだけど。
でもね。
一度懐に入れたら、オレが一度執着してしまえば…オレは決して手放さないよ。ああ、言葉がおかしいかな。手放さないんじゃなくて、大切で大切で大切でどうしようもなくなってしまうんだ。
強く守ろうと思う。

家族って、大好きなんだ。
だからさ。あんたの守り方はぬるいと思ってしまうんだよね。
もしかすると、あんたが大切に守った者の心を傷つけてしまうかもしれない。
でも絶対守り通してやる。

だから、ばれるとか関係なくいますぐとんでいけよ虎徹!!


『―――っと、思うんだが。
つまるところ、今はそのヒーローであるための行動をしないといけないため、お前の記憶を見てる暇はないんだ。わかるか虎徹?』
[そのいまだから、アザナさんには必要だと思ったんだけどなー]
『あいつが暴走されたら次はどこへ行くかわかったもんじゃない。このタイミングでか?
それより、さっきのはお前も見ていただろう虎徹。 あれで元凶たる「あいつ」のねらいも行く先も判断できる。 さっきスーツのワイヤーがからまってオレが抜け出したあとに、ウサギちゃんが「あいつ」を目撃している。
フィギアスケートのポスターをやぶいていたこどもがそうだ。自分が近づいたら逃げたと、ウサギちゃんにはきかされてるから、ヒーローに隠し事があるのかもしれない。さっきオレたちをつかまえた像のうえには子供がいた。 もしその子供が、ウサギちゃんが見た子どもと同一人物だったら? それにあの像は、やたらとフィギュア告知の看板ばかりねらっていた。 どこからどう考えても「あいつ」がねらってるのは、ポスターにかかれていた少年が出るフィギアスケートだろうが。その会場には楓ちゃんがいるぞ。いいのか?』
[あ、そっか。さすがーアザナさん。目の付け所が違うなぁ。
あはは!おれより年季はいってるだけはあるなぁ〜]
『手をたたくな!喜ぶな!
君になんと呼ばれようとオレはかまいやしないないが。そんなのんきでいいのか虎徹。
フィギアスケートの会場には娘もいるってのに』
[あ…そうだった!
いやぁ、でもいま俺の体って意識ないし。そもそも俺じゃないんだよ。行くのはあんたさ。
でもサンキューなアザナさん]
『今度はなんだ』
[あんたのおかげで、今日の大会のプレゼントも間に合ったし。
なんかいろいろロイズさんも説得してくれちゃって、時間的にゆとりあったし。
あのイケメンウサギちゃんとも仲良くなれたしさ。やっぱ相棒とは仲良くしたいじゃん]
『……』
[え?なにその沈黙。もしかして照れてる?それとも怒って]

怒ってますが。なにか?
だって子供の命がかかってんだぞ!そっちの方が大事だろうが!!


『い・い・か・ら!!さっさとオレを起こせ!!!』



夢の中で、この体の主である虎徹と出会った。





**********





事の始まりは、本日から出勤につき、説明をうけていたその最中。
突然動き出したスティールハンマー像のせいで、斉藤さんからっ詳しいスーツの説明もされずなんだかんだと新品スーツを着させられ出動することとなったのだ。
そのあとに赤いロボスーツに身を包んだ――同じ能力者にして今後のバディーである――バーナなんとかJrのウサギな相方と合流し、彼のサイドカーにのってえんやこら。
辿り着いた先で、さっそく救助だなんだとやろうとしたバーなんとかJrに、そういえばまだスーツのウンヌンを聞いていなかったと、スーツの説明をしていただこうとあわてて彼を引き留めようとしたら、すべってこけて、あげくなんかのボタンを押してしまったらしくワイヤーがとびでて、彼とオレはからまって動けなくなってピーンチ!
そのまま像にふまれそうになったんだけど、そうしたらハンマー像はタイミングよく動きを止めて、オレたちはなんとか助かった。
そうして、それから一時間たってもうごかなかったので、このまま動かないのならいざ楓のもとへ!と思っていた最中、嫌味のようにタイミングよく像は動き出した。
楓ちゃんに会いたかったのにと鬱になりかけていたら、金髪のイケメンにしてバーなんとかとう名前が長い相方に「いきますよおじさん!」と無理やり引っ張られて再出動。
しかし一番についたその矢先にあの巨大な岩の手に捕まってしまった。
ああ、ごめん。あれはオレが悪いわ。
うっかりボォ〜っとしてたのがぬけなかったようで、バから始まる長い名前Jrのウサギな相方に「おじさん!」と怒鳴られてようやく気付いた。
だけどそれには少し遅くて。
つかまったときの衝撃が強すぎて、意識が吹っ飛んだ。



そこで虎徹の幼い頃の記憶をひきついだ。
彼がヒーローを目指した理由。

っでもって、横にその虎徹本人がいて――


[おー。そうだそうだ。このシーンだよ!いやぁ〜なつかしいなぁ。
アザナさんはしらないだろ!あれがレジェンドさ!俺が尊敬してやまないヒーローだ。
本当にレジェンドかっこいいよなー!]

