01.医者と患者の関係 |
生きたいのならこの手をつかめと―― その目つきの悪い医者はオレに言ったんだ。 side [有得] 夢主1 その日は船内ならなんとか、者に触れることも人に触れることもできるようになったころ。 買い出しに行くと、めずらしく船長であるローまででかけるというので、パニックになったオレがついていくと言ったのだ。 けれど仲間たちはオレが小さいからって、みんなは危ないからって船にいろと言う。 『ヤダ!』 「残れ」 『やだったらやだ!』 「お前は島にはあげられねぇ」 「留守番だ。おいていくけどいい子にしてろよ〜」 ・・・おいて、いく? 「そうだぞアザナ。今日はキャプテンの言うこときいとけって!」 「アザナさんみたいな小さなやつは、すぐにさらわれちゃうんだぞー」 『ヤダ!』 ひとり? また――“その隙”を突かれたら、オレはどうしたらいい? ひとりになったとたん、また世界に拒絶されて消されたら。 オレには無理だよ。 あの絶望をもう一度味わうの? そんなの…イヤだ。 『行く!!』 「ダメだ」 『イヤだ』 船には留守番がいるから、ひとりじゃないのはわかる。 でもオレを拾ってくれたのは貴方だ。船長。 あんた、なんだよ。船長。 その貴方がオレから手を離して、オレを置いていくという。 いかないでほしくて。 世界において行かれることになりそうな。 ひとりがこわくて。 “失うこと”がなによりも怖くて―― 船を降りようとした船長の足にしがみつく。 船長がくっついているオレをみて、眉間に皺を寄せて睨んでくる。 普段から悪人面の凶悪さが増す。 「歩けねぇ。邪魔だ」 『ヤダ!』 振りほどかれそうになったけど、嫌なものだは嫌だ。 またあの恐怖が来るのが怖いんだ。 ひとりがこわい。 だけどそれより、せっかく手に入れた温もりなんだ。それを失うのが嫌だった。 オレの居場所。 あんたがオレの居場所なんだ! あんたが側にいないと、オレはどうしたらいいかわからなくなるんだ。 オレに生きていいと言ってくれたのはあんただ。 あんたは医者として、オレを生かすと言った。 オレを殺すためにやってくる病気は“世界”。オレが世界にとっての異物だから、消されかねないというもの。 ローはそれから手が届く範囲で守ってくれると言う。 生きたいと望んだオレに重なった手は、それだけでオレを勇気づけてくれて、光へと導いてくれた。 たぶんオレはひとりにされたら、さびしくて死んでしまう病で。 そのオレを《生かす》といってくれた名医たるこの悪人面の船長と、大切な仲間の一人がかけても…寂しくて死んでしまうんだろう。 そのときこそ世界は、オレに牙をむくのかもしれない。 死なないでみんなで笑って生きようよ。この先の未来を一緒に見よう。 そんでもって。オレも生きたい。死なせないで。 だから、ひとり。置いてくなんて言わないで。 放置すんなよ。 責任とれよ。 あのとき、雪の中でのばされた腕。 船長の手の中だけが、オレが世界に許された場所なんだ。 「アザナサン。キャプテンはすぐに帰ってくるから」 『それでも一人はイヤだ!オレが死んでもいいのか!』 本当にこの手を離したら、オレはショック死するかもしれない。 そう訴えて首を横に振る。 こんなやりとりはこの船に乗ってから何度もあった。 もう。大丈夫だから。 怖がらないから。 迷惑かけないから・・・ 「おい」 『へ?』 船長も諦めたように深く溜息をつくと、オレの首根っこをつかんで持ち上げて、ベポの方に放り投げる。 放り投げられたぁ!? 「ベポ。こいつみはっとけ」 「アイアーイ。了解キャプテン」 置き去りはダメ。 それは――たった一人で留守番するという意味ではなくて。 先に死なないでほしいってこと。 オレを置いて死んでほしくないから・・・。 死ぬのならオレの見ている前で逝ってくれ。 だから―― 『………置いてかないで』 「いかねぇよ。連れてく代わりにベポにしっかりくっついてろ」 オレも一緒にいけることになった。 よし!粘り勝ちだな! ――結果、こわくて地面に足が下せませんでした(笑) 精神ダメージが思いのほかひどすぎて、みんなの邪魔してるだけで精一杯で、“外”のものと触れるだけで息が止まりかけた。 クルーでない他人に触れられただけで、震えが止まらなくて、錯乱しかけ、あっさり船に戻された。ローのあきれたようなため息つきで。 結論としては、当分船の外にでることを先延ばしにされました。 * * * * * オレの名は 字(アザナ)。 