虎徹はヤンキー座りで座りつつ、手で双眼鏡を作ってのぞきながら、楽しそうに目の前を流れていく映像の解説をしてくれる。

ってか

『……なぜいる?』

なにもない真っ白な空間がひろがっているなか、足元だけは真っ黒な地面がひろがっている。
波紋を描くそれは明らかに土ではなく水のような地面で、こちらはオレの精神世界でよくみたので、オレの領域だとわかる。
ほかの白い空間は、虎徹のものだ。
意識を失った瞬間精神世界にひきづりこまれたのか。
ここではオレはザンザス(前世)の姿だった。
そのオレの横には、同じ年齢たる35歳の虎徹が、流れる映像を一緒に見ている。

[あ、俺がひきづりこんだから。
せっかくだからさー、俺がヒーローを目指したきっかけを見てもらおうと思ってさ]

オレが憑依したことで、その肉体の魂が残っていたなんて経験初めてだよ。
え?ちがう?

[俺はたしかに虎徹だけど。お前も虎徹。いまの虎徹はあんただよ]
『つまりあんたはオレが作り出した“虎徹像”ってことでいいのか?』
[正解!ちなみにこの俺をうけとめてくれたら完全にあんたがこれからは虎徹だな。俺はあんたに届ける最後のピースってわけさ]
『だったらそれをさっさと渡して、とっととオレを現実にもどせ』
[いやいや。ここでの時間と現実の時間を同じに考えてもらっちゃ困るよ〜。
この機にね、じっくり時間をかけて渡しておこうと思ってさ。あんたには聞いてほしいことがたくさんあるんだよ!]


そして冒頭に戻る。

その後、なぜか楓自慢を始めた虎徹に切れたオレが、彼の頭を軽くはたき、それにより白と黒の空間がぐにゃりと歪んで混ざり合い始めた。
力を入れずに軽くたたいたから痛みはないだろう。
そんな気遣いに驚いたような顔をしたあと虎徹はえっへへと照れたように笑って、その身体がうっすら光り始めて――

[手間とらせたけど。うん、あと、頼むわ“オレ”]

『わかってるさ』





**********





パチ!っと目を覚ますと、見事に固まったハンマー像。
その腕にギュッという表現が正しいかたちでにぎられて…否、捕まっているオレとバーナビー。

「あ!おじさん起きたんですね!」

『バー……?』

バーナビーJr。だか、バナナ・ビーだったか?
もう長いから、いっそのこと[バーナー]とか呼んじゃだめだろうか?
ヒーロースーツの塗装が赤いから炎みたいでちょうどいいじゃないか[バーナー]。
でも伸ばす部分が多くて口をかみそうだ。
もうそれじゃぁ、バーナビーのままでいいじゃないかとまで思い始めてしまう。
それより、[赤いの]とか、[ウサギちゃん]とか心の中で呼んでたけど、あっちのほうが呼びやすい気がしないでもない。
あ、[ウサギちゃん]でいいか。
虎徹もウサギちゃんって呼んでたし。
よくはねるし。
スーツだってウサギみたいに耳あるし。
うん。ウサギでいいな。
ウサギなら、バニーだよな。
お。バーナビーとあわせて[バニー]って、いい感じな気がする。
あ……。
いや、やっぱり[バニー]はやめておこう。
なんか、ウサ耳網タイツのバニーガールしか浮かばないし。
ウサギいといえば、ラビット!
うん。[ラビー]とよぼう。


『あー…あれからどれくらい寝てた?』
「凄い衝撃でしたからね。それほど時間はたっていませんが、この像、また止まってしまって」
『……っで、なんで能力使わないんだ?』
「それは」
『そういえばオレもお前も制限が五分だったな。しかたねぇーなぁ。オレが能力を使って抜け出すから、お前はあとまでとっておけよ[ラビー]ちゃん
「え。あ、はい。って、え?“らびー”って?え?“バニー”じゃないんですかぁ!?」
『……えーー。なにおまえ。能力で抜け出すことより、呼び名の方が気になるの?え?バニーガール志望なの?おじさん、ちょっとお兄さんの網タイツ姿は見たくないかなぁ』
「!?あ、あみ…。バニーガールは僕だって嫌です!!」
『じゃぁ決定な!ウサギみたいにとぶし、そのスーツ、耳あるからお前“ラビット”ってよぶからな』

はぁぁぁーーー!!!っと気合を入れて、能力を発動して、いっきに像の腕を破壊し、「ウサギちがいでバニーガール…いやだそんなの」とドンヨリとした空気をまといながらなにやらブツブツとつぶやいているラビィをとらえている腕も破壊し、あいつが向かっているだろう方を予測してワイヤーを取り出した。

『ほら!いくぞラビーちゃん!!』
「あ、ああ、はい。ちゃん付けは原作と変わらないんですね!」
『なにごちゃごちゃいってんだよ!いくぞ!!』

像の腕に捕えられるまでとは逆のテンションになってしまって、今度は鬱な相方をオレがひっぱっていくはめとなった。
おいおい、バニーガールがそんなに衝撃だったのかよ。
なんだかCMやらTVやらいたるところで名を売り始めているイケメンな普段のラビーちゃんとは違いすぎて、こんな鬱な姿を民衆の皆様に見せていいのだろうかと思わず・・・対処にこまってしまった。








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