一度死んで、そうしてまた生まれなおした経験をもつ、転生者という奴だ。 けれど二度目の生をうけた世界は――すでに完成されたシナリオが存在した。 それを《原作》と呼ぶことができる。 オレはその《原作》には含まれないイレギュラーな存在だったため、それが始まる前に、世界に干渉することを拒否された。 否、そこで生きることを拒絶された。 世界がオレを嫌って【HUNTER×HUNTER】世界から切り捨てられた。 オレがたったひとりになるのを世界は狙っていた。 待っていたように、すべての門戸がとざされ、光を失い、暗闇だけが広がる空間に突き落とされた。 そうして別の世界へと落された。 目が覚めたら、雪の降る街の中。 河原の側にゴミかなにかのように転がっていた。 空気から、肌で感じるものから、世界そのものが違うのをすぐに理解した。 動きづらいのは世界を超えた影響かと、すぐそこにあった川を覗き込めば、体は2歳ぐらいまで縮んでいた。 赤ん坊といってもいいような幼さに驚くも、まだ体が残っていたのは運がいい方だろうと、なぜか逆に納得してしまった。 現状の有様に、あの世界はよっぽどオレが嫌いだったのだと知る。 オレが“生きていた全て”を消そうと、肉体の時間さえも奪い取るとは。 本来なら、そのまま生まれる以前まで戻して、存在そのものも“はじめからなかったもの”として消すはずだったのだろう。 そうしてあの世界は《原作》どおりの決められたシナリオを、たどりなおすはずだったのだろう。 そう、理解して―――あまりの世界からの嫌われようにおかしくなって、なぜだか腹の底から笑いがこみあがってきた。 どれだけ笑っても。 笑っているのに楽しくもなくて、ただ泣きたいような気分になっていた。 けれど感情とは裏腹に、出もしない涙にそういった機能までうばれたのだろうかと、気分が覚めてくると笑いの衝動も引っ込む。 もう、どうでもいいかな。 ぶかぶかになった服をひきずって、橋下の壁に寄りかかる。 このまま“迎え”を待とうかと、考えることさえ放棄して、“そのとき”がくるのをじっと待つことにした。 誰にも気付かれないように橋の影に身をひそめていたのに、オレに気付いたやつがいて。 そいつは医者だと言った。 あの悪人面で。 そいつがここは《グランドライン》と言ったので、この世界もまた《原作》が存在する世界なんだってすぐに気付いた。 前世の記憶から、あっちは【HUNTER×HUNTER】という漫画の世界だった。 ここはどうやら同じ週刊雑誌に連載されていた【0NE-PIECE】だ。 《原作》があるってことは《決められたシナリオ》が存在するってこと。 どうせこの世界も“いつか”がくれば、オレを捨てるのだろう。 あの世界のように。 ならば。 もう何もいらない。 いつ、歴史から、人の記憶からさえも抹消されるかもわからない存在なんだ。 だったらはじめから消えるなら、はじめから何もいらない。 でも。 そんなオレを悪人面の医者は「生かす」と言った。 初めてそんなことを言われて、あまりの嬉しさに、伸ばされたローという医者の手を思わず取っていた。 伸ばされた手をつかみ返したら、すごくあたたくて。 ああ、これが生き者の温もりだったのか。と、改めて感じた。この手はこんなにやさしいんだって。 それほど昔のことでもないのに、人肌が懐かしく思えて―――そのとき初めて涙がでた。 悲しくもないのに溢れ出た涙はとまらなくて、 そのまま鼻水と涙でぼろぼろの顔のまま「うえうえ」言いながらローに俵田抱きされてお持ち帰りされた。 拾ってくれたローは、医者だけど、ハートの海賊団の船長だった。 そうしてオレはハートの海賊団の一員になったんだ。 あれから精神錯乱状態で、ロー以外の人間にも触れられないし、食べ物もうけつけないし。 とにかく“この世界のもの”がこわくて、ローにつきっきりで看病された。 ようやくクルーになれて、船の上なら足をつけても怖くなくなるまでには、とんでもない時間がかかった。 今回は外に出るのに、失敗したけど。 次こそは、って、思う。 ――つぎからは。 なんて言ったはいいが、船の入り口にしがみついたまま、怖くて足が一歩も前に進みません。 おかげで、今、後ろにクルーがつまっています。 背後から「はやくいけー!」と声が聞こえるが、扉にしがみついた手が離れません。 すいません!無理です!!! そこでため息ついてる船長!やめて!オレの指に手をかけないで!!!!! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! |